渚のバルコニーで…
久蔵が目覚めたのは確かに西浦邸のバルコニーだったが、そこは真冬の硝子張りバルコニーではなく、真夏の古い邸のバルコニーだった。
(懐かしいな、これは
タイムスリップってヤツだな
本を読んでいたのか)
読書中にうたた寝をしていたようだ。
続きを読んでみた。
(盗み聞きしているヤツがいる❓️……
なるほど修行僧が鹿に
教えられているわけか……
読んだことない本だな……
ということはタイムスリップ
ではないのか……
なんだか頭が痛くなってきた……)
頭が割れるような激しい頭痛とともに、いろんな映像が走馬灯のように、映し出されていった。
『久蔵さん、頭が痛いのはあなたの脳があなたが今いる世界に合わせて大急ぎで記憶を創っているからですよ』
(この声は杉井さんの声だ…)
杉井のいう情報を共有するとはこういうことなのだと久蔵は理解した。
今いる世界にあわせて、たった今創られた記憶によると、今読んでいる本は小野ユキの3作目で20年ほど前に発行されたが通常のルートでは手に入れることが出来ない"平和泉"であった。
小野ユキから直接贈られてきて驚いていたというのがうたた寝する直前の今創られた記憶らしい。
(なるほど、この鹿は蔵人さんなのか
そして鹿との極私的な話を
狸寝入りで盗み聞きしていたヤツが
普遍的な例え話と勘違いして大々的に
弘めてしまったために歪んだ世界になった
だから声に出すなと言ったわけだな…)
久蔵は"平和泉"に触れるだけで小野ユキと蔵人の情報が頭に入って来た。
そして付録の年表を開いてみた。
(なるほど、元いた世界の
出来事が書いてある…
ん❓️さっき創られた記憶のなかに
金色のお寺の焼失はない
ということは
ということは
東雲という青年がバケツで…
それはともかく、やはり
別の世界ということか
元いた世界の記憶が残っていなかったら
わからなかったな…
ところで今日は何年の何日だ❓️)
久蔵は辺りを見回したがカレンダーの類は見当たらなかった。なんとなく付録の年表をめくると最後のページに便箋が挿まれていた。
「久蔵さんお元気❓️
あなたからのお便りを待っていたけど
まだこの世界に来てないのかしら…
一応元いた世界であなたと初めて会った
ヨットハーバーで待っています
あなたの30歳のお誕生日8月25日に
おフジさんと一緒に来てね
小野ユキ」
と便箋に書いてあった。
(今日はいったい何日なんだ❓️
ん❓️おフジさんと一緒に❓️)
久蔵には、今の認識がまだ確かでないようだ。
『お~い、来たぞ〜、久蔵降りてこいよ』
懐かしい声で呼ばれた。
久蔵を呼んだ声の主は久蔵の父、久太郎だった。父の声がする駐車場をバルコニーから見下ろすと、カバーがかけられた自動車を載せたトラックが到着していた。
(あっ、おフジさんだ❗️なんで⁉️)
カバーがかけられていても特徴的な美しいシルエットでおフジさんだとすぐにわかった。
久蔵は急いで階段を降りて"おフジさん"のもとへ駆けつけた。
『お父さん、このクルマ買ったの❓️』
『そうだよ、誕生日のプレゼントだ
間に合ってよかったよ』
『すると、今日は僕の誕生日かい❓️』
『何言ってんだ、寝ぼけてるのか❓️』
久太郎は久蔵の頬をつねった。
『痛たた❗️夢じゃないんだね』
『泣く奴があるか、30にもなって』
久蔵は嬉しさのあまり涙ぐんでしまった。
父に再び会えたことが何より嬉しかった。
『お父さん、ドライブ行こうよ
会わせたい人がいるんだ』
久蔵は勘違いされそうな言い方をしてしまったと思ったが
『やっとそういう人が……
そいつは嬉しいね
母さんも連れて行くか❓️』
案の定の久太郎だった。
『このクルマ2人乗り……』
母も健在であることを知り、久蔵は涙を堪えることが出来なかった。
つづく
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