今週の九条の大罪/第89審 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第89審/至高の検事25

 

 

 

嵐山と取引をして九条を売ることになった壬生。壬生は京極の武器を提出することで自首し、みずからの身を守るとともに、10年間京極を封印することに成功したわけである。と同時に、犬飼への逃亡示唆ということで九条についても告発、壬生はその取引の結果無事外に出れたわけである。

 

烏丸のサポートもあり、伝家の宝刀20日カンモクパイで解放されたっぽい九条が壬生と会う。ダーチャみたいな謎の家である。いや、以前こんな描写があったような気も?

壬生はご機嫌でプロテイン入りコーヒーを出そうとして、九条は、それは市民権を得ている当たり前のものなのかとかいったりして、気軽な雰囲気である。しかしもちろん、そんなことはない。なぜじぶんを売ったのかと、九条は率直に訊ねるのだった。

ひとことでいえば、九条を守るためである。京極は九条を非常に信頼していた。「捨て駒」というのがなんなのかよくわからないが、ともかく、京極に利用される前に解放したのだと。さらに、表向き壬生は九条を裏切っているわけで、そんなふたりが共謀して京極を陥れたとは誰もおもわない、ということもあったようだ。なるほど、壬生としてはこれが最適解だった、というわけである。

といっても、京極は死んだわけではない。10年したら出てくる。そうなったら、壬生は確実に殺される。

壬生は、九条との共謀を秘密にするためには、あくまで「九条を裏切った」という物語を生きなければならない。京極やその仲間だけではない、じぶんの部下たちからも、平気でひとを裏切るやつだとおもわれていることだろう。そんな全方位に敵がいる状況で大丈夫なのかと九条はいう。これは、以上の経緯を踏まえて言い換えれば、じぶんと共謀する仲のままでよいのか?ということになる。九条と壬生は誰にもばらすことのできない秘密を抱えることになった。それを他人に打ち明けることじたいは別に難しくない。しかし打ち明ければ九条も殺される。それよりも、全方位に敵をつくって九条と親密でいるほうを、彼は選んだというはなしなのである。

しかし、壬生にはなんらかの根拠に基づいた自信があるようだ。負ける戦いはしない、勝つ戦いだけをすると。

 

山城と面談中の京極が組員のことで相談をもちかける。嫁の銀行口座で給食代を払っていたが、ついにそれまで止められてしまい、給食代が払えなくなって子どもがクラスでいじめられていると。銀行を訴えられないかというはなしだ。いいけど、それどころじゃないのでは?みたいなことを山城はいう。伏見組から絶縁状が出ているというのである。京極はぜんぜん知らなかったみたい。絶縁されちゃったら、お金も動かせないから、こんなふうに弁護士をあごで使うこともできなくなるだろう。給食費の件は組員が面会にきたときに話したんだろうけど、そのとき彼は絶縁状のことを知っていたのだろうか・・・。あと、あれだな、もしかしたら壬生はこの件も見越していたのかもしれないな。

 

雁金は満足しているらしい。京極逮捕から登場し始めた人物だが、たしかに、振り返ってみると、ふたりが会話してる場面とかは描かれなかった。雁金は露骨に反感を出すタイプではないだろうが、用がなければ会わないという関係性だったのかもしれない。暴力丸出しの京極タイプの時代は終わったと。京極は組長に気に入られていたが、武器庫に武器を大量に抱えていた件と、猛についての個人的な復讐心で組員を私物化した件で組長を説得、筋の通った絶縁が成功したと。その彼の横には井森レベル100みたいなメガネひげの宇治という男が座っている。立場的には雁金よりしたみたいだが、これからは金と頭脳と暴力が三拍子そろっているお前の時代だと、雁金はそうとう気に入っているみたい。だが、いつものような名前の表示は出ていないな。

 

気に入っているのは、金をしっかり納めるからだ。DEXとは仮想通貨分散型取引所のことらしく、今月も20億組に入れたと。ふつうにやっている会社もあるみたいだが、それとは別に、ハッキングによる盗難と、もぐりこませたDEX業者に顧客資金を引き出させて傾きかけた会社を買収するということを加えてやっているという。雁金にもぼくにもちんぷんかんぷんだが、まあ金が入るならなんでもいいよ。

その宇治が、雁金に頼みがあると。壬生の手下を預けてくれないかというはなしで、ここで宇治が本編にからむことになるわけである。壬生の手下って、たぶん久我らのことだろうけど、そういう、元半グレみたいな荒っぽい人間が必要なんだそうだ。だが雁金は、その前に裏切りものの壬生を探すよういうのだった。

 

 

 

つづく。

 

 

 

九条と壬生が海辺で散歩している。九条しかこの場所は知らない、尾行されていなければ大丈夫だというはなしで、壬生の九条への固着はそうとうのものだ。

九条は、裏切られて20日勾留されたことにちがいはないのだし、まだすっきりしているようではないが、とりあえずふたりの関係性が戻ったようでよかった。

 

京極は組から絶縁されてしまった。いま現在、たとえば山城を雇うに際して、どのようにお金が動いているのかよくわからないが、もし組のお金を使っているのだとしたら、山城を雇い続けることも不可能になってしまうだろう。いや、弁護代ってどういうふうに決まるのかも知らないので、じっさいのところぼくにはなにもわからないが・・・。ともあれ、山城は金があるからこそ京極の弁護もするというタイプの人間であるのだから、彼が離れてしまう可能性も出てきたとみるべきだろう。ヤクザ組織という背景なしで、強者だったヤクザがどのようにふるまうことになるのかというのは、考えてみるとウシジマくんでも描かれなかったことだ。この後京極がどうなっていくのか、かなり興味深い。しかも京極は、彼個人の思いいれもあって、上下関係を重んじるタイプの古いヤクザである。それが京極のいう「道理」だった。これが壬生にはないと。雁金は結果として京極を切る方向に動いたが、このときも「筋」は意識していたようである。この件で、道理を重んじつつも雁金に反論するということが、京極にはできなくなっているのである。ソクラテスが死刑を受け容れたように、「道理」のヤクザを自認する以上は絶縁を受け止めなければならないのだ。もしそれができなければ、彼のいう「道理」とは、それが成立することで事後的にまるでそれがアプリオリのものであるかのように語られる、建前上のものでしかないことになる。じぶんが壬生のような半グレとなにがちがうのかということが、絶縁によって試されるかたちとなるわけなのだ。

雁金はそれでも壬生を探してはいる。伏見組のものが裏切られたということにちがいはないから、ということもあるだろうし、「筋」を通すということもあるだろう。京極についてはもう切ってしまっているのだからどうでもいいといえばどうでもいいのだが、大きくみれば伏見組が裏切られたということにちがいはないのだし、ここできちんと筋を通して裏切りものを探し続けるというふるまいをとり続けることは、10年後に京極が出所するときまでひきずることになる禍根を緩和するだろう。

だから、壬生はこの「絶縁」を予測できた可能性はあるのだが、それが彼の考える勝算に直接つながるともおもえない。つまり、この件で彼は10年後確実に京極にねらわれるし、そうでなくてもいま伏見組が彼を探している。なんとなく、雁金は、壬生を殺すよりは久我路線で引き入れるんじゃないかという気はするけど、ともかく探しているのだ。あるいは、雁金の「壬生探し」があくまでポーズであり、やがて弱まっていくだろうということも予測しているのかもしれない。そうなれば、あとは絶縁されてちからを失った京極が残るだけだ。それなら勝てると。

 

壬生の九条への執着はそうとうなものだ。これが恋人関係の固着だったらちょっとゾッとするレベルかもしれない。利害関係で読み取り可能な関係だから、まだ納得できるというものだ。弁慶の辞世の句「六道の 道のちまたに 待てよ君 遅れ先立つ 習ひありとも」の引用は、そのままに、地獄の果てまで運命をともにするという意味だったわけである。

ごく単純化していえば、まず壬生は、武器を提出することで、京極を陥れ、かつじぶんの身を守るということを同時に達成した。しかし九条がシャバには残ることになる。これは二重の意味で見逃せない。まず、凄腕の九条が京極につくであろうということ、そして、京極を落としいれた計画に九条が関与している疑いが生じうる、つまり九条の身に危険が及ぶかもしれないということ、この2点である。だから、壬生は九条を売った。バッジをとばす危険や、そうでなくても逮捕されたという醜聞を勘定にいれてもそのほうがじぶんにとっても九条にとってもよいと壬生は計算したのである。その結果として、表向き「九条を売った壬生」というイメージが完成した。そのイメージが定着するのであれば、壬生と九条が組んでいるというふうに考えるものは出てこないだろう。だが、壬生は多くを失う。菅原がどこまで知っているかにもよるだろうが、その他大勢の半グレからは見放されてしまうだろう。それでも九条を守る、それだけ九条が必要だと、こういうことなのだ。

 

壬生の目的はなにかというと、それはひとつではないだろう。もっと金をかせぎたいだろうし、悪の道をつきすすんでいきたい。だがもっとも直情的な彼の動機は、おもちのかたきうちだ。彼は、京極から逆らえない命令を下されて、みずからの手で愛犬おもちを殺した。そのうらみが、彼のもっとも大きな原動力だったのである。このうらみは、今回の件で果たされたのだろうか。おそらく、こんな程度では足りないはずだ。とすると、おそらく彼は、10年後に無力化した京極が出所してからのことまで考えてこの計画を立てたはずなのである。無力化した京極を壬生が殺すことはかんたんかもしれない。それならある意味すでに目的は達成されたともいえる。だが同時に、この「10年」という保留期間に、なにかべつのものも感じないでもない。というのは、じっさいのところ京極への復讐心というのは、半グレでい続けるためにはとても大きなものだったにちがいないのである。つまり、それは原動力としては失うのが惜しいほどの火力を孕んでいたのだ。じっさい、なんなら殺すか?みたいなはなしさえしていたのに、壬生はそうしなかった。絶縁を見越して、カンモクパイで出てくるような状況にももっていかなかった。これは、彼自身がそう意図してやったというようなはなしではない。おそらく無意識に、壬生は京極への復讐が完了することを回避したのである。誰かを殺そうと決めて行動しても、じっさいに殺さないのであれば、それは犯罪ではない。いつかぶっ殺してやるとくちにしながら、その熱量だけを糧にして、けっきょくは殺すつもりがない、そういう状況が、彼ら不良にとってはベストなのだ。その、犯罪的精神を宿しつつぎりぎりのところでそれを実行しない緩衝材みたいなものが、おそらく壬生にとっての九条なのだ。たんに、じっさいに犯罪を発生させてしまったときのライフラインが九条であるだけではない。そうならずにいるための精神的よすがのようなものとしても、九条は機能するのである。

 

たほうで九条は、前回考えたように、離婚や学生時代の苦痛などを抑圧するために弁護士業を必要とする人間である。厭うべき記憶を抑圧する方法は、直視しないことである。そしてこれが、彼のいう「黙秘」のコツそのものだったのだ。彼は、トラウマ的記憶に関しては黙秘する。そこにいかなる価値判断もくださないよう、自我を再構築する。そのとき彼がすがりつくのが、「神の呼び声」にしたがって歩む弁護士の道なのである。これは、嵐山の人格攻撃によって揺らいでしまっていた。嵐山はたくみに彼が黙秘を決め込んでいた記憶を揺さぶり、呼び起こす。そうして、離婚と勉強は連関するものとしてよみがえり、ペンをがりがりかんでしまったのだ。九条にとっての弁護士としての自負心は、そのまま「黙秘」の強度につながり、嵐山が揺さぶりをかけた「人格」のアウトラインを決めていくだろう。弁護士として必要とされる、そういう状況の唯一無二性が高ければ高いほど、彼の黙秘の強度も高まるというからくりである。かくして、九条と壬生は、共依存的に互いをどうしても必要なものとして規定するのである。

 

こういう唯一無二性を抱えた関係性というものは、それじたいの価値は高いとしても、危ういものだ。それが失われたとき、バランスが大きく崩れて立ち上がることができなくなってしまうからだ。リスクヘッジ的に問題があるのである。それを、特に壬生がわからないはずはない。もちろん、彼には九条が裏切らないという確信があるのだろう。九条の人格を見抜いたうえでのことでもあるだろうし、京極という共通の敵をなかば強制的に抱えさせることで、じぶんについていたほうが得だという状況を作り出しているということもある。だがそれ以上に、退路を立つというような意味もここにはあるだろう。九条にはむりやりつきあわせるかたちにはなるが、それ以外にやりようがないという状況にみずからを追い込むことで、通常であればあらわれようもないパフォーマンスを生み出そうとするのである。

 

 

 

↓九条の大罪 10巻 12月27日発売予定

 

 

 

 

 

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