金正日後の北朝鮮―― 各国の本音
朝鮮半島が再び動く。関係各国は北朝鮮の核問題の解決を目指しながら、実は「金正日後の北朝鮮」を巡り、せめぎあうことになろう。各国の本音はどうからまっていくのだろうか。
中国――「核なし」で親中
「中国と日本は、北東アジア情勢を一緒に再検討する必要が出てきた」――。中国のある外交専門家が言い出した。2007年2月の六カ国協議で米朝が「核放棄」と「体制認定」を取引することに合意し、予想外のスピードで国交樹立を目指す協議が動き始めたからだ。この取引がすんなりと前進すると見る専門家は世界にもほとんどいない。それだけに、この発言からは中国の「米朝関係が改善しすぎてもまずい」とのひそかで新たな懸念が透けて見える。
中国の「望ましい北朝鮮像」は簡単だ。もちろん基本は「中国の言うことをよく聞く」である。そのためには核兵器は持たず、自国の安全の担保のために中国を頼りにせざるをえない国であることが必要だ。
経済面では中国同様の改革開放政策をとり、今よりは豊かな国となることが望ましい。現実の北はあまりに貧しいがゆえに核武装に走った部分が大きいからだ。また、貧困ゆえに国家が崩壊すれば、もちろん新たな混乱を隣国、中国にももたらす。
政治体制。民主主義になっては困る。中国内部の民主化への希求に火をつけかねないし、そもそも民主政体をとれば、韓国との合併構想がより大きく浮上する。隣り合う同民族の国家が同じ政体をとったなら、両者が合併しないほうが不自然だ。
「韓国と統一しても構わない」という発想も中国内部に生まれてはいる。「韓国自体が米国から離れ中国に寄ってきたから」だ。しかし、「まだ、米韓安保体制の枠組みは残る。このまま統一すれば米軍が中国国境まで進駐するかもしれない」との懸念から、それは多数派にはなっていない。
「韓国による統一国家」が中国に与える最大の不安要因は少数民族問題だ。中国は「自国内の少数民族を、その地域と隣接する外国の同じ少数民族よりも豊かにする」政策をとってきた。そうでなければ、自国内の少数民族による分離独立運動が起きかねないからだ。中国東北部の、北朝鮮との国境沿いの延辺朝鮮族自治区こそはまさに悩みの種だ。北朝鮮を韓国が吸収すれば、GDP2万ドル級の韓国と、数千ドル級の同自治区が隣り合ってしまう。
だから、中国にとって米朝関係改善は望ましいのだが、あまりに「改善し過ぎ」米朝が中朝よりも近い関係になっては困る。米国に近い統一国家が生まれる布石になりうるからだ。そこまでいかなくても、「親米的な北」が中国にとってうれしくない存在であるのは当然だ。
米国――「民主国家で親米」だが……
まず、注意すべきことは朝鮮半島問題に関し、米国が中国ほどに深刻には考えていないことだ。ブッシュ大統領を初め政府要人は「あるべき北朝鮮」にしばしば言及する。だが、中国ほどの必死さはないから、希望を実施する上である程度の困難が予想されると、容易に妥協するだろう。今回の六カ国協議でまさにそれが証明された。中東に兵力を増派する必要が出ると「悪の枢軸」と呼んできた北朝鮮と関係改善の話し合いに出たのだ。
米国の「不安定さ」を踏まえたうえで言えば、同国の専門家の大筋の目標は「民主主義家で親米国家」であろう。ただ、民主主義国家となれば、当然、韓国との合併話が進もうし、米国もそれ大歓迎するだろう。しかし、再統一される場合、「統一韓国」は中立化すべきだ、といった要求が中国やロシアから出る可能性が高いし、韓国の中でもそうした声は高まろう。
米国の専門家の間では、中立化を含め議論はされているのだが、国家として強い意志を発動できるほどのコンセンサスは出来上がっていない。
結局、例えば突然、北朝鮮の現体制が崩壊したような場合、米国は「民主主義人権の実現」を唱えはするだろうが、それを心の底から嫌がる中国と、ことを構えても実現しようとするかは不明だ。
日本――核と拉致
大方の日本人はとにかく北が核を放棄し、拉致被害者を全員返すことを望んでいる。そして、ようやく「金正日政権ではいずれの実現も困難であり、両問題の解決には同政権の退陣か国家の崩壊しかない」と考え始めたところだ。しかし、ほとんどの日本人は「崩壊後の望ましいあり方」までには考えが回らない。一方、日本政府も国家として朝鮮半島に関する強力なコンセンサスを作って、それにまい進するかは怪しい。朝鮮半島は歴史的に日本の死活を左右する場所と考えられてきたが、今、そう意識する日本人は減っているからだ。
中国がこの「日本の無関心」に目をつける可能性がある。中国にとって最大の交渉相手は軍事・政治大国である米国だ。日本は「米国の定めた方針に従う国」であり、日本を独立変数としてはさほど重視していない。
ただ、米国のアジアからの退潮という趨勢や、最近の米朝協議で垣間見せた「核を輸出さえしなければ、北の核保有を全力で阻止はしない」という姿勢が日本を不安にさせている。
もし、米中が北朝鮮崩壊時などに同国の処理を巡り対立した場合、中国は日本を味方に引き入れようとするかもしれない。その際のささやきは以下の通りになるのではないか。
米国の思い通りの北朝鮮が生まれると、つまり北が民主的な政治体制を持ち、その結果、早急に韓国と再統一する場合、朝鮮半島は相当に不安定になるであろう。米中ロという軍事大国に挟まれる以上、「統一韓国は」よほど強力な指導者を出さない限り強大国の間を迷走する可能性が大きい。ことに、朝鮮半島に中国ほどの関心は持っていない米国が、その特有の「むら気」から、この地域への関心をある日、突然に失うかもしれない。そんなリスクをおかすぐらいだったら、初めから米中の両勢力の勢力範囲を定めることで安定を確保しておく方がいい。もちろん、日本にとってもだ――。
もちろん、こんな呼びかけが実際にあったわけではない。ただ、最近、非公式の席で中国の非政府関係者が、以下のように日本人に聞くケースが出てきた。上記の仮想の呼びかけの予備質問かもしれない。
「『核を放棄し、かつ中国の言うことを今以上によく聞く北朝鮮』が生まれたら、日本人はどう考えるか」。
核なしで中国の影響下にある国か、中国に影響されない核保有国か――。この二者択一に対し、日本はどう答えるのだろうか。
韓国――中国との緩衝国
北朝鮮が崩壊すれば、当然、韓国が統一に乗り出す。周辺国は様々な思惑を持つが「韓国による統一」自体には反対できない――。
長い間、こう思われてきた。「南北は同一民族」という名分は何にも増して強いからだ。しかし、これまでの回(「統一に背向ける韓国」 2007年2月14日を参照)で書いたように、韓国自体が統一に消極的になってしまった。超大国に育った中国との間に緩衝地帯が欲しくなったからだ。
2007年2月の六カ国協議で核とエネルギー支援の取引が決まった時、韓国のメディアはいっせいに奇妙な主張を繰り返した。「韓国は各国から支援を押し付けられたのではないか」、「韓国だけが費用を分担すべきでない」。韓国政府もこの批判に対し「韓国だけがかぶるわけではない。負担は均等だ」と答えた。
韓国人は、ついに北朝鮮という国家を、ほかの国がとるのと同じ距離を持って扱ったのだ。もちろん、国際交渉では「負担は公平に」と主張することもありうる。ただ、それは北朝鮮が韓国と特殊な関係のない国の場合であって、いったん北を他人扱いし北への「責任」を回避すれば、同胞国家として当然持つ「強力な発言権」をも自ら放棄してしまう。
さらに奇妙なことに、これを韓国人に正しても、その危うさに気づく人が見当たらない。「北朝鮮とは一緒になりたくない」という本音が思わず「均等割り」発言となり、さらには「責任と発言権の放棄」につながったのかもしれない。あるいは、韓国人の心の奥底に昔から流れてきた「自分たちがどう主張しようと、どうせ周辺大国が自分たちの運命を決める」といった、諦念のようなものからかもしれない。
いずれにせよ関係各国は、韓国人のこの姿勢を通じ「韓国の統一への熱意のなさ」をようやく理解し始めた。専門家の間では、これがしばし話題になったのだ。
では、韓国が昔のように、再び「統一」を国家目標に掲げる時代は来るのだろうか。いわゆる保守層には「万難を排してもチャンスを見て北を吸収統一すべきだ」と考える人が残る。
ただ(「孤立する韓国」2007年1月17日を参照)で指摘したように、北朝鮮の魔法にかかった国民の目を覚まさせるには、相当に強力なリーダーの登場が必要だ。「貧しくなる」、「中国と国境を接すると危ない」、「統一を狙えば北を怒らせ戦争になる」といった、韓国人の内心の声を反映した「統一反対論」に対し「今、統一を決意しなければ永遠にチャンスを失う」と国民に訴えかけ、堅い合意を作り上げる必要があるからだ。
なお、現在までのところ、韓国の保守は強力な指導者を見出したとは言いにくい。保守の大統領候補者と目される人の中で、この問題を真正面から取り上げる人は皆無である。
ある韓国の知識人がつぶやいた。
「金正日政権の消滅後の北は、中国がコントロールするだろう。さらに中国は南北間の軍事境界線を取り払うことで北の難民を韓国に押し付けるだろう。これが最悪のケースだ」。
本当にそうなるかもしれない。韓国が統一への決意を失った以上は。
NET EYE プロの視点
米朝作業部会:北朝鮮側は早くも「解決済み」ムード
北朝鮮の金桂寛(キム・ゲグァン)外務次官は、米ニューヨークで6・7日の両日行われた米朝作業部会でクリストファー・ヒル米国務次官補と会談した後、平壌への帰路でことあるごとに「合意」という言葉を口にしている。
マカオの銀行「バンコ・デルタ・アジア(BDA)」に凍結されている北朝鮮口座の完全解除、米のテロ支援国指定解除、米の敵性国貿易法適用終了…。北朝鮮がこれまで要求してきた数々の問題が米国との作業部会ですべて解決したかのように、金次官は「合意」という言葉を口にする。まだ北朝鮮が2月13日の6カ国協議共同文書で決められた初期措置(寧辺の原子炉閉鎖)も実行していない状態で、彼の言葉はどこまで事実なのだろうか。
◆BDA完全解除? 見解に差
金次官は「米国はBDAに凍結されている北朝鮮の資金2400万ドル(約30億円)の全額解除を決めた」と語った。
1 月のベルリン会談で「2月13日の合意後、1カ月以内に解除」で合意した米国だが、完全解除なのか部分解除なのかについては反応を示していない。韓半島(朝鮮半島)問題専門家でジョンズ・ホプキンス大学米韓研究所所長のドン・オーバードーファー氏は「すべて解除されるかは定かでない。米国が全額解除しなければ、北朝鮮は“あなたたちが合意を完全に履行しないなら、われわれもいくつかの事項を留保するかもしれない”と主張する可能性がある」と話す。現に、金次官は10日に北京で記者らに「すべて解除しないのなら、われわれも部分的に行うしかない」と語っている。マカオ日報(澳門日報)の10日の報道では一部解除の方に重点を置いている。
これについて米議会のエド・ロイス下院議員はウォールストリート・ジャーナルへの寄稿で「北朝鮮の不法活動に対抗することこそ韓半島非核化を早期実現させる道」と述べた。BDAに凍結されている北の資金が全面解除されれば、米国がBDAをマネーロンダリング(資金洗浄)懸念対象に指定した最初の対北朝鮮措置が「誇張だったのではないか」と非難される可能性もある。
◆「核閉鎖せずにテロ支援国リスト削除は困難」
金次官は、テロ支援国リストからの削除と敵性国貿易法による経済制裁についても「1日も早く戦略的利害関係に合うよう解決することにした」と語った。
1987 年に大韓航空機爆破事件が起きた翌年からテロ支援国指定された北朝鮮だけに、「核施設を閉鎖してもいないのにリストから除外されるのは難しいだろう」(政府当局者)という見方が多い。米ヘリテージ財団のブルース・クリンナー先任研究員も「4月に発表される米国務省のテロ支援国リストから北朝鮮が除外されることはないだろう」とみている。
「6・25(朝鮮戦争)後から適用されている敵性国貿易法の適用終了もすぐには不可能」(柳浩烈=ユ・ホヨル=高麗大教授)との見方も多い。米国は北朝鮮との金融取引禁止や、米国内の北朝鮮資産凍結措置を取っている。こうした措置の中止は、北朝鮮が核施設を無能化し、米国の脅威ではないという認識が一般化しなければ不可能ということだ。
李河遠(イ・ハウォン)記者
北京=李明振(イ・ミョンジン)特派員
朝鮮日報/朝鮮日報JNS
朝鮮日報 Chosunilbo (Japanese Edition)
米朝修交?…金正日製作 'ファンタジー映画'
[デスクコラム] 2007 北朝鮮の展望と金正日政権の運命 (終)
金正日は戦略的というより戦術的類型の人間だ。
目の前の難関を突破して利益を得る戦術と、短期勝負に非常に強い。94年のジュネーブ合意と最近の2.13北京合意は、金正日の戦術能力をよく見せてくれた事例だ。金正日は去年の11月のアメリカ共和党の中間選挙敗北-イラクの状況とイランの核問題の隙間をかいくぐって、アメリカとベルリンでの両者対話を成功させ、2.13北京合意を導き出した。
ブッシュ政権で国防省の副長官を勤めたアーミテージは、"金正日は弱い牌を握ってからも、最後まで利益を得る鋭利な人物"と評価したことがある。正しい言葉だ。金正日は鋭利で利害打算に明るく、ずる賢くて瞬発力がある。2005年の9.19共同声明後、不法金融問題が浮上すると、1年以上会談を拒否して核実験を強行して局面を変えた。
実は北朝鮮の核問題とBDAの不法金融問題は、互いに何の関係もない別個の事案だ。金正日は何の関係もない二つの事案を'アメリカは対北敵視政策をあきらめるように'と主張して、結果的に連結させることに成功した。
3月に入り、米朝関係の正常化で'速度戦'を行っている。北東アジアの情勢が変化し、今後、米朝、南北が絡みながら、再び'朝鮮半島の平和ショー'を見せてくれるようだ。金桂冠外務省次官は9日、帰国の前に中国に立ち寄り、"米朝間の懸案を解決して関係正常化をすることにし、BDA問題もアメリカがすべて解決してくれる"と強調した。現在の北東アジア情勢を見ると、米朝関係の正常化が最大イシューとして注目されている。
この平和ムードがいつまで続くのかは、見当をつけにくい。ただ、短くても寧辺の核施設の閉鎖-HEUを含んだ核プログラムの申告・協議-核施設の不能化の期間までは、平和ムードが続くように思われる。そしてその間、5つのワーキンググループの議論の進展をはじめとし、韓国の対北支援、各種の南北会談と共同行事、南北首脳会談の推進などで、朝鮮半島の平和ムードはますます高まっていくだろう。この雰囲気は状況によっては、12月の大統領選挙まで続く可能性がある。金正日が2.13という計算法に、韓国の大統領選挙も視野に入れているのは明らかだ。
金正日、戦略的決断を出せず
しかし、金正日は大きな枠組みの中で、国家と人民をどのように経営するかという戦略的な思考はしない。金正日が戦略的類型の人間なら、79年に中国が改革開放の大きな歩みに出た時、または90年代初めに東欧が体制転換をした時、北朝鮮も改革開放の戦略的設計をしたはずである。北朝鮮の背後には、いつも中国という心強い後援者がいたため、もし金正日が戦略的選択をしたら、中国から改革開放のあらゆるノウハウを伝授してもらうことができた。しかし、金正日はそうしなかった。
今も同じだ。北朝鮮は改革開放の設計図を描いていない状態だ。北朝鮮国内の市場が拡がったのは、この10年以上、住民たちが自ら生存するために開拓したためだ。国家が改革開放の設計図によって能動的、主動的に行ったのではなく、首領独裁政権の維持のレベルで先軍を強化し、統制体制を締めたり緩めたりして、現実に'適応'しているだけだ。
北朝鮮が中国、ベトナムのように、改革開放に乗り出そうとするならば、まず金正日の決断がなければならない。これは首領体制で必要条件であると同時に十分条件だ。もしこの決断を下すことができたら、あえてアメリカとの関係改善をせずに、中国を主なスポンサーにして、改革開放に乗り出すことができる。もちろん、アメリカとの関係改善は非常に重要だ。中国、ベトナムのように、北朝鮮がアメリカと全面的な外交関係を樹立することができれば、改革開放に出ることができる決定的条件が用意される。もし北朝鮮が核をあきらめてアメリカと修交して、改革開放に出ることさえできたら、これは大きく歓迎すことだ。しかし、金正日がそうした手順を踏むことができるかは疑問だ。
2.13以後急変する北東アジア情勢は、2000年と比べて類似した面もあるが、別の面もある。
当時金正日は中国、韓国と首脳会談を持った後、その年の10月にチョ・ミョンロク軍総政治局長がアメリカを訪問し、オルブライト国務長官が訪朝して金正日に会った。またクリントン米大統領は、金大中大統領を通じて金正日がアメリカを訪問するように招請状も送ったという。クリントンの訪朝も予定されていた。しかし、金正日はクリントンの招請に応じなかった。クリントンの訪朝も実現しなかった。
当時、クリントンの訪朝の要請を金正日がどうして断ったのかは五里霧中だ。推論だが、金正日が訪米するということは米朝間の敵対関係の清算、アメリカとの修交交渉、朝鮮半島の平和体制の推進という意味があり、現実的にはアメリカが要求した大量殺傷武器の放棄を受け入れるという意味がある。しかし、当時としては適切なタイミングではないと金正日が判断した可能性がある。また、当時アメリカは大統領選挙の追いこみだった。金正日はさまざまな条件や状況が不十分だと判断した可能性がある。
しかし、より根本的な問題は、金正日がアメリカへ行く'行為の象徴性'を自ら受け入れることができなかったからであると見るのが妥当だろう。
金正日は今まで一度も自由陣営国家を訪問したことがない。アメリカや日本は勿論、ヨーロッパも訪問したことがない。父親に付いてインドネシアを訪問したと言及したことがあるが、主人公は金日成だったし、当時インドネシアはいわゆる'ブロック不加担'の主張を広げた核心国家だった。金日成の後継者になった後、30年以上金正日を訪問した国は中国とロシアしかない。このように見れば、金正日ほど守旧冷戦的思考を徹底的に守ってきた人も珍しいだろう。
金正日がアメリカを訪問するということは、自由陣営の本山と手を握るということを意味する。また、'これから私、金正日は改革開放に乗り出す’という意味とも映る。これは首領独裁を維持している金正日としては'自分の存在の否定'にもなる。もちろん、金正日がアメリカを訪問しないとしても、米朝修交交渉は進行する可能性がある。しかし、いつかはアメリカの大統領と握手して、'友達'になる姿を見せる政治的行為が必要だ。しかし、2000年にこの'ファンタジー'(fantasy)は実現しなかった。金正日がクリントンの招請を拒否したのも、大量殺傷武器をあきらめて改革開放に出ることに対する恐れのためだ。
金正日が願う5つのもの
最近、米朝間の急速な雪解けムードを見つつ、金正日が核兵器を保有してもよいという条件で、すなわち核保有国が既成事実化された状況で、アメリカと修交しようとするのではないかという分析も出ている。2000年と2007年が決定的に異なる点は、2000年にはミサイル交渉が争点の核心だったが、北朝鮮は既に核実験国になったということだ。したがって、金正日が核保有国としてアメリカと修交すれば韓国は軍事、外交的孤立が不可避になるのではないかという憂慮だ。もちろんその可能性を完全に排除することはできないが、米朝修交は金正日が核兵器を完全に廃棄することくらい難しい。
アメリカとの修交は金正日としては本当にもぎ取って食べたい‘りんご’に間違いないだろう。もし首領体制を守ることができ、核兵器も保有し、在韓米軍の撤収と韓米軍事同盟まで破棄してアメリカと修交することができたら、金正日としては理想的なことだろう。しかし、それが現実として果して可能か。
北朝鮮の現代史の60年で'反米闘争'は政権の重要な存立基盤の一つだった。北朝鮮は'反米'で住民たちを洗脳させて、各種の群衆動員闘争を行い、その力を土台として政権を維持してきた。反米闘争は階級闘争-階級独裁-首領独裁の重要な手段であった。もし金正日がアメリカと修交したら、50年以上持続してきたこの構造が崩れるということだ。アメリカと修交すればそれに続く改革開放の波と、どんな形態であれ、首領体制の瓦解を、金正日は覚悟しなければならない。首領体制の解体は'金王朝'の終末を意味する。金王朝と北朝鮮の社会から離れて、果して想像が可能なのか。そしてなによりも今、金正日にとってはアメリカとの修交がより重要なのか、独裁政権の維持がより重要なのか。独裁政権の維持がより重要だというのは、当然であろう。
それならば、2.13以後の米朝間に見られる雪解けムードのこの'厳然とした現実'は何なのか。その答えを求めるのはそれほど困難ではないと思う。今、金正日に何が一番必要なのかを計算すればよい。
現在、金正日にとって切実なのはBDAをはじめとする国際社会の対北制裁の解除、ドル、食糧、エネルギー、韓国大統領選挙の局面を狙った朝鮮半島の平和ムードの醸成だ。金正日はこの問題を解決したいのだ。
金正日は米朝間の雪解けムードを利用して、1)国際社会の対北制裁を無力化して、2)'朝鮮半島の平和ムードの醸成'という対南政治宣伝戦を行い、3)韓国の各種の支援をたっぷりともらい-今年の韓国の対北支援はほとんど'借しまず与える乳牛’の水準になるだろう-、4)アメリカとの対話で日本を圧迫して植民地賠賞金議論を復活させ、5)中国の相変わらずの支援をもらい受けるのだ。
米朝関係正常化の対話は以上の5つを解決していく最初の掛けがねにあたり、また最も決定的な掛けがねになる。残りは概してこれに従属的なものだ。2.13 合意文の構造も米朝関係の正常化など、5つのワーキンググループの稼動とBDAの解除がまず30日以内になっており、北朝鮮の核問題は60日以内となっていて、その後解決することになっている。 そのため、金正日はまずアメリカとの対話で速度戦を行い、大型の政治宣伝戦から始めようとしているのだ。
'米朝関係正常化' の情報, 北朝鮮の内部への逆攻勢が必要
では、'米朝修交'は。それはファンタジーだ。政治宣伝戦で、ファンタジーの醸成はいの一番にすべきことだ。大衆はこのファンタジーを眺めながら付いてくるようになる。金正日にとって宣伝扇動は得意の分野だ。宣伝の大切さを誰よりもよく分かっている。金正日は米朝修交という'ファンタジー映画'をまず見せておいて、観客の目を引いている。観客は北東アジアの大衆だ。その中でも韓国の観客がこの映画にはまりやすい。そのため、韓国が鑑賞費用(対北支援)を一番多く出さなければならない。日本は歓迎も反対も難しいどっちつかずの姿勢で、米朝間の対話の結果によって押されて行く可能性が高まった。
ところがこの映画を見られない観客たちがいる。北朝鮮の住民だ。もし北朝鮮の住民がこの映画の鑑賞に加わるようになれば、不利になる人は誰だろう。それは金正日だ。北朝鮮の住民にとって'米朝修交'は衝撃的なことだ。既に外部の情報がある程度の水準で流入している状態で、'米朝修交'の消息は、住民たちの心理的動揺と改革開放の幻想をもたらす可能性がある。2.13合意後、北朝鮮の宣伝媒体が核施設の閉鎖を'臨時稼動中断'と発表したり、ニューヨークでの米朝対話を一切報道せず、また外国に出ている外交官の子供たちに全員帰国令を下したという消息は、北朝鮮の住民はこの'映画'を見てはいけないということを意味する。また金正日は"米朝間で対話が行われるが、改革開放の幻想を抱いてはいけない"という指示を内部で下したり、すぐに下逹する可能性が高い。
したがって、金正日としては所定の成果-各種の対北制裁解除、経済支援、朝鮮半島の平和体制の議論などの平和ムード造成-をおさめた後には、特定の国家に過ちを被せながら、この映画を終わらせなければならない。ややもすると長期のロードショーに突入し、米朝修交会談の進行が既成事実化すれば、住民からブーメランになって自分に帰って来る可能性があるからだ。
今、金正日が本当に米朝修交-改革開放に向かう戦略的決断を下したというどんな証拠もない。それなのに、米朝修交という一言に皆、興奮している。金正日の主な特技である短期戦術と宣伝が、今回も韓国の観客たちによく浸透しつつあるのだ。
こうした点から、金桂冠外務省次官が"ワシントン-平壌連絡事務所の設置を飛び越えて、ただちに修交交渉に入りたい"と言及したことについては、何度もじっくりと考えてみる必要があるようだ。連絡事務所の設置は、正式な修交以前の段階だが、実際に修交に入る可能性がある物質的証拠になる。また連絡事務所だけ設置されても、平壌に星条旗が掲揚される。北朝鮮政府がこれさえできないようにするのは不可能だろう。平壌の星条旗は住民たちに衝撃と同時に、開放の幻想をもたらす可能性がある。同時に、米朝間の葛藤が生じても修交を控えた連絡事務所の段階で、大型の反米集会を持ったり、星条旗を燃やすこともできない。こうした点から、金副相の発言も'宣伝 'の脈絡から理解しなければならないようだ。
したがって、'北朝鮮が核兵器を持ってアメリカと修交したら大変'という守勢的恐怖を今の段階で持つ必要はないだろう。むしろ今は、'米朝修交'と'北朝鮮の改革開放'という情報が最大限、北朝鮮の内部に入るようにする戦術的攻撃を敢行する必要がある。民間の対北放送は北朝鮮の住民を相手に、朝鮮中央放送ができない事実の報道を積極的に'代行'する必要がある。
事実、このような戦術的攻撃は民-官が体系的な役割分担の下で行うのが一番よい。問題は現政権がこれに対する意志も能力もないということだ。このため、これから今年一年間、金正日が放映した'米朝修交ファンタジー映画'の製作コストは、韓国が払い、むしろ金正日の政治宣伝に露出する可能性だけが高まった。
結局、この誤った構造を破ることができる担当者は国民だ。今年は必ずこの構造を壊す決定的なきっかけを作り出さなければならない。
Daily NK - 米朝修交?…金正日製作 'ファンタジー映画'