"Mental Malnutrition"
『この年からいよいよ
つまらない世界が
本格化したのよ』
『いままで聴いただいただけでも
十分つまらない気がしていましたが
まだつまらなくなるんですか❓️』
『そうよラジオに銀幕がついた
箱のことはもう話したわね』
『家でニュースや映画が見られるって
ヤツのことでしょう❓️
面白そうですけどねえ』
『箱自体はどんどん進化して
色が着いたり
音も綺麗になったり
大きさも部屋の壁一面に映すものから
手のひらに収まるものまで出てきて
面白い装置にはなったけど
映し出されるモノが
お粗末になってきたのよ』
『お粗末ですか……』
『初めのうちは箱の進化とともに
映し出されるモノも進化して
造り物を本物だと思い込ませて
しまうくらいになったのよ
例えば
物語の主人公に嫌がらせをする役を演じた
俳優にカミソリ入りの手紙を送ったり
物語の中で誰かが亡くなると放送局に
お悔やみの電報が山のように届いたり
架空の人物のために本物の涙を流して
本物の脅迫状まで届いたみたいよ
自分の隣で生きている人の苦しみには
気づかないくせにね…
それくらい説得力があったのよ』
『そこまで本物らしかった
ということですか❓️
それがどうしてお粗末に
なったのでしょうか❓️』
『それは作り手に聞いてみたいけど
おそらくその説得力を利用して
何かしようと思ったんじゃないの
たとえば
「1日に必要な栄養素を摂取するには
これだけの食品を食べる必要があります」といって人間の体に収まりそうもない
山盛りの肉や魚や野菜を見せられて
「あなたはこれだけ食べていますか❓️」
と解説者がもっともらしい顔をして
喋ってたら、東雲くんどう思う❓️』
『そんなに食べられるわけないでしょう
それに一日に必要な栄養素って
誰にとってですか❓️』
『そう思うのが自然よね
だけど
「これだけ食べるのは中々大変ですよね」
と相変わらずもっともらしく
同情しているような顔をして喋ったあと
「でも安心して下さい、この小さな一粒に
あの山盛りの栄養が全部詰まっています」
って言うのよ
それから銀幕の隅っこに
米粒みたいな小さな文字で
※個人の感想です
※効果・効能には個人差があります
みたいなことが
書かれていたりしたわ』
『先生、そんなの……
詐欺師の手口じゃないですか
僕たちは、庭で採れた野菜や
配給のわずかな食料でも
よく噛んで味わって
元気に生きていますよ
未来の人は、自分の胃袋の感覚よりも
銀幕の中の山盛りの野菜を
信じてしまうんですか❓️
心の栄養素が不足というより
欠乏していますね』
『上手いこと言うわね、東雲くん』
『あっ、猿田さんいつからそこへ❓️』
4作目の原稿を読み終えた桃子がいつの間にか年表づくりの部屋に入ってきていた。
『50年後の空から恐怖の大王が
降って来なかった……辺りから
その次の年もそうだけど
大騒ぎして結局何も起こらない
そんなことばかりだったの❓️
ユキちゃん』
『本当に何も起こらないのなら
いいんだけど…
大騒ぎしてないことが
起こっちゃったのよ
46年後の大きな地震の時にも
東雲くんには少し説明したけど
20年後辺りから大地震が来ると
騒がれ始めた広大な地域では
相変わらず大きな地震は起きていないわ
75年後までね
その間いくつも他の地域で
大きな地震が起きたの
とくに62年後に起きた地震は
巨大な津波によって
大きな被害が出たけど…
相変わらず予想を外し続けている
地域の防災のことばかり
箱の中で騒いでたわ』
『そんな嘘ばかり喋る箱
誰も見なくなっちゃうんじゃないの❓️』
『それはどうなのか
私にはわかんないけど…
75年後も箱は存続していたから
見る人はいたんじゃないの
お年寄りとか…
そうだ、お年寄りといえば
選挙の投票に行く人が
2人に1人くらいになっちゃったけど
お年寄りは行ってたみたいよ
これも箱が喋ってたことだから
当てにならないけどね』
『……先生、投票に行く人が
そんなに少なくなるというのは
年表を見返して流れを読むと
当たり前だと思います
つまらない世界ですね』
『東雲くん、ただこれは
私が体験した世界の話で
これから起こる未来のことではない
ということは忘れないでね』
『そうでしたね、先生のお話が
あまりにも真に迫っていたので
うっかりその世界に同調してしまう
ところでした』
『桃ちゃんも原稿読み終えたみたいだし
年表づくりは一旦ここで中断しましょう』
『承知いたしました』
『東雲くん、この原稿あなたも
目を通しておいて
いいわよね、ユキちゃん』
『もちろんよ』
『ありがとう、じゃあ東雲くん
静かなところでじっくりとね』
桃子は東雲に原稿を手渡した。
『わかりました、それでは』
東雲は部屋を出て行った。
つづく
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