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一九八〇年に起きた原敕晁さん拉致事件で、主犯とされる辛光洙(シングァンス)容疑者の周辺に国内協力者が存在していた疑いが強まり、警視庁が強制捜査に入った。事件から二十五年もたっており、遅すぎる捜査とも言えるが、辛容疑者が「拉致は金総書記から直接指示されている」と韓国で供述していることが最近になって分かった。今捜査を通して、一連の日本人拉致が北朝鮮の組織的な国家犯罪だった事実をあぶり出してもらいたい。
警視庁が国外移送目的略取などの容疑で家宅捜索したのは、在日本朝鮮大阪府商工会など六カ所。同商工会は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)傘下の団体であり、原さんが勤めていた中華料理店の店長が理事長を務めていた。店長らが事件に関与していた疑いは、これまでもマスコミ報道が先行する形で指摘されてきた。しかし今回の捜査によって初めて具体的な団体名と個人名が明確になったのである。
日本国内に拉致事件の協力者がいた疑いは、二〇〇二年の曽我ひとみさん帰国の際に一部で指摘されて衝撃が走ったものの、余りにも生々しいことであり証拠もないことから表面化しなかった。しかし、今回の捜査で、協力者とはどのような構成メンバーであり、いかなる立場の者か、おおよそ推測できることになるのである。他の拉致事件も協力者なしに成立するとは考えにくく、影響の大きい捜査になると思われる。
辛容疑者が韓国で逮捕された時の調べの中では、日本人を拉致する際の協力者を作り上げていく過程も明かになっている。韓国当局に対して「拉致は金総書記から直接指示された」と供述したことと合わせてみると、一連の日本人拉致事件は北朝鮮による国家的犯罪という全体構造が、いっそう具体的に見えてくるのである。「一部の妄動主義者による犯罪」とした金総書記の弁明を覆す強い材料である。
辛容疑者は高岡市内で育ったことや、工作員となって能登半島から密入国している事実など、北陸も重要な活動舞台となっている。また、日本人になり済ますために起こす拉致は宇出津事件の構図とも同じだ。捜査関係者ならずとも無関心ではおれない。
きょうの社説安全保障政策評論家 恵 隆之介氏に聞く
日米両政府による在日米軍再編協議が大詰めを迎えた。三月末か四月には同協議の「最終報告」が出る。同協議の意義、対中国認識、沖縄県民の国防意識などについて、安全保障政策の評論家である恵隆之介氏に聞いた。
(那覇支局・竹林春夫)
米軍再編-東シナ海の安全保障確保が狙い
国防は国の専権事項/現実認識と国際感覚の涵養必要
――在日米軍再編協議の意義は何か。
三つ柱がある。一つは中国に対する抑止。二つ目は国際テロ対策。三つ目は日本の防衛参画意識の醸成と安全保障における日米の協力関係強化。中でも沖縄は、その地政学的位置から、日米同盟の要になることができる。
沖縄は、中国軍にとっても無視できない位置にある。そこで、沖縄県の離島に中国軍が上陸した場合、在沖米海兵隊だけでなく、陸上自衛隊も共同で対応するという共同防衛体制を取らなければならなくなる。
冷戦後の東シナ海における安全保障は琉球列島、台湾、フィリピンの島嶼(とうしょ)間で、中国の太平洋進出をいかに阻止するかが、日米同盟の重要な戦略目標となる。
軍再編は、相手の軍事力を考慮して議論するのが常識だ。相手の軍事力に言及しないで、自国の軍事力の削減だけを主張するのは危険である。
――「中国の脅威」をどのように分析するか。
共産党一党独裁の国にとっては、党が軍をいかに掌握するかが重要になる。胡錦濤中国国家主席が現在、軍をどの程度掌握しているかをいろいろな観点で分析すると、胡主席が軍を末端まで完全に掌握しているとは言い難い状況にある、と言える。
軍内部に共産党に対する不満があるし、各地で頻発する農民暴動など、共産党支配体制を不安定にする要素を含んでいる。中国を歴史的に見ると、官僚体制と軍との葛藤(かっとう)から内部崩壊が起きてきた。このことからすると、現在の胡錦濤体制が将来にわたって軍部をどの程度掌握できるかが、課題であろう。日本もこの点をよく見極める必要がある。
一番危惧(きぐ)されるのは、軍部が独走して東シナ海で軍事行動を起こすことだ。その可能性は否定できない。再編協議で出された海兵隊八千人のグアム移転案は、沖縄での抑止力が低下するのではないか、あるいは中国軍に誤ったシグナルを与えるのではないかと危惧している。
また、欧州連合(EU)諸国が間もなく中国への武器輸出を解禁する。そうなれば、中国の脅威はもっと高くなるのではないか。
――沖縄県民の中に「中国の脅威」に対する認識はあるのか。
二年前に中国の原子力潜水艦が、沖縄県内領域に進入する事件があったが、県は中国に抗議しなかった。日中問題は、政府の問題であると逃げている。沖縄の有識者は、米軍基地問題については、あれだけ米国と日本政府に批判を浴びせるが、中国の東シナ海に対する軍事進出などに対しては、ほとんど言及しない。
海上自衛隊出身だからよく理解できるが、潜水艦のオペレーションは、海底地形と海洋気象を分析しないと作戦行動が取れない。中国は東シナ海だけでなく沖縄近海の海底地形まで相当分析して、情報を把握している。中国の行動に、ある狙いがあることは間違いない。
――米軍普天間飛行場の移設問題では、キャンプ・シュワブ沿岸案をめぐって、政府と県、名護市が対立したが。
現行案の辺野古沖合の飛行場建設は、技術的にも問題があるが、環境調査自体が反対派の運動で十年たっても実現しなかった。普天間飛行場の危険を早急に回避する方法として、防衛庁はキャンプ・シュワブ沿岸案を決断した。米軍基地には日米地位協定第三条の「管理権」が保証されているからだ。
政府は、この管理権をもって反対運動を排除するしかない。しかも最小限度の法改正で実現できる。第三条の管理権が及ばない地域で反対運動が起きた場合、特別措置法制定もやむを得ない。
国防は、国の専権事項であり、国が責任を持つべきだ。一地方の一部の住民のために、日本国民全体の生命の安全と領土保全、そして西太平洋地域の安定を犠牲にするわけにはいかない。政府はその姿勢を明確に表明すべきだ。
県の首長の中には、こうした国家意識を持った人が少ない。沖縄県民の中に甘えがある。いざとなれば、米軍が助けてくれる。日本政府が助けてくれると思っている。
――沖縄にとって米軍の存在とは。
沖縄には戦後、米軍が進駐してきたが、ある意味で幸運だった。米軍の施策で、民主主義が導入され、女性の地位向上策も打ち出された。米軍は、本土進攻のために備蓄していた食糧、建築資材を沖縄住民の生活安定のために民間に供給し、県民は飢えを免れた。
米軍は当初、沖縄での貨幣経済復活のために日本円を使用させようとしたが、引き揚げ者による通貨持ち込みや沖縄近海での密輸などでインフレ懸念が高まり、インフレ回避のために通貨をB軍票とドルにした。この結果、物価が安定し、急速に復興できた。
また、米軍は終戦後、看護学校をつくり、百六十カ所の病院、診療所を開設、従来の貧弱な医療体制を刷新した。
昭和二十三年六月に、中国国民党の軍用機が石垣島の旧日本軍飛行場に強行着陸した事件があった。これは、米軍によって排除された。
もし、沖縄に米軍の駐留がなければ、北方領土や竹島のような状況になっていたのは間違いない。米軍の功績を忘れてはならない。
――国防を考える上で、沖縄県民に必要なことは。
沖縄県民の中には、憲法九条があるから平和だったと主張する人が多いが、全く根拠がない。日米同盟、在日米軍基地の存在で日本の平和が保たれてきたという現実を直視すべきだ。
平成元年十一月にベルリンの壁が崩壊して東西冷戦が終結した当時、県議会は、「平和の配当」として、「基地の撤去」を要求した。ところが、平成三年に沖縄近海で中国公船による通航船舶への武力威嚇(海賊行為)が始まった。被害に遭ったのは十一隻。主な発生地点は沖縄本島西北西六百キロの海上だった。
平成四年には、武力威嚇地点が三百キロまで接近、被害を受けた船舶が三十四隻。平成五年になると、さらに二百キロまで近づいてきた。こうなると県議会は慌てて、「東シナ海における船舶への威嚇射撃などに関する意見書」を満場一致で可決。外務省、防衛庁、運輸省(当時、海上保安庁)、総務省に提出した。県議会がいかに現実感覚、国際感覚に欠けるかを如実に表した例だ。
さらに、沖縄のマスコミや教育界が「沖縄戦の惨状」「在沖米軍基地による被害」のみを日々繰り返すことによって、県民や児童の心理を鬱(うつ)状態に陥らせ、世界の動きから隔離してしまっている。
沖縄県民は日本国民という連帯意識と国防意識が乏しい。被害者意識で物を言う傾向にある。国防意識と当事者意識を持たせるには、まず日本人としての自覚と国際感覚を持たせる必要がある。
沖縄のページ 拉致事件で、朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)の傘下団体に初の強制捜査のメスが入った。
警視庁が家宅捜索したのは、拉致被害者の原敕晁(ただあき)さんが勤めていた大阪市の中華料理店とその店長の自宅、店長が理事長をしていた在日本朝鮮大阪府商工会などだ。店長は昭和五十五年六月、原さんをだまして宮崎県の海岸に連れ出し、拉致実行犯の辛光洙(シン・グァンス)容疑者に引き渡したとされる。
北で英雄扱いされている辛容疑者と違い、この店長は日本に永住している。通常なら時効成立だが、警視庁は「原さんは今も北朝鮮で監禁状態に置かれ、犯罪が継続中」と判断し、強制捜査に踏み切った。
原さん拉致事件では、当時の大阪府商工会会長(故人)や元朝鮮学校長ら複数の在日朝鮮人が関与していた疑いが強い。大阪府商工会の上部団体である朝鮮総連は、北朝鮮の統一戦線部に直結する組織として、さまざまな工作活動を行ってきた。
また、神戸市の中華料理店の店員だった田中実さんは昭和五十三年六月、在日朝鮮人の非公然組織「洛東江」のメンバーだった店長にだまされてウィーンに連れていかれ、そこからモスクワ経由で北に拉致されたと、別の元メンバーが証言している。原さん拉致事件と手口がよく似ている。
朝鮮総連を含め、日本国内で北の拉致に手を貸したこれらの組織の全容が解明されることを期待したい。
警察庁の漆間巌長官は今回の強制捜査について、「単に原さん事件(の捜査)だけでなく、日本国内の北朝鮮拉致ネットワーク解明の一環だ」と述べた。安倍晋三官房長官も「真相がさらに明らかになれば、日朝協議で容疑者の引き渡しを一層強く求めていく」と日本警察の捜査に期待を寄せる。
最近、日本人以外の拉致被害の実態が次々と明らかになっている。マカオで一九七八年に行方を絶った中国系女性の家族は、北から脱出した韓国人拉致被害者の女優と会い、女性が北に拉致されたと確信した。この女優は、ヨルダン人やフランス人女性の拉致についても証言した。
十二カ国に及ぶ拉致被害国の警察当局との連携を強め、拉致事件の捜査でも北を包囲したい。
Sankei Web 産経朝刊 主張(03/26 05:00)
