銀の宇宙人

『タンジョウビオメデトウ』

銀色の巨人は言った。

『アナタハコレカライチニチニハツカワカガエル』

と言いながら額から緑色の光線を、売れない俳優、源 蔵人(みなもと くろうど)めがけて発射した。

『イッテルコトトヤッテルコトガ…』

と叫んでいる自分の声で目が醒めた。

『ユメカ』

宇宙人訛りになっている自分の役者魂が誇らしかった。

『1日20日若返る?』

ということは1年で20年、2年で40年、再来年には20歳の若者か?

『いいねそれ、こいつぁ朝から縁起がいいわぇ』

と歌舞伎の真似をしながら起き上がると枕元に1枚の写真があった。

赤い服を着た美しい女性が写っていた。

『誰?20歳くらいかのぉ?それにしてもべっぴんさんじゃのう』

蔵人は写真を見つめお国訛で呟いた。

銀色の巨人が置いていったのかも知れないと思った。

『観音様じゃ』

写真に手を合わせた。

『ありがとうございます』

どう理解すればよいかわからなかったが、毎朝散歩がてらお詣りしている観音様にお礼を言いに行くことにした。

『まだ4時か』

いつもより3時間ばかり早いが、善は急げ、出かけることにした。

『寒っ』

冬至の前日の朝は寒くて暗かった。

「午前五時開門」

時計を見るとまだ30分ある。

じっとしていたら凍死しそうなので、散歩しながら時間を潰すことにした。

少し歩いたところに小さな神社があった。

「△★〇※神社」

何と読むんだろう?漢字のようだがちょっと違う。こんなところに神社あった?

『いつも通る道なのに未知の道』

頭の中で駄洒落を呟きながら、何と読むかわからない神社の鳥居をくぐった。

御手水に水は無かった。

安心する自分に少し罪悪感を抱きながらお社を見ると先客があった。30歳くらいの男性が御神前に手を合わせていた。

しばらくして男性がお祈りを終えて、こちらを振り向いたので

『おはようございます』

と挨拶しながら男性の顔を見た。

『え?』

『杉ちゃん?』

その男性は同じ劇団にいた旧友杉井繁夫だった。

彼は入団同期で年も同じで誕生日が10日早かった。二人で夢や演技についてよく語り合った親友だった。しかし蔵人がメジャー映画の大きな役に抜擢されてから次第に疎遠となり30年以上音信不通の行方不明になっていた。それでも蔵人がすぐにわかったのは、その男性が若い頃の杉井繁夫そのままだったからだ。

『クロちゃん?』

蔵人とは対照的に杉井は、蔵人と認識するまで少し時間がかかった。

『そうそう、びっくりするぐらい変わってないなぁ』

次の杉ちゃんの台詞を想像して、蔵人は冷汗をかいていた。

『クロちゃんも…』

少し間をおいて

『相変わらず男前だね』

苦しそうに、杉井は言った。


話題を変えよう。

『どうしてここに?』

とりあえず言ってみた。なんとなく思い出話は避けたかった。

『実はこの近くに、店を出すんだよ』

杉井は嬉しそうに言った。

『なんの店?』

蔵人も嬉しそうに聞いた。

『セラピーのお店』


『セラピーって?オイル塗ってマッサージしたりするヤツ?』

蔵人は羨ましそうな顔をして訊いた。

『残念ながら、クロちゃんが今想像したような、女性の身体に触れたりするようなヤツじゃなくて、老若男女問わずメンタルな部分を癒すお店』


『メンタルねぇ』

『で、どんなことするの?』

女体の夢が潰えて、どうでもよくなったが一応聞いてみた。


『試してみる?お店はすぐそこだから、時間ある?』

時間はいくらでもあった。

断る理由はなかった。

『ジカンハアルアルヨ』


                つづく