リメイク版です。加筆修正しようかなぁと思ってたんですけど、いや、どうせなら複数の内容を混ぜて一つにできたらその方が楽しいな?ってなってこうなりました。
リメイク版は語りをナレーションベースにしてます。ナレーションベース苦手なので……
元にした話のリンクは最後に貼るのでもし暇なら読み比べてみてね。大筋は変えてないですが、状況やアドバイスするキャラが変わっていたりしてます。
とある町にある大きなお屋敷。そこはこの国でも有数の財閥の本邸。今の主は館花剛とその妻の館花清良。2人には4人の子供がいて長女の館花六花はファッションデザイナーとして名を馳せ彼女の服をうるブランド『シックスセンス』といえば世の中の人々のあこがれのブランドだ。次男の館花醍と次女の館花麗はハピーレ学園の学生。そして、長男の館花邦義は1番謎が多く、姉の六花の手伝いをしたり家業を手伝ったりと存在は知られているが表には出てこない。28歳の現在も婚約者もおらず浮いた話もない、そんな息子にしびれを切らし、お見合いを持ちかける剛と邦義が喧嘩をしたのは昨晩の話。あまり感情的にならない邦義が珍しく声を荒げたのでその場を解散させ朝から話し合いを持ちかけたのは裏の支配者ともされる母、清良だった。
「まず、二人ともいうことがあるでしょう?」
そうきりだし、2人が頭を下げたのを確認すると、満足したように清良は手に持った扇子をピシャリとたたむと膝の上に手を揃え、愛する息子と向き合う。
「邦義、正直に言います。お父さんは婚約者がいないことを責めているわけではないのですよ。」
「わかってるよ。」
「貴方は六花や醍、麗とは違ってハピーレ学園の出身でないし……夢追学園は偏差値は別格に高いけれど、男子校だったでしょう?貴方、全く恋愛ごとに興味ないみたいだったし、実際遊んでいたのも重原くんだけだったじゃない。」
「……べつに、それはそれで楽しかったし。今も十分……」
「そうよね。そうなのよ。貴方が満たされているなら私はそれでいいと思ってるわ。別に結婚が幸せとも限らないし、恋愛しないのも人生だわ。ねぇ、剛さん?」
「……考えを押し付けた父さんが悪かった…でも、女っ気もないし、出会いを提供すればもしかして、と思ったんだよ。」
「でも昨日の『家族を持つことは人生を有意義にする』は言い過ぎだと私も思ったわ。そんなの決めつけだもの。」
「うっ……ゴメンナサイ。」
「邦義も、いくら自分の生き方が否定されたからとカッとなったのは良くなかったわ。」
「……俺もごめんなさい。」
「…でも、『結婚だけが家族を持つことだと思ってるなら親父は古臭くて吐き気がする』といったからにはその理由があるんでしょう。」
「………」
「えっ?単に父さんへの悪口じゃないの?」
「邦義がそんな暴言簡単に吐く子ですか?」
「……うちのこたち比較的口悪いことあるとおもうけどなぁ……」
「とにかく、無意味な事は言わないでしょ。特に、邦義は。」
そう言って邦義を見据える清良にはすでに答えが見えているのかもしれない。邦義には親にも言えず隠し続けてきたことがある。それはもう9年にも渡る長い秘密で、彼はそれのお陰で家にめったに居ない『レアキャラ』となっていた。それにHanayoshiというペンネームで書くシナリオはゲームや舞台など様々な分野で人気を博し、お金に困ることも一切なかった。だからこそ、剛と邦義の間の溝は埋まらずに少しずつ広がってしまったのだ。邦義は何かを考えるように首に手を置くと観念したように息を吐いた。
「恋人がいるんだ。」
「えっ?ならそうと言ってくれれば…」
「同性の。」
「……え?」
「だから、つまり、彼氏がいるんだよ。」
驚きすぎて言葉が出なくなってしまった剛をよそに、想定の範囲内と言いたげな清良は優しく笑いかけると邦義の手を優しくとる。
「そうなのね。いつから?」
「……9年前から。」
「意外と長いわね。」
「……すまない、邦義、知らなかったとはいえ……」
「いや、言わなかった俺が悪い。」
「……ちょっと冷静になる時間をくれ。」
部屋を立ち去る剛を清良は目で追いながらこれみよがしにため息を付く。その様子に邦義は思わず苦笑いをしながら椅子に座り直した。剛とはあまり仲がいいと言えない邦義だが、清良との関係は悪くない。それは2人があまりに似たもの親子だからなんだろうか。
「どんな人なの?」
「…立石貴志、大学の同級生。」
「そう。素敵な人なの?」
「うーん、どうだろう。いつも不安そうにしてて、嫉妬深くて。でも俺を心から好きでいてくれてる。」
「邦義は貴志くんのこと大好きなのね。」
「うん。もう俺の居場所は貴志の隣以外考えられない。」
「にしては放浪の旅してるけどね?」
「そうだけど、でも、俺の帰る場所は貴志のところ。そう約束したんだ。」
「約束?」
「うん。約束。」
曇りのない瞳で邦義はそう答える。邦義と貴志が出会ったのは大学1年のときだ。邦義の出身である夢追学園は男子校で偏差値も高く優秀な逸材の多い学校だ。そんな学校でも学生の話題はもっぱら恋愛ごと。あとは所謂オタク趣味の話だったり関心の強いことが話題に登る。しかしながら邦義は一切恋愛ごとに興味がなかった。だから高校生になった頃には「多分自分は誰かを愛することはないのだろう」と漠然と思うようになっていた。男子校とはいえすぐそばには共学の学校もあったし、全く女性と関わりがなかったわけではなかったから、関心があれば邦義のスペックであればすぐに『そういう関係』の女子はできていただろう。
「邦義ー!お前はどっちが好み?」
同級生がよく持ちかける質問だ。可愛い系かキレイ系か。この場合は「性的に」どちらが惹かれるか、そういう意味で聞かれていることは邦義にもわかるが、正直どちらも惹かれることはない。しかしながらそう応えると面倒になることも十分に理解していた。だからこういうときは話をそらすのが得策だ。
「…お前はどっち派なの?」
「俺はやっぱりこっちの子だなぁ!胸大きいし。」
「ふーん。」
「邦義、先生に呼ばれた。手伝ってくんない?」
「しげちゃん、いいよ。」
「…大丈夫?」
「なにが?」
「邦義、あの手の質問嫌いでしょ。」
「うーん。正直人を抱きたい気持ちがわからないからなぁ。」
「それはどういうこと?」
「俺は、俺以外に触れられたくない。」
「潔癖症?」
「じゃないのは重原がよくわかってるでしょ。」
「だよなぁ。」
相棒である重原悟だけは邦義のことをよく理解していた。所詮類友ではあるのだが、理解者がいるだけで随分と助かっていた。邦義は『そういう目』で見られることも『そういうこと』を想像するのもそれだけで吐き気がするほどの嫌悪感を覚えるのだ。だが『少女漫画』とか『ドラマ』の世界で『他人』がそれを楽しむのは別に問題ないし、むしろ読んだりするのは好んでいた。ただ、『自分』が対象になること、それが死ぬほど嫌な様子でその話題を振られるだけで彼の周りの温度が一気に冷える。重原や家族、それらを大切だと思う気持ちはあるから決して『冷めた』人間ではないことは彼の近くにいれば誰でも分かることだ。
「そういえば妹さんそろそろ七五三?」
「麗ちゃんと醍ちゃん二人で七五三さんだよ。姉さんが張り切ってデザイン作ってた。二人ともかわいいんだぁ。」
「そういう顔してればもう少し友達できんじゃない?」
「うるさいなぁ、今が楽しいからこれでいいんだよ。」
「…もしかしなくても、ロリコンとか?それか熟女系がいい感じ?」
「それ考えたことあるけど、弟と妹以外にはとくに興味わかないからなし。年上も屋敷にたくさんいるけどそれもないね。」
「なるほど…まぁ、それでも、人生困ることはないからいいんじゃね?」
「ちなみに重原の好みは?」
「俺、人間に興味持てないから…ロボットとかが好きなので。」
「お前も人のこと言えないよね…」
同級生達に言わせると邦義と重原は『女子ウケ』がいいからそばの共学との交流企画に来てほしいとよく誘われていた。重原は「対象外」すぎて逆に参加をしているが、邦義はどうしても『不快感』が勝ってしまうから参加をしたくなく基本不参加。それでも仕方ない行事は耐えられるだけ出てあとはトイレに逃げてから帰宅する。これを悟られないように気がついたら知り合いに対して「パーソナルスペース」の近い「人懐っこい邦義」が完成した。人間こちらから詰めるとこっちには詰めてこないもののようで、邦義の特徴の1つとなった。
「…大学、重原と同じで良かったよ。」
「また必要最低限としか付き合わないつもり?」
「んー、そうだね。」
「まぁ、俺が適当に友達つくるよ…」
「…えっと、学籍番号順だから、ちょうど折り返しで俺は重原の後ろか…」
「ラッキー。あ、邦義、隣のやつくらいは仲良くしとけよ。どうせ色々被るんだから。」
「うん。」
大学の説明会の日、正直人間関係なんてめんどくさいと心底思っていた邦義だったが重原の言うことにも一理あるので『隣の席の人』に話しかけた。先に座っていたのは長めの前髪がいかにも「目を合わせるのが苦手」そうな男で、長い図体を縮こまらせて座る様子があまりに邦義の庇護欲を揺さぶった。初めての感情に動揺しつつも簡単に自己紹介を済ませた邦義に相手はおどおどと自信なさげに自己紹介をしてくる。立石貴志と名乗った男はいかにも『関わりたくなさそう』に邦義と会話をしてくる。そんな反応が邦義にとっては逆に新鮮で、目を合わせればなにかに怯えるように視線をそらしながらも話すのをやめれない相手に思わず笑顔を向けてしまっていた。誰にも触れられたくない邦義が説明会の間、ときどきぶつかってしまう手や当たってしまう膝のことを一切きにしなかったのは初めてだった。いつもなら耐えられないような距離感もすべてが問題なく感じ、いつもの吐き気も不快感も感じない。邦義がそれに気がついたときにはすでにもうこの男に逃げることなど許されるわけがないのだ。もしかしたらこの男になら愛されてもいいかもしれない、邦義が本能で感じたその気持ちに名前がつくのにたいした時間は必要ではなかった。
「最近貴ちゃんといっしょにいないのな。」
「え?」
「ほら、授業重ねてないんだなと。前期は結構たくさん被ってたじゃん?」
「あぁ、なんとなく…貴ちゃんから離れたくなって。」
「なんで?」
「なんでだろうね。」
「は?」
「俺、どうしちゃったのかな。」
「……」
「今もこうして貴ちゃんからの連絡を待ってる。」
邦義がそういった時に重原は心底呆れたような顔をしてため息を付いた。前期の間に重原と邦義と貴志と高野秀人の4人はすでによくいるメンバーとして仲良くしていた。高野と重原はすでに残りの2人が互いに友人を超えた気持ちを持っていることに気がついていたがいかんせん本人たち、主に邦義がこんな感じなのであえて何も言わずにいる。しかし、ここまで来ると鈍感を超えて馬鹿なんじゃないかと思えた重原は背中を押すべく邦義に言葉を紡ぐ。
「お前がそうやって携帯を見るようになったのも、行動の理由に貴ちゃんがいるのはどうして?」
「……え?」
「だから、天下の邦義様が『たった1人の人』が原因でどうしてやりたいことを避けるわけ?」
「……俺は……」
「いつだって『自分が正義』だと言わんばかりに行動するのに今動かないのは何が怖いわけ。」
重原の言葉をしばらく考えた邦義はおもむろに歩き出す。突然おいていかれた重原は安心したように微笑んでいた。
「貴志が俺を『好きだ』と言ってくれたあの時から俺は必ずこの人のそばに帰ってこようと決めたんだ。」
「そう。ふふ。」
「なんだよ、突然笑って。」
「いえ、邦義が家族以外にそんな顔をするのが嬉しくて。」
「うるさいな。」
母からの追求が終わると邦義は仕事のために立ち上がる。今日は『噂の』彼の働いている会社に新しいシナリオの打ち合わせがある。部屋に荷物を取りに歩いていると、前から慌てて走ってくる男がいる。
「あれ、水野どうしたの?」
「坊っちゃん、携帯……」
「え?」
携帯を持ってきたのは水野忠寛、邦義の面倒を見ているボディガード兼執事のような立場の人間だ。あまり人を信用しない邦義が心を許している数少ない人物の一人だ。水野自身、邦義を支えて生涯を終える覚悟で今の仕事をしている。水野が慌てて持ってきた携帯は電源がつかず、何をしても動くことはない。つまりはただの鉄の塊になっているわけだ。
「昨晩、邦義様が荷物を投げていたので中身を確認したところこうなってまして……」
「まじか、やっちゃった。うーん、たぶん電源系統の回路割ったかな……。あ、SIMカードは生きてそう。新しいの買ってこれは重原にあげるか。」
「それもそうですが、時間…。」
「…今何時?」
「11時です。」
「……俺がこの荷物投げたのは何時?」
「昨晩21時過ぎのことかと。」
「……至急ケータイショップ連絡して新品持ってこさせて。とりあえず俺は仕事行くから。」
「かしこまりました。邦義様。」
「なに?」
「私の携帯でとりあえず連絡入れたらどうですか?」
「……いいよ。今連絡しても対して変わらんでしょ。」
「そうですか。」
独占欲が強くて寂しがりやで少し邦義と連絡が取れないだけで病み出してしまう大切な恋人に事故とはいえ放置プレイを始めてすでに14時間。事情を説明して許してもらうまであと8時間。2人にとってはよくある日常で、乗り越えてきた些細なトラブルの1つだ。