戦車の操向装置(ステアリングシステム)
後輩から90式戦車の超信地旋回ってどうなってるのという質問が来たので簡単?に説明する。
判らない場合は「遊星歯車機構(プラネタリーギヤ)」の仕組みを調べること。
ハイドロスタティック ステアリングシステム【出典:装軌車両の参考(武器学校)】
参考にスイスのPz61の操向装置の図を利用する。
① エンジン駆動軸
② 減速ギヤ
③ 油圧ポンプ/モータ
④ 変速機(トランスミッション)
⑤ 再生歯車(遊星歯車:プラネタリーギヤ)
■ 走行時
※駆動系は片側のみを着色
① トランスミッションからの出力は遊星歯車機構のリングギヤ(赤色)を回転させる。
② 遊星ギア(オレンジ)とサンギヤ(青)も友回りしようとするが、サンギヤ(操向系)は片側に逆転ギヤが組み込まれているため固定状態となる。
③ 結果、出力は遊星ギヤのキャリアから起動輪へ伝えられる。
※操向系が固定されることでデフロック状態となりディファレンシャル(差動機)の抱える欠点である路面の左右抵抗差による直進時のふらつきは無くなる。
■走行時の操向操作
例えば10の速度で走っているとする。操向ハンドルを切ると油圧モータが作動しステアリングシャフトが回転する。
この時2に相当する速度が出たとすると、片側は合成出力が2増加するるが、反対側は逆転ギアにより逆転するため合成出力が2減る。
これにより左右の速度差が出来るため旋回するのである。
■停止時の操向操作
停止時は通常ニュートラルギヤである。
この場合、エンジン出力は操向系のみが出力することから左右の回転方向が逆となり、超信地旋回ができる。
ニュートラルステアリングとも呼ばれる。
74式戦車ではクラッチを踏むことでも可能である。
ただし、路面の抵抗差があるとディファレンシャル効果のために抵抗が少ない方へ動力は流れ、極端な場合は片側履帯が停止した信地旋回状態となる、
しかし、前進方向の信地旋回なのか後退方向なのかを選ぶことはできない。
ディファレンシャル効果を無くすためにはメインシャフトを固定すればよい。自家用車などのパーキングポジション(トランスミッションロック)と同様の機構を付けると強制超信地旋回が可能となる。
時間がなく雑なまとめであるが以上である。
いずれ手直しするつもりだ。
戦車射撃の種類
先の記事に関連して戦車射撃の種類について説明する。
戦車の射撃には次の種類がある
① 停止間の射撃
② 前進間の射撃
③ その他の射撃
■ 停止間の射撃
停止射は前進間の射撃が出来ない場合、またはその必要がない場合に行う。
待ち伏せや射撃支援などで使用するが、一地点での長時間の射撃は行ってはならない。
■ 前進間の射撃
前進間の射撃には「躍進射」と「行進射」がある。
前進間の射撃は先に敵を発見して速やかに撃破したり、敵の射撃等を受け速やかに応射し撃破する必要がある場合に行う。
躍進射は停止直後、速やかに射撃する。直ちに停止し射撃する場合と射距離や地形の状態を判断して車体遮蔽などができる有利な射撃位置に停止するよう操縦手に指示する場合がある。
行進射は、躍進射では間に合わない場合や停止することなく前進する必要がある場合などに行う。
直行行進射、斜向行進射、横行行進射、蛇行行進射、後退行進射などがある。
■ その他の射撃
「稜線射撃」「夜間射撃」「戦闘照準射撃」及び「間接照準射撃」がある。
稜線射撃は丘陵等の地形の特性を生かした射撃要領である。稜線後方の全体遮蔽位置で射撃準備を行い、砲塔遮蔽位置で敵を確認したならば速やかに車体遮蔽位置に前進し射撃を行うものである。姿勢制御のできる場合は俯角の増大を図る等、有利な射撃姿勢とする。
夜間射撃は暗視照準装置を使用した射撃方法であり、それぞれの暗視装置の特性に応じた射撃要領となる。
照明弾により敵位置が照らされている場合は昼間射撃と同様である。
戦闘照準射撃はあらかじめ指定された距離を照準器に設定しておく射撃方法である。
米軍射撃教範「TANK GNNERY(ABRAMS)」では戦闘照準(Battlesight:バトルサイト)は1200mと指定されている。
間接照準射撃は水平方向(方向角)を設定できる方向角指示器及び垂直方向(高低角)を設定できる象限儀(しょうげんぎ)を用いて砲に射撃方向及び射角を設定し視程外目標を射撃する方法である。
令和2年 師団戦車射撃競技会(90TK射撃概要)
90式戦車小隊は3つの射撃状況が付与された。
第1状況【稜線射撃】
第2状況【躍進射撃】
第3状況【行進射撃】
射撃方法の概要
第1状況
稜線射撃
稜線射撃は戦車射撃の基本体勢である。
敵から車体部を稜線に隠し砲塔のみを出した車体遮蔽の状態で射撃する。
第2状況
躍進射撃
躍進射撃は攻撃前進間における短時間の停止射撃だ
資料によっては「短停止射」ともよばれる
第3状況
行進射撃
走りながら射撃を行う射法である
「行進間射撃」「走行間射撃」ともいう。
実 施 概 要
全 般
射場には4つの台及び3つの統制線(PL:Phase Line)が設けられている
発進位置から縦隊で前進した戦車小隊は4つの台の後方にそれぞれ前進
戦車小隊の標準的な縦隊隊形は2車、1車(小隊長)、4車(小隊陸曹)、3車の順番であり、米陸軍と同様である
米軍教範「TANK PLATOON」2019年7月版より
第1状況
① 上級部隊(中隊)より偵察隊より得た情報が通知される
② 稜線下(全体遮蔽位置)で命令の捕捉及び戦闘用意(射撃準備)を実施
③ 砲塔遮蔽位置に前進し、警戒(稜線視察)を実施
④ 敵を発見したならば車体遮蔽位置に前進し射撃を実施
⑤ 射撃後、速やかに砲塔遮蔽位置に後退し警戒
⑥ 敵の撃破及び後退の確認により躍進を準備
第2状況
① 特科に支援射撃要求
② 最終弾を合図に左右の台から班縦隊で進出
米軍教範「TANK PLATOON」2019年7月版より
③ 第1統制線(PL-1)までに横隊に展開
④ 第2統制線(PL-2)までに敵が現出する
⑤ PL-2において停止、速やかに射撃(躍進射撃)
※砲腔内及びALS(自動装填装置内)に対戦車榴弾(HEAT弾)の残弾がある場合には残弾処理
⑥ ミサイル攻撃を確認したためPL-1まで全速後退し回避
第3状況
① 特科に支援射撃要求
② 最終弾を合図に一斉前進
③ 第3統制線(PL-3)までに各種敵が現れる
④ 各目標に対し徹甲弾(実際には演習弾)及び連装銃(同軸機関銃)の射撃を行う
⑤ PL-3において停止
※砲腔内及びALS(自動装填装置内)に演習弾(TP弾:Target Practice)がある場合には残弾処理を特別状況で行う
状況終了