♪赤城の山も今宵限り。可愛い子分たちとも別れ別れか。今宵の月も泣いてゐる♪
群馬県前橋市は、江戸時代の侠客・国定忠治のこの名台詞で知られた上州・赤城山の裾野に、西に利根川、市内に広瀬川を抱いて展(ひろ)がる風趣ある町である。
ぼくが就職して最初の赴任地が前橋で、1966年から5年間、ここで仕事をした。
なんと今、その地で女性市長サン(42歳)のラヴホテル・スキャンダルが巻き起つてゐる。
当選1年余の市長が、部下の既婚男性と十回もラヴホテルに通ひ、毎回2,3時間を過ごしてゐたといふ。
弁解無用の色模様である。
「どう、市長サン、気持ちいい?」。
「ああ、いいわ……。もうワタシ、“市長”ぢやなくて、“C調”」
下手な風俗小説ならこんな具合かな、と失礼な想像を逞しくするのだけれど、しかし、この地の政治風土を多少とも知るぼくには、そんな単純な色恋沙汰では済まされない気がする。
群馬県といふところは、政争の激越な地だ。
福田赳夫、福田康夫、中曽根康弘、小渕恵三と総理大臣を4人も輩出し、大小を問はず政治は勝たなければ意味がない、政争で勝ちを収めるためならまさに何でも許される、といふ政治風土である。
なかでも高崎市を中心とする県西部の「衆院選群馬3区」は、福田陣営と中曽根陣営が日々ことごとに鋭く対立する。
支持者たちは昼も夜も、ご近所付き合ひから行きつけの飲み屋、魚屋、八百屋、さらには親類の法事、町内会の行事などまで、つまり日常生活の全般にわたつて、「あいつはコツチ派かアツチ派か」で峻烈に二分され、これが親から子へ、子から孫へと代々受け継がれる。
高崎市の東隣りの前橋市も、その余波を免れない。
衆院選、参院選はもとより、市長選や市議選、村長選でも血で血を洗ふ政争の風が吹く。
さういふ政治風土を知る目には、今回の女性市長の醜聞も、単に「ああ、よくある中年男女の色狂ひね」では納得がいかない。
国際政治の舞台では、「ハニートラップ(蜜のワナ)」と呼ばれる色仕掛け戦術が知られてゐる。
外国の要人が滞在するホテルにそれとなく美女を送り込み、女が撮つた写真やテープをネタに、のちのち外交交渉を有利に運ぶ。
“何でもアリ”の上州でこの秘術が使われた痕跡はないか。
老いたりといへども永田町担当記者あがりの元週刊誌編集長の血が騒ぐ。
このスキャンダルに火をつけた「ポスト」誌あたりが間もなく続報を書くだらう。
