「ちょっと何なのよ!さっきから、私達の事そっちのけで何かいいムードみたいな事になってるじゃない!さっきから何話してるのよ!」
マーズは、シンジ湖での事を思い出したように、それ以上のジェラシーを覚えながらナオキとヒカリの様子を見ていた。
ちなみに幸運な事に、距離の事もあってか、トライスの正体がナオキだとバレた会話は、マースとジュピターには聞こえてなかった。
あらためて話をまとめたナオキ達は、再び前に進んだ。
「さて、話もまとまり、心強い援軍が来てくれた事だし、続きをやろうか。」
「今までのオレと思うなよ!」
そう言って、ナオキとコウキは前に出た。
(コウキくんが参戦してくれたのはありがたい…けど、今の状態ではあくまでも援軍が一人参戦してくれたという程度…私とコウキくんで今すぐにこの幹部達を片付ける事は出来るんだろうか…)
コウキが参戦すれば、少なくとも勝てる可能性は十分ある。
しかし、ナオキが気にしているのは、勝機の方ではなかった。
(奴らも、それなりにレベルを上げているというのは事実…例え勝てたとしても、『それなりの時間稼ぎ』をさせられる可能性はある…)
ナオキは、二人を力づくでかき分けてでも今すぐにここから先に向かわなければならない焦燥感を覚えていた。
ナオキは、一瞬ヒカリのいる方を向いた。
(…ヒカリちゃんの方から出なかったという事は、ヒカリちゃんはこの戦いは満足に戦えるかわからないという事…私と組んだ時はどうにかなったけど、あれは下っ端だからである以上、幹部相手だとそうもいかないのは見えている…コウキくんとヒカリちゃんに戦ってもらえれば助かるけど、二人を無理に任せるわけにはいかない…)
ナオキは、刻一刻を争う中で、板挟みな選択を迫られていた。
いつまでも、ましてや今この時でさえも足止めをくらってるわけにはいかないが、それなりに実力がある幹部相手に子供二人に丸投げする形で任せるのも…
その時…
「待てってんだよ!」
「?」
後ろから聞き覚えのある大きな声が聞こえてきた。
振り返ると、その声の主は様々な意味で一目でわかった。
声と共に参上したかのような速さで現れたのは、コウキの幼馴染のせっかちトレーナー、ジュンヤだった。
「ジュンヤくん。」
ナオキは、トライスの姿でそのままジュンヤの名前を呼んだ。
「ん?お、久しぶりだな。エイチ湖の時以来か?」
ジュンヤは、エイチ湖でナオキがトライスと姿の時をひそかに見ていた。
あの時は特に反応を見せなかったが、一応覚えていたようだ。
「私の事覚えていたんだ。一応、名乗っておくよ。私の名前は『トライス』って言うんだ。」
「トライスって言うのか。随分変わった名前だな。姿もギンガ団よりも派手で変わった服装してるしよ。」
その陽気な話し方に、ナオキはひそかに安心感を抱いていた。
同時に、思った。
やはり、ジュンヤくんは何があってもせっかちなトレーナーなんだと。
すると、ナオキはふとコウキとヒカリをそっと呼び寄せた。
二人が近づくと、ナオキは二人に言った。
「コウキくん、ジュンヤくんには私がナオキである事は秘密にしておいてほしいんだ。言っちゃ悪いけど、あの子、雰囲気的に私の正体の事言いふらしそうだからさ。」
自分の秘密を守るのが苦手なナオキでも、安易に言いふらさない事は守るというわけだ。
「わかったよ。ジュンヤにはキミの事は言わない事にするね。キミに何かあると、本当に悪い気がするからさ。」
「私もそうするわ。」
「そうしてくれるとありがたい。」
ナオキは、二人にこくりと頷いた。
「何だ、みんなして?」
ジュンヤが三人に話しかけてきた。
「うん、ちょっとね。」
ナオキは、細かい事は言わず、ただ一言そう言った。
「そっか。ならいいけどよ。」
ジュンヤはそれ以上の事は一切聞こうとせず、ナオキ達よりも先に前の方を向いた。
ジュンヤのせっかちな性格にある意味救われたとナオキは、クロガネシティでのコウキの気持ちと似たような気持ちで思っていた。
あらためて、ジュンヤが先に前に出た。
それに真っ先に反応したのは、ジュンヤにとっては因縁の相手でもあるジュピターだった。
「ふん!誰かと思えば、エイチ湖で泣いてた男の子じゃない。ちょっとは強くなったの?」
ジュピターは、ジュンヤに言った。
どうやら、ナオキ達が到着するまでの間にジュンヤはジュピターに負けた後、泣いてたらしい。
しかし、せっかちなジュンヤに少し引きずっていても、今にない事は通用しなかった。
「へ!一度完勝したごときでつけあがんじゃねえよ!いつまでも過去にすがってちゃあ、今この時もこれからの未来も逃しちまうぜ!」
もはや、ジュンヤは今しか見えていなかった。
「いいわ!全員相手してあげる!」
そう言ってジュピターとマーズはボールを構えた。
「トライス、ここはオレ達が引き受ける!キミは早く頂上に行って!」
「ありがとう!恩に切るよ!」
そう言ってナオキは、仲間達の方を向いた。
「みんな、行こう!」
「おおーっ!」
そう言ってナオキ達は一斉に走りだした。
ナオキ達は、マーズとジュピターの間を素早く通り抜けた。
「あ!待ちなさい!」
マーズは咄嗟に叫んだ。
「敵に『待て』と言われて待つ奴がどこにいるのさ。私達を止めたければ、まず目の前の相手を止める事から始めるんだね!」
いつかマーズが言っていたのと似たような事を言って、ナオキ達は走り去っていった。
「く…とにかく待ちなさーい!」
マーズがそう叫ぶと…
「そういうこった。あいつを足止めしたいなら、まずはオレ達を止めてからそうしな。」
そう言って、ジュンヤはボールを構えた。
「く…だったら、さっさとそうさせてもらうわ!」
マーズは、癇癪を起こした様子でポケモンを繰り出した。
「やれやれね…こんなんじゃあ、ちゃんと戦えるかも不安でならないわ。さて、あらためていくわよ!」
ジュピターは、ため息をつきながらも体制を整え、続けてポケモンを繰り出した。
「いくぞ!」
コウキとジュンヤ、マーズとジュピター、それぞれのポケモンの激しい激突が始まった。
「二人とも、頑張って!」
その様子をヒカリは静かに見守っていた。
その時、ヒカリはふと向こう側を見た。
そこにはもう、ナオキ達の姿はなかった。
ヒカリは、感じていた。
ナオキ達の身に、これから何か大変な事が起きるのではないかという…
それでも、今はただ二人の戦いを、そしてこれから始まるであろうナオキ達の戦いを見守るしかなかった。
「…ナオキくん…」
ヒカリは、ナオキ達が走って行った道を見続けていた。
その手には、ヒカリのナオキに対する思いを表すように、あのブレスレットが握られていた。
テンガン山の頂上のさらに向こう。
そこに一人の男が立っていた。
その男は、アカギだった。
この様子からすると、アカギはちょうど今頃到着したようである。
だからこそ、幹部達もその近くにいたのだろう。
そして、幹部達はアカギに『私の言う事を理解しない奴らが通りかかったらここから先に進むのを阻止してほしい』と言われていたのだろう。
その時言った事とは、別のもう一つの理由を潜ませて…
アカギは、前に進み、そして足を止めた。
アカギの前には、遺跡のような場所があった。
それは、まるで誰かが降り立つかのような舞台のようで、その左右にはまるで大きく太い槍のように欠けた柱があった。
ここは、『やりのはしら』。
テンガン山の頂上で、シンオウ地方の神話でも取り上げれられている遺跡である。
左右にある、まるで槍のようにとがった形で欠けている柱があるため、そう呼ばれているという…
そして、この場所はある存在と深い関係を持つ場所でもあった…
アカギは、言った。
「今、全てが終わり、そして全てが始まる…」
アカギは、舞台のような場所の前に立つと、懐から何かを取り出した。
それは、赤い色をした禍々しい雰囲気を放つ石のようなものがつながってできているものだった。
「この『あかいくさり』を使い、異次元の扉を開いてやる。」
アカギが取り出したのは、サターンが言っていた『あかいくさり』だった。
サターンが言うに、それがテンガン山で何かをつなぎとめるだと言っていた…
しかし、アカギが発した言葉は、それとはまったくかけ離れていた。
アカギは、舞台の真ん中に向かって『あかいくさり』を投げた。
「そして、私のために、その力を使え!時間をあやつる神話のポケモン、『ディアルガ』よ!!」
投げられた『あかいくさり』は、舞台の上に行くと、それまでつながっていた石のようなものがバラバラに広がり、大きな円を描いた。
すると、そこに黒い塊のようなものが現れた。
黒い塊は、電流を帯びてバチバチと音をたてていき、そこに一筋の光が現れた。
その瞬間…
バリィィィィィィ…
ドゴオオオオオオオオオン!!
そこに、物凄い轟音と共に巨大なポケモンが姿を現した。
鎧のような鋼に包まれた体。
ただここにいるだけで威圧感を感じさせるスケール。
そして、その姿から発せられる強大なオーラ…
このポケモンこそ、シンオウ地方に伝わる、時間を司る神、『ディアルガ』だった。
「ついに…ついにこの時が来た…」
アカギは、ディアルガのもとに歩み寄った。
アカギは囁くように言った。
「…これで、全てが破壊される…。全てがなくなり、争いもなくなる…このゆがんでいく時間…私にしか止められない。」
ディアルガの体からオーラのようなものが発せられ、テンガン山の空に広がっていった。
ディアルガから発せられたものが、シンオウ地方中の空を包み込むように覆っていく。
テンガン山の頂上は、まるで存在そのものに影響が及んでいるように異様な姿をしていた。
その異様な光景は、『やりのはしら』全体に広がろうとしていた。
その時…
「そこまでだ、アカギ!」
「!」
背後から聞こえた声に反応したアカギは、後ろを向いた。
その方を見るなり、アカギは口を小さく上げた。
「…ほう、ようやく来たか…」
アカギの見た先にいたのは、多くの仲間達を携え、見上げるように立っているナオキの姿だった。
その頃、聖地エレメンタルでは…
エレメンタル内には、かくまう形で残されたもう一人のレジェンド、パルキアだけがいた。
「あいつら本当に大丈夫なのか…これからあいつらが向かう場所と言えば、オレとディアルガのゆかりの場所だったよな…」
パルキアにとって、『テンガン山』はディアルガ同様、深い関わりを持つ場所のようだった。
「…だとしたら、あいつらがこれから戦いに行く目的は…」
パルキアの中で、空間を超えるほど大きな不安がよぎった。
その時…
「…!」
パルキアは、ふと何かを感じた。
それは、自分自身の感覚を通す形で、誰かが苦しみを訴えているような感覚と、ナオキ達と、そしてシンオウ地方に対するただ事じゃないような事を思わせる感覚だった。
パルキアは、空を見上げた。
エレメンタルに浮かぶ空は、外とは別次元だったが、外で起きているような事と同じような異常が起きていた。
「…ナオキ…ディアルガ…!」
パルキアは、今までにない大きな不安とそれに伴う感覚を抱きながら、その場に立ちすくんでいた。