鹿に説法
(なんだこの鹿たちは❓️)
泉からバルコニーへ戻るはずだった蔵人はなぜか森の中の鹿の群れの中にいた。
群れの中心には泉が湧いていて、その周りにボロ切れを繋ぎ合わせた黄褐色の布を体に巻き付けた六人の青年が横たわっていた。
『この人たちは死んでいるのか❓️』
一頭の鹿がそう呟くと青年の一人が目を醒まし身体を起こして胡座をかいてその鹿を見つめた。
『あんたたちが時折見せてくれる
半分寝て、半分起きているような
気持ち良さそうな様子を
真似しているうちに
うっかり寝てしまったんだ』
覚醒めた青年は鹿に語りかけた。
『なんだ、生きていたのか…
なるほど俺たちの真似か……
そんなに気持ちよく見えたかね』
鹿は黙っていたが蔵人には鹿の声が聴こえたような気がした。
『ああ、とってもね』
『寝てしまったんなら
失敗したんだね』
鹿は残念そうに言った。
『まあね、でも面白い夢を見たよ』
『どんな夢❓️』
『話せば長くなるんで掻い摘んで言うと
川の辺で川を渡ろうする人を
思いとどまらせていたんだ』
『思いとどまらせる❓️
その川を渡ると
何かマズいことがあるの❓️』
『ほっといても良かったんだけど…
死んだらみんな渡る川がある
という話を聞いて
どんなものか知りたくてね
行ってみたんだ
ちょうど舟で渡ろうとしていた人が
いたから乗せてもらったんだよ
向こう岸に着くまでに
一緒に乗ってる人…
というかその舟はその人が作った舟で
その人が舟を漕いでくれたんだけど
その人の話によると
人間は死ぬとこの川を渡って
向こう岸にいるなんとか大王
っていうオジサンに
人生の採点をしてもらって
死後の行き先を決めてもらうんだって』
『そんな他人任せでいいのかい❓️』
『そうだよね、やっぱりそう思う❓️
その人、渡してくれる舟があると
思っていたんだけど
無かったから自分で作ったんだって
どうやって作ったかは
知らないけど…』
『それで行ってみてどうだった❓️』
『向こう岸に渡ってみたら
反対岸とあんまり変わんなかったんだ
なんとか大王もいなくてね
その人ガッカリしてたよ
かける言葉がなかった…
どうしていいかわからなくて
キョロキョロしてると
川に浸かっている人が目についたんだ
あんたたちみたいに
半分寝て、半分起きているような
気持ち良さそうな顔して浸かってた
あんまり気持ちよさそうなんで
そのガッカリしてる人と一緒に
浸かってみたんだ
これがスゴーく気持ちよくてね
それに温かいんだよ
何もかも忘れて身も心も洗われて
生まれ変わったって感じだったよ』
『その川に浸からずに船で
渡ってしまうなんて勿体ない話だね
それで渡らないように
思いとどまらせていた
っていうわけか…
何もかも忘れたいんなら
そこの泉の水を飲んでごらん
同じような気持ちになるよ
たぶんね…』
青年は鹿の言う通りに泉の水を飲んだ。
『ホントだ、そうだこの感覚だよ
いつも飲んでるのに
こんな感じがしたのは初めてだ
なんでだろう❓️』
『さあね、なんでだろうね…
ところで
ほかの連中はしばらく
起きそうにないね』
『そうだね、こいつらは今まで
自分の身体を痛めつけてきたから
相当疲れが溜まってるんだろう
そっとしといてやろう』
『舟まで拵えて川を渡った人と
同じなのかもね』
『そうだね、こいつらにも
あの川に浸からせてやりたいね…』
『あんた優しいんだね』
『ムダなことが嫌いなだけだよ』
『それで舟を拵えた人は
その後どうしたの❓️』
『川に浸かっているうちに
少し腰が曲がったおじいちゃん
だったのに急に若者になっちゃって
「生き返って我慢してきた
やりたかったことをやるぞ❗️」
って急に張り切りだしっちゃって
「自分と同じように
間違ってここに来る人が
大勢いるだろうから
舟に案山子を乗せて川の真ん中に
浮かべておいてくれ」
って言い残して消えちゃったんだよ』
『舟に案山子❓️』
『そう最初はなんで舟に案山子か
わからなかったけど
言われたとおりに
川の真ん中に浮かべていると
あの舟に乗るにはどうしたらいいの
っていう人が次々と現れたんだよ』
『なるほど、その人たちに
川は渡らずに浸かったほうがいいよ
って教えてあげてたんだね』
『そういうこと
舟を拵えた人が言ってたように
まちがえて
その川にやって来たんだろうね
どうやって来たかは知らんけど…
あんまり面白い話じゃなかったね…』
『そんなことないよ
それで、その川はなんていう川❓️』
『名前❓️なんて言ってたかな…
一途な川❓️…違うな
何途の川だったっけ』
『三途の川だろう』
蔵人が話に割って入った。
『そうだ、三途の川って言ってたよ
あんたなんで知ってるの❓️』
青年は蔵人に訊ねた。
『俺のいた世界ではみんな知ってるよ』
『あんたのいた世界って
あんた、ここの鹿じゃないの❓️』
『鹿❓️俺は鹿なのか❓️』
『そう見えるけど、違うの❓️』
蔵人は鏡を探したが森の中にはなく、水面に顔を映そうと泉に向かって駆け出した。
(あれ⁉️なんで腕が地面に❓️)
蔵人は腕を見た。
(確かに鹿の前足になってるよ
へぇー、鹿にもなれるんだ
こいつぁ傑作だ)
そして泉に顔を映した。
(ホントに鹿だ、立派な角だ
カッコいいじゃん)
『ところであんたはなんで
消えずにそこに残ってたんだ❓️』
自他共に認める鹿になった蔵人が気を取り直して青年に訊いた。
『そんなことわからないよ
夢の中のことだし…
それよりあんたがいた世界
の話を聞かせてくれない❓️』
『俺がさっきまでいた世界では
俺は人間だった
そしてあんたの夢の話に
よく似た話も聞いたことがあるよ』
『えっ❗️そうなの❓️
どんな話か聞かせてよ』
『その前にあんた、声に出さなくても
伝わるから口に出さないでくれるかい』
『いいけど、どうして❓️』
『盗み聞きしてるヤツがいるからさ』
青年は少し動揺しながら頷いた。
つづく
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