ナオキ達のやりとりをマーズとジュピターの二人は、立ち止まって見ていた。

「ちょっと何なのよ!さっきから、私達の事そっちのけで何かいいムードみたいな事になってるじゃない!さっきから何話してるのよ!」

マーズは、シンジ湖での事を思い出したように、それ以上のジェラシーを覚えながらナオキとヒカリの様子を見ていた。

ちなみに幸運な事に、距離の事もあってか、トライスの正体がナオキだとバレた会話は、マースとジュピターには聞こえてなかった。

あらためて話をまとめたナオキ達は、再び前に進んだ。

「さて、話もまとまり、心強い援軍が来てくれた事だし、続きをやろうか。」

「今までのオレと思うなよ!」

そう言って、ナオキとコウキは前に出た。

(コウキくんが参戦してくれたのはありがたい…けど、今の状態ではあくまでも援軍が一人参戦してくれたという程度…私とコウキくんで今すぐにこの幹部達を片付ける事は出来るんだろうか…)

コウキが参戦すれば、少なくとも勝てる可能性は十分ある。

しかし、ナオキが気にしているのは、勝機の方ではなかった。

(奴らも、それなりにレベルを上げているというのは事実…例え勝てたとしても、『それなりの時間稼ぎ』をさせられる可能性はある…)

ナオキは、二人を力づくでかき分けてでも今すぐにここから先に向かわなければならない焦燥感を覚えていた。

ナオキは、一瞬ヒカリのいる方を向いた。

(…ヒカリちゃんの方から出なかったという事は、ヒカリちゃんはこの戦いは満足に戦えるかわからないという事…私と組んだ時はどうにかなったけど、あれは下っ端だからである以上、幹部相手だとそうもいかないのは見えている…コウキくんとヒカリちゃんに戦ってもらえれば助かるけど、二人を無理に任せるわけにはいかない…)


ナオキは、刻一刻を争う中で、板挟みな選択を迫られていた。

いつまでも、ましてや今この時でさえも足止めをくらってるわけにはいかないが、それなりに実力がある幹部相手に子供二人に丸投げする形で任せるのも…

その時…

「待てってんだよ!」

「?」

後ろから聞き覚えのある大きな声が聞こえてきた。

振り返ると、その声の主は様々な意味で一目でわかった。

声と共に参上したかのような速さで現れたのは、コウキの幼馴染のせっかちトレーナー、ジュンヤだった。

「ジュンヤくん。」

ナオキは、トライスの姿でそのままジュンヤの名前を呼んだ。

「ん?お、久しぶりだな。エイチ湖の時以来か?」

ジュンヤは、エイチ湖でナオキがトライスと姿の時をひそかに見ていた。

あの時は特に反応を見せなかったが、一応覚えていたようだ。

「私の事覚えていたんだ。一応、名乗っておくよ。私の名前は『トライス』って言うんだ。」

「トライスって言うのか。随分変わった名前だな。姿もギンガ団よりも派手で変わった服装してるしよ。」

その陽気な話し方に、ナオキはひそかに安心感を抱いていた。

同時に、思った。

やはり、ジュンヤくんは何があってもせっかちなトレーナーなんだと。

すると、ナオキはふとコウキとヒカリをそっと呼び寄せた。

二人が近づくと、ナオキは二人に言った。

「コウキくん、ジュンヤくんには私がナオキである事は秘密にしておいてほしいんだ。言っちゃ悪いけど、あの子、雰囲気的に私の正体の事言いふらしそうだからさ。」

自分の秘密を守るのが苦手なナオキでも、安易に言いふらさない事は守るというわけだ。

「わかったよ。ジュンヤにはキミの事は言わない事にするね。キミに何かあると、本当に悪い気がするからさ。」

「私もそうするわ。」

「そうしてくれるとありがたい。」

ナオキは、二人にこくりと頷いた。

「何だ、みんなして?」

ジュンヤが三人に話しかけてきた。

「うん、ちょっとね。」

ナオキは、細かい事は言わず、ただ一言そう言った。

「そっか。ならいいけどよ。」

ジュンヤはそれ以上の事は一切聞こうとせず、ナオキ達よりも先に前の方を向いた。

ジュンヤのせっかちな性格にある意味救われたとナオキは、クロガネシティでのコウキの気持ちと似たような気持ちで思っていた。

あらためて、ジュンヤが先に前に出た。

それに真っ先に反応したのは、ジュンヤにとっては因縁の相手でもあるジュピターだった。

「ふん!誰かと思えば、エイチ湖で泣いてた男の子じゃない。ちょっとは強くなったの?」

ジュピターは、ジュンヤに言った。

どうやら、ナオキ達が到着するまでの間にジュンヤはジュピターに負けた後、泣いてたらしい。

しかし、せっかちなジュンヤに少し引きずっていても、今にない事は通用しなかった。

「へ!一度完勝したごときでつけあがんじゃねえよ!いつまでも過去にすがってちゃあ、今この時もこれからの未来も逃しちまうぜ!」

もはや、ジュンヤは今しか見えていなかった。

「いいわ!全員相手してあげる!」

そう言ってジュピターとマーズはボールを構えた。

「トライス、ここはオレ達が引き受ける!キミは早く頂上に行って!」

「ありがとう!恩に切るよ!」

そう言ってナオキは、仲間達の方を向いた。

「みんな、行こう!」

「おおーっ!」

そう言ってナオキ達は一斉に走りだした。

ナオキ達は、マーズとジュピターの間を素早く通り抜けた。

「あ!待ちなさい!」

マーズは咄嗟に叫んだ。

「敵に『待て』と言われて待つ奴がどこにいるのさ。私達を止めたければ、まず目の前の相手を止める事から始めるんだね!」

いつかマーズが言っていたのと似たような事を言って、ナオキ達は走り去っていった。

「く…とにかく待ちなさーい!」

マーズがそう叫ぶと…

「そういうこった。あいつを足止めしたいなら、まずはオレ達を止めてからそうしな。」

そう言って、ジュンヤはボールを構えた。

「く…だったら、さっさとそうさせてもらうわ!」

マーズは、癇癪を起こした様子でポケモンを繰り出した。

「やれやれね…こんなんじゃあ、ちゃんと戦えるかも不安でならないわ。さて、あらためていくわよ!」

ジュピターは、ため息をつきながらも体制を整え、続けてポケモンを繰り出した。

「いくぞ!」

コウキとジュンヤ、マーズとジュピター、それぞれのポケモンの激しい激突が始まった。

「二人とも、頑張って!」

その様子をヒカリは静かに見守っていた。

その時、ヒカリはふと向こう側を見た。

そこにはもう、ナオキ達の姿はなかった。

ヒカリは、感じていた。

ナオキ達の身に、これから何か大変な事が起きるのではないかという…

それでも、今はただ二人の戦いを、そしてこれから始まるであろうナオキ達の戦いを見守るしかなかった。

「…ナオキくん…」

ヒカリは、ナオキ達が走って行った道を見続けていた。

その手には、ヒカリのナオキに対する思いを表すように、あのブレスレットが握られていた。







テンガン山の頂上のさらに向こう。

そこに一人の男が立っていた。

その男は、アカギだった。

この様子からすると、アカギはちょうど今頃到着したようである。

だからこそ、幹部達もその近くにいたのだろう。

そして、幹部達はアカギに『私の言う事を理解しない奴らが通りかかったらここから先に進むのを阻止してほしい』と言われていたのだろう。

その時言った事とは、別のもう一つの理由を潜ませて…

アカギは、前に進み、そして足を止めた。

アカギの前には、遺跡のような場所があった。

それは、まるで誰かが降り立つかのような舞台のようで、その左右にはまるで大きく太い槍のように欠けた柱があった。

ここは、『やりのはしら』。

テンガン山の頂上で、シンオウ地方の神話でも取り上げれられている遺跡である。

左右にある、まるで槍のようにとがった形で欠けている柱があるため、そう呼ばれているという…
そして、この場所はある存在と深い関係を持つ場所でもあった…

アカギは、言った。

「今、全てが終わり、そして全てが始まる…」

アカギは、舞台のような場所の前に立つと、懐から何かを取り出した。

それは、赤い色をした禍々しい雰囲気を放つ石のようなものがつながってできているものだった。
「この『あかいくさり』を使い、異次元の扉を開いてやる。」

アカギが取り出したのは、サターンが言っていた『あかいくさり』だった。

サターンが言うに、それがテンガン山で何かをつなぎとめるだと言っていた…

しかし、アカギが発した言葉は、それとはまったくかけ離れていた。

アカギは、舞台の真ん中に向かって『あかいくさり』を投げた。

「そして、私のために、その力を使え!時間をあやつる神話のポケモン、『ディアルガ』よ!!」

投げられた『あかいくさり』は、舞台の上に行くと、それまでつながっていた石のようなものがバラバラに広がり、大きな円を描いた。

すると、そこに黒い塊のようなものが現れた。

黒い塊は、電流を帯びてバチバチと音をたてていき、そこに一筋の光が現れた。

その瞬間…








バリィィィィィィ…






ドゴオオオオオオオオオン!!





そこに、物凄い轟音と共に巨大なポケモンが姿を現した。

鎧のような鋼に包まれた体。

ただここにいるだけで威圧感を感じさせるスケール。

そして、その姿から発せられる強大なオーラ…

このポケモンこそ、シンオウ地方に伝わる、時間を司る神、『ディアルガ』だった。

「ついに…ついにこの時が来た…」

アカギは、ディアルガのもとに歩み寄った。

アカギは囁くように言った。

「…これで、全てが破壊される…。全てがなくなり、争いもなくなる…このゆがんでいく時間…私にしか止められない。」

ディアルガの体からオーラのようなものが発せられ、テンガン山の空に広がっていった。

ディアルガから発せられたものが、シンオウ地方中の空を包み込むように覆っていく。

テンガン山の頂上は、まるで存在そのものに影響が及んでいるように異様な姿をしていた。

その異様な光景は、『やりのはしら』全体に広がろうとしていた。

その時…

「そこまでだ、アカギ!」

「!」

背後から聞こえた声に反応したアカギは、後ろを向いた。

その方を見るなり、アカギは口を小さく上げた。

「…ほう、ようやく来たか…」

アカギの見た先にいたのは、多くの仲間達を携え、見上げるように立っているナオキの姿だった。









その頃、聖地エレメンタルでは…

エレメンタル内には、かくまう形で残されたもう一人のレジェンド、パルキアだけがいた。

「あいつら本当に大丈夫なのか…これからあいつらが向かう場所と言えば、オレとディアルガのゆかりの場所だったよな…」

パルキアにとって、『テンガン山』はディアルガ同様、深い関わりを持つ場所のようだった。

「…だとしたら、あいつらがこれから戦いに行く目的は…」

パルキアの中で、空間を超えるほど大きな不安がよぎった。

その時…

「…!」

パルキアは、ふと何かを感じた。

それは、自分自身の感覚を通す形で、誰かが苦しみを訴えているような感覚と、ナオキ達と、そしてシンオウ地方に対するただ事じゃないような事を思わせる感覚だった。

パルキアは、空を見上げた。


エレメンタルに浮かぶ空は、外とは別次元だったが、外で起きているような事と同じような異常が起きていた。

「…ナオキ…ディアルガ…!」

パルキアは、今までにない大きな不安とそれに伴う感覚を抱きながら、その場に立ちすくんでいた。
「ここがテンガン山の頂上か…?」

ナオキは、辺りを見回した。

たとえ今までとは違う情景であっても、それがテンガン山の頂上であるという根拠にはならない。

しかし、ナオキはこう言いながらも、ひそかにここがテンガン山の頂上であるという事だけは感じていた。

その感じていた事は、今いる場所が今まで通っていた道とは違う道だからとは別の、何か普通じゃないような感覚だった。

その時…

「…!」

ナオキは、ふと目の前の方を向いた。

そこは、広い一本道が通じており、山の面影を残す形で作られたように、断続的な位置で短い階段があった。

そこでナオキは、ふと感じた。

ナオキは、テンガン山に向かっていた時の事を思い出していた。

ナオキが感じていたのは、まぎれもなく『あの時』の感覚だった。

それは、ナオキ達がヨスガシティ方面のテンガン山の入り口に向かう時に飛び立とうとした時の事…

ナオキは、ふとテンガン山の上の方を見た。

その時に、ナオキは今感じている事と同じ事を感じていた。

ナオキがテンガン山の頂上をふと見上げた時、ナオキは目の当たりにした。

テンガン山の雲行きが、天候とは違う、怪しい雲行きになっているという事に…

ナオキはすぐにわかった。

いや、それ以前にナオキの心がとらえていた。

あの雲行きは、ただ事じゃない前兆をひそかに伝えた雲行きだという事に…

ナオキは、空を見上げた。

頂上の雲は、さっきよりも怪しさを強調するような雲行きになっていた。

ナオキは、確信した。

ここがまぎれもないテンガン山の頂上なのだという事を。

細かい根拠も理屈もいらない。

心がそう言っている。

ナオキは、それだけは確かだと感じていた。

ナオキに続いて、マグマラシを先頭に仲間達も外に現れた。

「ナオキ、ここは?」

マグマラシは言った。

「マグマラシ、みんな、着いたよ。」

ナオキは、マグマラシに言った後、再び前を向いた。

「ここが頂上なのか?」

マグマラシは再びナオキに言った。

「今までずっと遠回りな道を歩んできたけど、今度こそ本当に頂上なのか?」

マグマラシに続いて、ムクホークが言った。

仲間達は、まだ頂上に着いた事が信じられないようだった。

ナオキ達は、今までずっと迷路のように入り組んだ道を歩いていた。

目的地かと思ったら、また道の途中だったという事も少なくなく、仲間達がそう思うのも無理はなかった。

「そうだよ。」

ナオキは、口ごもる事なく即答した。

現実で確信が持てる根拠はないが、少なくともそうだという確信だけはある。

実際はどうあれ、進まなければ何も始まらない。

ここまで来た以上、もう引き返す意味はないのだから。

「みんあ、行こう。今までの戦いを超える戦いになるから、今まで以上に心して行こうね。」

マグマラシは、しばらくナオキを見ていた。

ナオキが言った事は、ただ仲間の士気を上げるためじゃなく、わざわざそれを言うほど、今回の戦いは予想や前提をはるかに超越するものだという事が伝わってくるのを、マグマラシは他の仲間達以上に感じていた。

仲間達は、気を引き締めて、一斉に頷いた。

ナオキは、振り返った。

「行こう!!」

ナオキが走り出したのと同時に、仲間達も一斉に走り出した。



ナオキ達は、走り続けていた。

その中で、ナオキは感じていた。

前に進む度に大きくなっていく、ただ事じゃない感覚を…

「!」

その時、ナオキは足を止めた。

ナオキの目の前に、続いていた道に立ちはだかる二つの姿があった。

「そんなに急がないで。ボスと戦いたい気持ち、何となくわかるけど、先にあたしが相手させてもらうわ!あなたには今まで散々コケにされてきたしね!」

そう言って前に出たのは、マーズだった。

「その次はあたし。あなた強いかもしれないけど、あたし達も本気出すよ!」

マーズに続いて前に出たのは、ジュピターだった。

「またか。随分としつこい奴らだな。シンジ湖の時も言ったけど、私達にコケにされたのも、全ては自業自得の結果だろ。そっちだって、そんな言い方するなら、なんでハクタイシティの時に本気を出さなかったわけ?」

表面では、軽く受け流すような返答をしていながらも、内心ナオキは焦っていた。

(く…こんなところで無駄足をくってる場合じゃないってのに…!)

立ちはだかる二つの障壁を前に、ナオキは額に汗をかいていた。

ナオキは、ふと何かを言おうとしたが、途中で止まった。

(…奴らに『あの事』を言っても無駄だろうな…。奴らは、まったく気づいていないんだ。ギンガ団…いや、『アカギの真の目的』に…)

その時だった。

「トライス!」

「!」

後ろから聞こえた声に、ナオキは振り返った。

そこにいたのは、見覚えのある服装をした人物だった。

「コウキくん!」

ナオキは、一旦その場から離れると、コウキのもとに向かった。

「どうやら、間に合ったみたいだね。」

「コウキくん、どうやってここまで?」

「ナナカマド博士から、行き方を教えてもらったんだ。」

コウキは、ナナカマド博士に報告した時、先に行っていてほしいと言われ、ナナカマド博士から教えてもらった事を頼りにテンガン山の頂上に向かっていたのだった。

すると…

「コウキくーん!」

さらに聞こえた声に、二人は後ろを振り返った。

そこにいたのは、ヒカリだった。

ヒカリは、ナオキとコウキがいる場所へ走ってきた。

「あ、トライスくんだったっけ?ちょうどよかったわ…みんなも着いたところだったのね。」

「ヒカリちゃん、君も?」

ナオキがヒカリに言った。

「ええ、ナナカマド博士からコウキくんがテンガン山に行くって聞いて、それで行き方を教えるから先に行っててって言われて…」

コウキがナナカマド博士に事情を話した時、ヒカリもその場所にいた。

コウキがテンガン山に出発した時、ナナカマド博士はヒカリにもその事を話し、先にそこへ向かうように言っていたのだ。

「急とはいえ、わざわざ来てくれてありがとう、ヒカリちゃん。」

「うん。」

そう言うと、ヒカリはふと顔を下げた。

「…!」

その時、あるものがヒカリの目に留まった。

ヒカリは、言った。

「トライスくん…その腕についてるもの…」

「…!」

ナオキは、ハッとした。

ナオキの手首には、見覚えのあるいつかのブレスレットがあった。

その時、ひそかにコウキも感づき始めていた。

「トライスくん…」

ヒカリは、少し間を置いた後、意を決したような雰囲気でナオキに言った。

「私…ずっと気になってたの…シンジ湖で、『ナオキ』くんにあげたはずのそのブレスレットをトライスくんが付けてたのを…それに…トライスくんが『私が図鑑をギンガ団に盗られた』って事を話した時、まるで普通に知ってたようにそれを話していたのも…」

ナオキは、表情一つ変えないまま黙り込んでいた。

その表情には、ひそかに焦りが見えているような雰囲気もあった。

すると、コウキがそれに続いたように話しかけてきた。

「トライス…オレも…実は気になってたんだ。キミの事…」

「…!」

コウキからの一言に、ナオキは一瞬表情を変えた。

「トライスと会った時も、知り合いだと言っていたナオキと会った時も…必ず、キミのもとには、マグマラシがいた…。マグマラシは、この地方ではそもそも生息しないポケモン…だから、ここではナオキ以外、マグマラシを連れているトレーナーはいないはずなんだ…。それに…」

少し間を置いてコウキは言った。

「トバリの時も…いや…それに限らず、キミと会った時も、マグマラシに限らず、ナオキと似た…いや…同じポケモンが必ずいたんだ…。リッシ湖でも、またキミを見かけた時、なぜかナオキがいたところに、ナオキが連れていたのと同じポケモンで、いつの間にかトライス…キミがいた…」

二人がそれぞれの形で出くわした事。

そこから感づいた事…

そこに必ずというほど共通する事…

それはもう、ただ一つの事しかなかった。

二人は、言った。

「トライス…もしかして…」

「あなたの正体は…」

二人は息が合うように同時に言った。

「ナオキ(くん)!!?」

辺りが別の意味で緊迫した空気に包まれた。

今の三人を包み込む空気は、ナオキの正体がバレてしまった事による空気でいっぱいになっていた。

ナオキは、しばらく何も言わないまま二人を見ていた。

その様子に、二人は『まずい事を言ってしまったか』というような雰囲気でナオキを見ていた。

そして、ナオキはついに口を開いた。

「…ははは、バレちゃったか。これで一気に3人目だね。」

「?」

コウキとヒカリは、ナオキの意外な反応にきょとんとした。

正体を見破られたというのに、まったく慌てず、むしろかなり陽気に受け流していたからだ。

「私は、『守護者』だけど、事もあろうか、私自身の秘密を守るのは苦手なんだ。ここでもそうなっちゃったね。」

ナオキの意外な振る舞いに二人は、さっきまでの緊迫した事はすっかり忘れたかのようにポカンとしていた。

ナオキは、話を続けた。

「そうなんだ。私は、普段『ナオキ』っていう元の姿で活動してるんだけど、こういう大きな騒動が起きた時に、今のような『トライス』っていう姿になって戦ってるんだ。もちろん、こういう事は公にしないのが普通なんだけどね。」

「そうだったんだ…」

「ナオキくんにそんな以外な一面があったなんて…」

ヒカリは、あの時もナオキが身を挺してポケモンや仲間達を守っていたのも、そのためだったんだとここで初めて気づいた。

「君達をだますつもりなんてなかったんだ。でも、君達を私達が飛び込んでる戦いに巻き込むわけにはいかないと思ってあえて正体を明かさないようにしていたんだよ。けれど、それは間違いだった。この戦いは、私達だけの戦いじゃなく、君達もいる中での私達の戦いだったんだってこの戦いを通して気づいた…だから、この時が来るのはひそかに覚悟してたよ。」

秘密でありながらも、ナオキは、二人が共に戦うようになってから、正体がバレる事は覚悟していたようだ。

そしてそれは同時に、ひそかに二人の事を心から信頼するようになっていた事の表れにもなっていた。

だからこそ、ナオキはバレてもこうして冷静を越えた対応が出来たのである。

ナオキはふとブレスレットを腕から外した。

ナオキは、それをヒカリに差し出した。

「これは君に預けるよ。これからの戦いで、壊しちゃったら、君に悪いからね。私が帰ってきたら、また渡してくれないかな?」

ヒカリは、しばらく何も言わないままナオキを見ていた。

ヒカリは感じていた。

ナオキがブレスレットを預ける事から、これから自身がどうなるかわからない戦いに身を投じていくのだという事を…

それは、ヒカリに受け取りをためらわせる不安感を抱かせた。

しかし、ヒカリは意を決して言った。

「わかったわ…でも、その代わり…」

「?」

ヒカリは少し間を置いて言った。

「…必ず…絶対に…生きて帰ってきてよね…あなたっていつも色んな無茶をして、色々心配させるんだから…」

ヒカリは、今まで何度もナオキが命に関わるような無茶をしているのを見ていた。

あの日の夕方といい、洞窟の時といい、最近ではそれを直に目の当たりにしたトバリシティの時…

それを目の当たりににしていたヒカリには、ナオキがこれから今まで以上の、命に関わる無茶をするのは『みらいよち』をする必要などないほど見えていた。

「もし…あなたが帰ってこなかったら…このアクセサリー…ナナカマド博士にあげちゃうからね…」

ヒカリは、顔を下げたまま大粒の涙をボロボロ流しながらナオキに言った。

「ははは、それならなおさら無事に帰らなきゃならないね。守護者としてまた一つ、守らなきゃならない事ができたよ。」

ナオキは、小さく微笑みながらヒカリの頭にそっと手を乗せた。
208番道路からテンガン山へ入ったナオキ達は、どこか上に通じる道がないか散策を始めた。

「どうだ、ナオキ?」

「…レントラーの言う通り、確かにどこを探しても、階段どころか坂道すらないようだね…」

ナオキ達は、入り口付近や少し奥の方に行き、隅から隅まで散策したが、そこは階段はおろか、坂道のような上に上がれる場所さえなかった。

「改めて見直してみたけど、やっぱり隠しルートさえないみたい。」

レントラーは、透視能力を駆使して岩の内部を覗く勢いで細かく探したが、それでも見つからなかった。

「あの団員が言っていた事も間違いだったのか…?あいつ、自分でも曖昧そうな様子であんな大声の独り言を言ってただけによ。」

「どうなんだろうね…」

ナオキは、一旦散策をやめて辺りを見回した。

(ここから頂上に行けるとするならば、奴らはどうやって向かったんだ…?テンガン山の頂上に近いところは、私達も知ってるとおり、かなりの寒さだった…あの寒さでは、飛行できるポケモンはともかく、飛行機のような乗り物でも行けそうにない…)

ナオキは、この推測から、少なくともアカギを含む他のギンガ団員もテンガン山の内部から登ったのは確かだという事だけはわかった。

しかし、案の定問題は『どうやってここから頂上まで登ったか』である。

上に登るならば、『普通』なら階段や坂道を使って登るものである。

しかし、ここにはまぎれもなくその階段も坂道もない。

(それでも、さっきの団員みたいに足止めをくらっている団員はここにはいない…という事は、奴らは何か他の方法で内部からテンガン山に登ってるという事なのか…?)

ナオキの中では、こういう場所で上に登る方法の候補として浮かんでくるのは、それこそ階段や坂道がある。

しかし、これはあくまでも『一般常識の範囲において』であり、『方法の全て』ではない。

ともすれば、ギンガ団達はそれとは別の、ナオキが知らない方法で登ったという事になるのだろうか。

そうでなければ、今頃団員達もここから進めないはずだ。

すると、その時だった。

「…!」

ふとある方向を向いた時、ナオキはピクリと反応した。

ナオキは、その方向をしばらく見ていた。

「ナオキ、どうだ?」

そう言って、マグマラシがナオキに近寄ってきた。

それに気づいたナオキは、咄嗟にマグマラシの方を向いた。

「ねえ、マグマラシ。ちょっと、向こうに向かって『火炎放射』を撃ってくれない?」

ナオキからの唐突な要求にマグマラシはきょとんとした。

「何だ急に?」

「説明は後でするよ。とにかくやって。」

「…よくわかんねえけど、とにかくやりゃあいいんだな。」

「うん。お願いするね。」

マグマラシは、ピンとこないままナオキの指し示す方へ向いた。

「『火炎放射』!」

マグマラシは、一方向に向ける形で口から火を放った。

放った火は、周囲を照らしながらまっすぐ伸びていった。

そして、それがある位置に到達した時の事だった。

「…!」

ナオキは、再び何かに反応した。

マグマラシは、そのまましばらく火を吹き続けていた。

「OK、もういいよ、マグマラシ。」

ナオキがそう言うと、マグマラシは火を吹くのをやめた。

「それで、結局どうだったんだ?」

マグマラシが聞くと、ナオキは言った。

「今のでわかったよ。上に行く方法が。」

「え?」

マグマラシは、再びきょとんとした。

今のでどうやって登り方に気づいたのか、まったくピンとこなかったからだ。

ナオキは、マグマラシに説明した。

「さっき君に『火炎放射』をしてもらったのは、『この辺りを照らすため』だったんだ。この辺りに、私達がひそかに見落としていた場所があったのにさっき気づいたんだ。」

「『見落としていた場所』?」

「そうだよ。でも、これで行き方がわかったからもう大丈夫だよ。みんなを呼びに行こう。」

ナオキとマグマラシは、急いで他の仲間達を集めに行った。



それからしばらくして、ナオキ達がいた場所は、もう誰一人としていなくなっていた。

しかし、ナオキ達はまだテンガン山の中にいた。

ナオキ達がいたのは、さっきまでいた所よりも一段上に上がった場所だった。

「…まさかオレ達がさっきからうろついていた場所に既にあったとはな…」

そう言って、マグマラシはその場所から下を見下ろした。

マグマラシが見下ろした先にあったのは、他でもないナオキ達があれほどまでに散策していた場所だった。

しかも、その見える範囲には入り口も一望できる。

「この場所にある道は、あくまでも通り道として整備したに過ぎない。そうである以上、それより上は利用する人はまずいない以上、そもそも整備自体されてなかった。だから、階段や坂道のような行きやすく整備された場所がなかったんだよ。そうである以上、上に登るためには、私達の手でどうにかするのが最良の方法だったわけなんだね。」

テンガン山の通り道はあくまでも、『通り抜けるため』の道。

そのため、それとは関係ない道は基本整備されていない。

登山目的であっても、観光名所にできるような場所ではないため(そもそもそういう考え自体ないらしい)、登りやすく整備もされていない。

だからこそ、テンガン山には階段のような登る場所がなかったのだ。

「?」

ナオキは、ふと今いる場所の隅に寄った。

ナオキは、ある場所を覗きこんだ。

そこには、階段とは言えないが、周囲よりもごつごつしたような部分があった。

その部分は、ちょうど今いる場所まで続いていた。

「どうしたんだ、ナオキ?」

マグマラシが話しかけると、ナオキは慌てて振り返った。

「あ、いや大丈夫だよ。ちょっと気になった事があってね。それじゃあ、行こうか。」

そう言いながらも、ナオキはあのごつごつした部分の事を気にかけていた。

進んでいくと、向かう場所に階段のような場所があった。

「あ、階段がある。1階部分はなかったのに…」

ナオキは、階段の前に立った。

その階段は、当時の技術の事もあってか、多少崩れてはいたが、階段として整備されていた。

(…もしや、1階に階段のような場所がなかったのは、『あえて作らなかった』のか…?)

1階は明らかに階段はなかった。

しかし、その上の位置には階段が普通にあった。

しかも、自然にできた階段じゃなく、『明らかに人間の手で作られた階段』である。

ナオキは、ふとエレメンタルで調べたシンオウ地方の神話のある内容を思い出した。

(…そういえば、シンオウ地方の神話で、人間がテンガン山の頂上でレジェンドに関する何かをしていたという記述があったな…。という事は、テンガン山にこういう形で頂上まで行く道を作ったのは、結局は人間によるものだったという事…。そして、あえて1階に階段のようなものを作らなかったのも、この秘密の場所の存在を知られないようにするため…。だからこそ、普通に探しただけじゃあ見つからなかったのか…。)

あらためて、ナオキ達は先を急いだ。

しばらく進むと、テンガン山の外に出た。

「この道って、遠回りになるように整備されてるみたいだね。」

レントラーが辺りを見回しながら言った。

「昔の人々は、それなりに自然の事を考えていたからね。人間の都合を優先せず、与えてくれた条件のもとで整備したんだよ。」

ただでさえ自然に干渉する事である以上、山を人間の都合を押し付ける形で削ってはならない。

そうなれば、山は容赦なく人間を裁く災害をもたらす事になる。

例え、それがこの山の本当の目的に通じる事であっても、その中でも人間の考えを優先しない、自然が与えてくれた条件のもとで整備するものである。

今よりも人間の都合を優先せず、本当に大事な規律を守っていた昔の人間の誠実さをこの遠回りに作られた道は象徴している。

しばらく進むと、その先は断崖絶壁がそびえたっていた。

「あれ…ここで行き止まりか…。普通に通り道になってたのに…」

マグマラシは、辺りを見回した。

一応、道そのものは別の場所にもあったが、それはここに出てきた出口に戻る道になっていた。

他にどこかへ通じてそうな道はありませんわ。」

ロズレイドが言った通り、この場所は今そびえたっている絶壁以外は何もなかった。

「ここに来るまでに通った道もずっと一方通行が多かったからなぁ…。ここ以外もう道はないと思うよ。」

レントラーは言った。

「どうすんだ…?これじゃあまた足止めだぜ…」

そう言ったムクホークに限らず、他のポケモン達も困っていた。

その時…

「この上だよ。」


「?」

ナオキがあっさり即答した事に、一同はきょとんとした。

「へ?本当なのか、ナオキ?」

先にそう聞いたのは、マグマラシだった。

「本当だよ。ひとまず、私に着いてきてよ。」

少しすると、さっきまで足止めになっていた場所にナオキ達の姿はなくなっていた。

その代わり、再びさっきと同じようにナオキ達はその場所にそびえたっていた絶壁の上にいた。

「1階の時に限らず、まさかここでもこんな場所があったなんてね…」

レントラーは、下を見下ろしながら言った。

「ナオキ、なんでこの上に上に行く場所があるってわかったんだ?」

マグマラシが聞くと、ナオキは言った。

「それは、あの岩場についていた部分だよ。」

ナオキは、ちょうどよく近くにあったその部分がある岩場を指さした。

そこには、階段とは言えないが、周囲よりもごつごつしたような部分があった。

その部分は、はしごのように上の方まで続いていた。

「岩場の中には、ああいう風にごつごつした部分があるのがあったんだ。あの部分、途切れる事なく、上の方まで通じてたから、『もしかしたら…』って思ったんだ。」

ナオキは、この場所に着いた後、ひそかにこのごつごつ部分があるのでは、と思い、それを探していた。

ナオキが1階から上に通じる場所にいた時に、ふと自然のものじゃないようなごつごつした部分がその岩場の絶壁部分にあった事に気づき、『それがある場所は上に通じる道があるという事じゃないか…』と、考えたのである。

「あの時、ナオキが何か気になってたのはこの事だったんだな。」

「そういう事。それにしても、このごつごつした部分って何なんだろう?」

ナオキがそう言うと、エルレイドがそれに答えた。

「この部分は、『ロッククライム』っていう秘伝技で登るための部分なんだ。ポケモンで、その技を身に付けていれば、このごつごつ部分に乗って一気に登れるんだよ。」

「そうだったんだ。」

ちなみに、ナオキ達は普通に飛んで上まで登った。

結果的に、『どこを登ればいいかを確認する』のには活かされたのでよしとしよう。





その後もナオキ達は、テンガン山の道を進み続けた。

時に山の外へ出たと思えば、再び山の中へ戻り、階段のような場所を登ったと思えば、『ロッククライミング』を使って登る部分を目印に上へ進んだり…

そんな複雑に入り組んだ道をナオキ達は、今までのような足止めをする事なく、まっすぐ進んでいった。

そして…

「…!」

再びテンガン山の外に続く出口を出ると、ナオキは一瞬足を止めた。

ナオキの目の前に現れた情景は、今まで繰り返し目の当たりにしてきた情景とは全く違ったものだった。

そこは、山の姿そのものではない、完全に普通じゃない、全体に広がった大きな道。

その道の周囲には、まるでかつて神殿のような建物があったのをうかがわせる壊れた柱のようなものが至るところにそびえたっていた。

ナオキ達は、ついに辿り着いたのである。

テンガン山の頂上に…

テンガン山の中は静まり返っていた。

「ここからどうやって頂上までいけばいいんだ?」

「頂上どころか、一段上に行く道さえも見当たらないね…」

レントラーは、目を金色に光らせながら辺りを見渡していた。

ナオキ達がいる内部は、どこもかしこも道ばかりで、階段どころか坂道もほとんどない。

レントラーが透視能力で見渡しても、上に通じるルートは見当たらなかった。

ナオキは、テンガン山の内部を歩いた。

その時…

「…!」

ナオキは、ピクリと反応した。

「どうした?」

マグマラシがナオキに話しかけた。

「しっ…」

ナオキは、咄嗟にマグマラシに静かにするように言った。

マグマラシは、一瞬きょとんとしたが、ふとナオキが見ている方を見た。

「!」

その時、マグマラシもピクリと反応した。

二人のみた先に、見覚えのある服装をした人物がいた。

「ナオキ…あれ、ギンガ団員だよな…」

「そうみたいだね。」

二人は、音が響かない小さな声で言った。

団員は、だいぶ苛立ってるような様子だった。

「ここからテンガン山の頂上に行けないじゃない!」

団員は、癇癪を起こしたようにナオキ達とは真逆の大きい声で叫んだ。

「あいつもオレ達同様、頂上に行こうとして道に迷ってるみてえだな。」

「そのようだね…」

一応、アカギに限らず、他の団員達も何人かは頂上に行くように指示されてるようだ。

その時だった。

団員は、ふと思い出したかのような仕草をした。

「あれ?ハクタイシティじゃなくて、ヨスガシティの近くから登れって言われてたっけ?」

「!」

ナオキは、いつかのような団員の『大声の独り言』を聞き逃さなかった。

「マグマラシ、聞いた?」

「ああ。ばっちり聞いたぜ。」

ナオキとマグマラシは、そそくさとその場を後にした。



「…というわけで、私達が入った入り口は『ハクタイシティ方面』だから、そこからだと頂上に行ける道はないようなんだ。」

「それじゃあ、どこから行きゃあいいんだ?」

ムクホークがナオキに言った。

「これも聞いたんだけど、『ヨスガシティの近く』から行くらしいんだ。」

「という事は、『208番道路』の方から行くって事なのかな?」

レントラーがナオキに言った。

「そうなるみたいだね。」

「でも、そこから行ったとしても、どうやって上に登ればいいんだろう?オレの記憶が確かなら、あの方角も階段らしき場所はなかったよ。」

レントラーは、テンガン山を通った時、ひそかにナオキ達よりも周囲を確認していたので、テンガン山の細かい範囲を把握していた。

透視能力を使って周囲を確認していた事もあり、変わった場所があれば普通に気づいていた。

しかし、その中で特に変わった場所と思える所はなく、階段のような場所もなかったという。

「…ひとまず、まずはここから出て、208番道路に向かおう。」

そう言ってナオキ達は、一旦テンガン山を後にした。


「ここがハクタイシティ方面だとすると、ヨスガシティは確かここから東側方面だったよね。」

「だな。ともすれば、ここからテンガン山がある方にそのまま飛んでいけばいいって事になるよな。」

ヨスガシティは、シンオウ地方全体から見て、東側方面にある。

今いる入り口は、それと対極である東側方面。

そのため、結果的に今いる入り口がある方角、つまりテンガン山がある方角に向かえばいいという事になる。

「それじゃあ、ここからテンガン山に沿うような形で行こう。上がりすぎると寒さにやられるから、なるべく中腹より少し上くらいの高度で行こう。」

「わかったぜ。それじゃ、早速行こう。」

マグマラシがそう言うと、ナオキ達は、飛び立つ準備をした。

先ほどと同じ形でそれぞれの飛べる相手に乗った。

「全員乗れたね。それじゃあ、しっかりつかまっててね。」

「いつでもいいぜ。」

マグマラシと他の仲間達がそう言うと、ナオキはムクホークと共に体制を構えた。

「!」

その時、ナオキは一瞬何かに反応したように動きを止めた。

「どうしたんだ、ナオキ?」

マグマラシがナオキに言った。

「あ、いや何でもないよ。ごめんね。あらためて飛ぶよ。」

そう言ってナオキは、体制を立て直した。

「………。」

マグマラシは、何も言わないままナオキの事を見ていた。

長い付き合いであるマグマラシは、ひそかに感じていた。

ナオキが今動きを止めたのは、『ただ事じゃない気配を感じたから』じゃないのかと…

ナオキとムクホークは、息を合わせたように同時に地面を蹴ると、勢いよく飛び立った。



ナオキ達は、テンガン山に沿って飛行を続けていた。

ナオキは、時折何かを気にかけているかのように空を見上げていた。

「…なあ、ナオキ。」

「?」

ナオキは、聞こえた事を伝えるように少しだけ向く形でマグマラシの方に顔を向けた。

マグマラシも、ナオキが反応したのに気づいたらしく、ナオキに言った。

「あの時、結局何を調べてたんだ?それで、結果的に何がわかったんだ?」

マグマラシが聞いた事はまぎれもないストレートな事だった。

「そういえばそうだったね。オレもひそかに気になってたんだ。キミが調べものを終えた後、その前と比べて明らかにただ事じゃない雰囲気だったんだ。」

レントラーもマグマラシに続いてナオキに言った。

「…わかった。どっちみち知る事になるから、教えておくよ。」

ナオキは、エレメンタルで行った調べものと、それによって気づいた事をマグマラシ達に話し始めた。

「…それって本当なのか?」

マグマラシは、ナオキに言った。

その様子は、今までと違う、ただ事じゃない事を心から実感したような雰囲気だった。

「あくまでも私の推測ではあるけれど…サターンが言っていた事と私が調べた事、ギンガ団の言動を踏まえると、かなりやばい予感がするのだけは確かなんだ。」

ナオキは、この事を語っている間も明確にはわからないが、少なくとも今まで以上にただ事ではない事を超越するような予感を感じていた。

「それが本当だとすれば、シンオウ地方は大変な事になるのは確かだ…まさか、そこまでの事を…しかも、そんな形でもくろんでいたなんて…」

エルレイドも、かなり動揺していた。

ギンガ団の動向を一番多く、しかも一番近くで見ているエルレイドもナオキが話した事にかなり動揺していた。

元ギンガ団で、しかもボスに一番近い存在のポケモンでさえも動揺している事は、それだけギンガ団員さえ知らない大変な事が起きるのではないかという事がうかがわれる。

「それなら、なおさら急いだ方がいいかもしれねえな。オレも何となくやべえ予感がするのだけは確かだ。」

そう言ってムクホークは、体制を整えた。

「スピード上げるからさっきよりもしっかりつかまってろよ!」

ムクホークの声を聞いて乗っているエルレイドとロズレイドは、さっきよりも強くしがみついた。

「それじゃあ、私も続くよ。マグマラシ、レントラー、君達もしっかりつかまっててね。」

マグマラシとレントラーもそれに続き、強くしがみついた。

「もう大丈夫?」

「オレ達は大丈夫だぜ。」

「ボク達もいつでもOKだよ。」

背中の仲間達が呼びかけた時、ナオキはムクホークの方を向いた。

互いに目が合うと、二人はこくりと頷いた。

「それじゃあ、いくよ!」

この掛け声と共に、ナオキとムクホークは同時に速度を上げて、風を切るように飛んでいった。

それから少しして…

「…!」

ナオキは、視線の先に見えたものにピクリと反応した。

「みんな、着いたよ!」

ナオキ達の見た先には、208番道路の看板があった。

ナオキ達は、看板の前に着くと、その場に降り立った。

ナオキとムクホークが地面に着くと、背中に乗っていた仲間達も降りた。

「ここのようだね。」

「看板には、ヨスガシティを差してる方がテンガン山と対極にあるよ。」

レントラーが看板を確認して言った。

「あの団員が言った事からすれば、ここから入るみたいだね。」

ナオキがそう言うと、レントラーが言った。

「でも、ここからどうやっていくの?さっきも言ったけど、この入り口付近には階段どころか、登れそうな場所さえなかったけど…」

「…とにかく、頂上に行ける場所はここからしかないんだ。まずは、とにかく入ってみようよ。」

「…そうだね。」

前提としている事を理由に足止めになっていても始まらない。

一刻を争う状態にあるならなおさらの事だ。

ナオキ達は、再びテンガン山の中へ入っていった。

それからしばらくして、ナオキはようやくガーディアンの祠から出てきた。

「あ、ナオキ!終わったのか?」

先にそれに気づいたのは、マグマラシだった。

「うん、待たせたね。君達はもう準備できたかい?」

「ああ。手当てもしたし、後はナオキだけってところだったぜ。」

「ごめんね、やっぱり私が一番待たせてたか…」

案の定、ナオキが一番最後に準備を終えたようだった。

突き詰めてみれば、準備と言っても、結果的にやるのは、さっきの戦いの傷を治して、体力を回復す事だけであり、それ以外は特にない。

そう考えれば、ナオキがさっきまでの分析をしていた事が他より遅れをとるのも普通だろう。

「それじゃあ、早速出発しよう。」

ナオキは、マグマラシ達に言った。

「ああ。急ごうぜ!」


そういうと、ナオキとマグマラシは他の仲間達にも出発の連絡をした。

「ナオキ、もういいの?」

レントラーがナオキに言った。

「うん。調べたい事は、だいたい調べたからもう大丈夫だよ。」

「それならいいけど…」

そう言いながらも、レントラーは少し心配そうな顔をしていた。

それは、ひそかにマグマラシもそうだった。

マグマラシは、感じていた。

論理的にはわからないが、少なくとも『ナオキがただ事じゃないような様子』であるという事に…

それは、ナオキが調べものをしていたために他の仲間達を待たせてしまっていた事とは明らかに違う、少なくとも何かただ事じゃないような事を抱えているような雰囲気だった。

エレメンタル内にいたポケモンが全員集まった。

「それじゃあ、今からテンガン山に向かうよ。今までとは違う、気の抜けない戦いになるから、心していこうね。」

「おおー!!」

一同は、ナオキに呼応するように掛け声を上げた。

「ナオキ、オレはどうすりゃいいんだ?」

そう話したのは、パルキアだった。

「…君はひとまずここにいてほしい。」

ナオキは、パルキアの事を今まで以上に案じていた。

ナオキが調べものをしている時にわかった事の一つに、『ギンガ団はレジェンドを危ない形で狙っている』という事があった。

ともすれば、パルキアが参戦すれば、その場でパルキアまで狙われる可能性もある。

それを考えれば、事態が収束するまでここにいた方が安全である。

「…わかったぜ。くれぐれも、いつもの事だが無理はするなよ。アンタ、毎回ポケモンよりも傷だらけになって帰ってくるんだからな。」

パルキアもマグマラシ同様、いつもナオキの事を気にかけていた。

今回は、今まで以上にただ事じゃないような事である以上、なおさらパルキアはナオキの事を心配していた。

「ありがとう。大丈夫だよ、パルキア。規模は今まで以上の事になるかもしれないけど、こういう事は私達にとっては珍しい事じゃないからね。」

ナオキは、パルキアに言った。

ナオキは、あらためてマグマラシ達のいる方を向いた。

「それじゃあ、あらためて出発するよ、みんな。」

そう言って、ナオキはエレメンタルの入り口に向かった。

ナオキが前に立つと、自動ドアが開くようにエレメンタルの入り口が開いた。

いつものように通っている入り口だったが、今のナオキ達にはそれが今までとは違う、初めて通るような気持ちを抱いていた。

ナオキは、一瞬足を止めたが、すぐに体制を立て直した。

「行こう!」

ナオキのこの一言と共に、ナオキとポケモン達は一斉に走り出した。

ナオキ達が入り口の奥に消えると、エレメンタルの扉は閉じていった。

パルキアは、ナオキ達が走っていったエレメンタルの入り口をしばらく見続けていた。

その様子は、ナオキ達の心配に限らない、何かを考えているような雰囲気だった。



エレメンタルを抜けたナオキ達は、外に出た。
「よし。それじゃあ、テンガン山へ向かおう!」
「おう!それで、どうやって行くんだ?」

「ここから一気に飛んで向かうよ。」

そう言ってナオキは、一枚のカードを取り出した。

マグマラシとムクホークは『神鳥の羽』だと思ったが、いつもと違うような雰囲気を何となく感じていた。

ナオキがカードを構えると、カードが光り、ナオキの背中に羽が生えた。

ところが、その羽はいつもの羽と違い、緑色じゃなかった。

その羽は、真っ白で何かと神々しさを感じさせるものだった。

「何だ…その背中の羽…?今まで使ってたやつと全然違うぞ。」

「オレと戦った時に付けてた羽と色が違うな…?」

マグマラシに続いて、ムクホークが言った。

ナオキが飛ぶ時に使っていた羽を一番知っているのは、初めてそれを使った時に戦ったムクホークだったので、他の仲間よりも今までと違う感覚を覚えていた。

「説明は後でするよ。それじゃあ、行こう!」

そう言うと、ナオキはまずレントラーを背中に乗せた後、マグマラシをレントラーの背中に乗せる形で二人を背負った。

ムクホークは、エルレイドを背中に乗せて、その上にロズレイドを乗せた。

「ムクホーク、大丈夫ですの?足で掴む方があなたにも負担にならないはずですわよ。」

すると、ムクホークは言った。

「オレは大丈夫だぜ。足で重いものを掴むよりは、背中に乗ってた方が他に体力を使わなくて済むからよ。それに…」

「?」

「不思議と、二人を背負ってるのに全然重く感じねえんだ。気になるのは、せいぜい二人が落っこちねえかって事くらいだな。」

不思議な事に、ムクホークはそれなりに体重があるにもかかわらず、普通に軽々と飛べると言っていいほど、重さを感じていなかったのである。

実は、それはひそかにナオキも同じだった。

「その事の説明も後でするよ。それじゃあ、あらためて出発だ!」

ナオキは、体制を構えて、地面を蹴った。

ムクホークもそれに続いて翼を広げると、舞い上がるように飛び上がった。

ナオキとムクホークは、地面から離れ、空高く飛んでいった。

ナオキ達がいた所に、ナオキとムクホークの羽がひらひらと舞い落ちていった。


ナオキ達は、シンオウ地方の空を飛んでいた。

「それでナオキ、その羽は何なんだ?」

あらためてマグマラシが聞いた。

「これは、『女神の翼(エアトス・ウイング)』。ガーディアンさん達の長でもある『ガーディアン・エアトス』さんの翼だよ。」

「『ガーディアン・エアトス』?」

マグマラシも初めて聞く名前らしい。

「君が私のパーティーになった時は、ガーディアンさん達には紹介したけど、そういえばエアトスさんの事は教えてなかったね。」

ナオキは、ガーディアンのもとで戦う存在になった時、ひそかに『もう一人のガーディアン』の存在は教えてもらっていた。

しかし、その際こんな事を言われていたのである。

(エアトスは、己の力や己自身の事に未熟さを覚えて、その強大な力がいつしか災いのもとになる事に通じないよう、今はこの祠に隠された部屋に封印されてるんだ。その際にエアトスは、『この世界が存亡の危機になるような事が将来起きたならば、その時に私を頼ってくれたら…』って、我々に伝えていたんだ。)


ナオキは、それを今日に至るまで忠実に守ってきた。

思わず、その力に頼るために手が伸びてしまいそうになるような、今の私ではどうする事も出来なさそうな時も、もっと力があればと思った時も…

目先の事にとらわれずに、エアトスの事に触れずに戦ってきたのである。

しかし、ナオキが祠で分析していた事から導きだされた結論は、ナオキに、それどころじゃない…いや、『今がエアトスさんが言っていたその時かもしれない』と悟り、ナオキは決心したのだった。

エアトスの封印を解除すると…




「ガーディアンにそんな隠れた存在がいたのか…」

「そう。私は、ひそかに知っていたんだけど、教えても封印されてるから意味ないと思って今まで誰にも言わなかったんだよ。」

少なくとも、エアトスの存在はナオキが秘密にしていたわけじゃなく、あくまで『教えたところで特に意味はないから』という理由だった。

それでも、一応『その時』が来るまでは誰にも教えないでいたのである。

「それで、その力はどんな効果があるの?」

レントラーがナオキに言った。

「今の状態でわかるのは、『飛ぶ速さが上がってる(本人に限らず、その仲間にも及ぶ)』のと、『重いのを背負っても軽々と持った状態でいられる』ってとこかな…?」

先ほどムクホークが言っていた事も、エアトス・ウイングの力によるものだったようだ。

身近に感じる効果でさえも、こういう効果が事細かく及ぶほどにあるならば、真の力はどれほどのものなのだろうか…

(封印されるほどの事であるならば、エアトスさんの力はそれほどの規模であるという事…エアトスさんの力は、少なくともこれだけじゃないのは確かだろう…)

そう考える中、ナオキはある事を気にかけていた。

(でも…気のせいだろうか…この封印された力の背景に、詳しくはわからないけど、何かしらの違和感がある…まるで、力の強大さとは別の…)

ナオキは、ガーディアン達が話していた事を思い出した。

しばらく考え込んだ後、ナオキは思った。

(この力を使う時は…それなりの覚悟が必要というわけだな…)

ナオキの顔には、これからの事とは別の『そう安々と進められそうにない』というような雰囲気が表れていた。



しばらくして、ナオキ達はテンガン山に到着した。

ナオキ達は、テンガン山のふもとに行くと、そこに降り立った。

「よし、ここからは歩いていくよ。」

「そうだな。テンガン山の近くの空はすげえ寒かったもんな。」

このまま頂上まで行くという考えもあったが、216番道路に向かう際、テンガン山の上空を飛んだ時に寒さにやられた事もあったので、ここは安全を優先する事にしてふもとから向かう事にした。

ナオキ達は、テンガン山に入っていた。