星組初日の後は急いで梅田に向かいました。予定が詰まっていてこの日しか行けなかった舞台
「マスタークラス」
作・テレンス・マクナリー
翻訳・黒田絵美子
演出・森新太郎
【出演】
マリア・カラス:望海風斗
ソプラノ1:池松日佳瑠
ソプラノ2:林真悠美(藤原歌劇団)
テナー:有本康人(藤原歌劇団)
道具係:石井雅登
伴奏者:谷本喜基
スウィング:岡田美優(藤原歌劇団)、中田翔真
《東京》世田谷パブリックシアター
2025 年 3 月 14 日 (金) ~ 23 日 (日)
《長野》まつもと市民芸術館 主ホール
2025 年 3 月 29 日 (土) ~ 30 日 (日)
《愛知》穂の国とよはし芸術劇場 PLAT
2025 年 4 月 5 日 (土) ~ 6 日 (日)
《大阪》サンケイホールブリーゼ
2025 年 4 月 12 日 (土) ~ 20 日 (日)
才能に奢らず訓練を怠らず、そう⻑くはない生涯の中で栄枯盛衰を味わい、後世の歌手に多大な影響を与えたマリア・カラス。
現役引退後も彼女は実際に米ジュリアード音楽院にて次の世代の育成に努めました。1996 年ブロードウェイ初演以降、世界各国で上演されている本作。オペラファンであり、カラスの大ファンでもあったアメリカを代表する劇作家テレンス・マクナリーが、ジュリアード音楽院で行われたカラスのマスタークラスの講義録をもとに、カラスの栄光と挫折の人生を描いた作品。
1996 年度のトニー賞・最優秀演劇作品賞を受賞。日本では黒柳徹子主演にて 1996 年、99 年にパルコ劇場が上演し、話題となりました。
この度世田谷パブリックシアターにて、26年ぶりの上演となります。偉大なマリア・カラスを舞台上に蘇らせようと今回挑戦するのは望海風斗。そして演出を手掛けるのは森新太郎。この作品を通して学びを得るのはマスタークラスの生徒だけではなく、それを共に目撃する観客なのではないでしょうか。
STORY
世界中のオペラファンを虜にした、20世紀最大の歌姫〈プリマドンナ〉マリア・カラス(望海風斗)。
引退後のカラスは、ニューヨークの名門音楽学校のジュリアード音楽院で、若きオペラ歌手たちにマスタークラス〈公開授業〉を行う。
授業では、ユーモアを交えつつ、的確だが辛辣な言葉で、芸術に向き合う術〈すべ〉を惜しみなく伝えてゆく。生徒の歌声を聴くカラスには、過去の輝かしい舞台や想い出がよみがえってくる。
愛を求め、挫折を乗り越え、芸術に人生を捧げたカラスの秘めていた過去が、解き明かされてゆく
(公式より)
ピーチケの宣伝映像を見て興味を持ち軽い気持ちで観に行ったのですが・・・これが凄かったです
まず私達はマスタークラスを受講する生徒を見守る観客の立ち位置なのですが、だいもん(望海風斗さん)演じるマリア・カラスが袖から登場して
「拍手はやめて。レッスンなのですから」
と言うところからスタート。
照明の話や音響の話を始めて少し客席を弄りつつ、どんどん劇場をマリア・カラスの世界に染めていきます。
セリフ量が多いことは事前情報やインタビューで知っていたのですが、そこからのだいもんのセリフの多さにも滑舌にもビックリ。
途中でマリアとしてのセリフなのか望海風斗が話しているのか分からなくなるくらい自然なお芝居が続きました。イタリア語(多分)も沢山出てきてスラスラと話し訳詞を添えるだいもんがすごい。
生徒役の皆さんの演技も相まって「舞台を観に来た」感覚から「授業を覗いている」感覚に次第に変わって全部の神経が目の前で起こっていることに集中するあの空間が本当に心地良かったです。
なんなら途中からふかっと柔らかい劇場の椅子から学校の硬い木の椅子に変わった気さえしてピンッと身体が張り詰めるのも感じました(笑)
マスタークラスでは歌のレッスンを行いますが、その心構えやエピソードを交えて饒舌に語るマリアの言葉はこちら側にも刺さって覚えておきたいな、と思う言葉がたくさん!
舞台を観るのが好きな私には舞台人としての構えを説くマリアの姿に舞台人だいもんの姿も重なってより言葉が力強くなるように感じました。特にニュアンスで印象に残った言葉は
・観客はあなたの頑張る姿を見に来たんじゃない
・緊張するのは準備不足だから
・涙は何の武器にもなりません
・観客は敵、あなたが支配しなきゃ!この瞬間にはこの歌い方しかないんだって観客自身に思わせるのよ
・芸術に近道はないのが日常と違うところ
・ここにいる人達(客席)誰一人パッとしない
・登場があって退場があり、その中に芸術があるんです
という強い言葉でした。
それから受講者の1人が怒って退出した時に残されたマリアがポツリとこちら側に語りかける
「彼女は『マリア・カラスになって歌え』って言われたと思ったのね」
というセリフも。この辺りの言葉に嫉妬や重圧に耐えてきたマリアの現役時代の苦労が窺えます自分が失敗するのを楽しみに観に来ているライバルとか普通はそれだけで尻込みするものですよね
この日は座った位置が1階席下手側だった為、上手側に座り受講者を睨みつけるように視線を送るだいもんの横顔や眼差しがよく見えてそれがとっても良かったです。
歌うことはエネルギーが必要なことだとは言いますが、だいもんの視線を見ていて感じたことはとにかく「表現することとは、自分のエネルギーを削って空間を操ること」というのが伝わってその鋭い表情や指導の為に時々歌ってみせる様子がすごく苦しくて
その姿に既視感を覚え・・・ふと宝塚の退団公演で観た表情を思い出しました。
2021年2月7日の前々楽を2階最前列で観たのですが、その時にセンターに立って歌うだいもんがまさしく同じ表情で歌っていたなぁと。
初日から何度も通った舞台なのに、あの日は特にルートヴィヒ(ベートーベン)の心情を歌う様子が苦しくて苦しくて、観ているだけでこちらの表情が歪んだことを今でもハッキリと覚えています。ついでにあーさ(朝美絢さん)との面白かったあの日のアドリブも(笑)
実際のマリアの歌声に合わせて舞台上の光が落とされて、一つ一つ言葉で歌の物語を説明する1幕のラストは「私は勝った!!」と手を広げたその高揚感がこちらにも届いて本当にだいもんに役が憑依したようでした。
そのまま休憩に入るまでのテンポも心地よく
この重厚なお芝居は観ている側もエネルギーをグッと消費するので演じているだいもんのパワーはなんとすごいのでしょう
オーラは前から出るから胸を張っていないとダメ!なんて昔聞いたことがありますが、本当にこの役のだいもんは身体の前方から役を演じるエネルギーやこれまで積み重ねて来た努力や演者としての自信がバーン!と出ていてセリフ全部に説得力がありました。
途中1人で男女2役を交互に演じ分けたシーンも男役時代に鍛えた声や仕草の演技が素晴らしかったですあの少しのやり取りだけで男性側の不誠実さといずれは裏切られる悲しいラストが伝わってしまいますね
カーテンコールの後は貸切公演のご挨拶。
e+公演のキャラクターであるプラみちゃんとノゾみちゃんのパネルが並ぶ中マリア・カラスがまだ抜けきらないだいもんのトークはとても面白かったですし、マリアの写真をセンターにプラみちゃんとノゾみちゃんのパネルが並ぶ様子は客席側から見てもシュールで笑えました
「ついにe+の貸切じゃなくて”プラみの貸切公演”となった第1回目にお越し頂きありがとうございます。」
と挨拶した後に
「ですがこんな素敵なお話ですから私がふざけるのは
もう今日は私とプラみの事はここに置いて帰ってもらって・・・プラみもそれで良いって言ってくれてると思います。あなた達がどう受け止めるかが大事だから(笑)」
と舞台の言葉を紡ぎつつあくまで主役はマリア・カラスとした上でのご挨拶でした。最後はパネルのプラみちゃんにハイタッチするように手を合わせるだいもんが可愛かったです。
↑貸切公演らしい撮影スポットも。
↑よく見たらノゾみちゃんの方にはだいもんのサイン付きでした。
物販は確か最初はトートバッグだけ売り切れだったのに幕間にはパンフレットも売り切れになっていました。
おかげで帰ってからネットであれこれ調べてだいもん以外の役者さんのお名前を知りまして、池松日佳瑠さんのお名前を見てびっくり!
俳優の池松壮亮さんのお姉さんで確か姉弟で福岡のライオンキングに子役として出演されていましたよね。
この日は宝塚大劇場でも良いものを観たなぁと心地良くブリーゼに来ましたが、ソワレのマスタークラスもとっっても良くて
バタバタはしたけれどどちらも観られて幸せです。
【望海風斗】苦しんで闘い抜いたカラスの言葉は現代を生きる人々に突き刺さるはず
やっぱり良い舞台は心の栄養になりますね
客席が静まり返って息を呑むほど集中するのが心地良くて、帰りも暫くはぼーーーっとしながら歩きました(笑)
頭の中全てが今日観たもので満たされる感覚はやはり特別なもの(´∪`*)
楽しい楽しい・・・と1人で幸せに浸りながらゆっくりと現実に戻っていく土曜日の夜でした。