それからしばらくして、ナオキはようやくガーディアンの祠から出てきた。
「あ、ナオキ!終わったのか?」
先にそれに気づいたのは、マグマラシだった。
「うん、待たせたね。君達はもう準備できたかい?」
「ああ。手当てもしたし、後はナオキだけってところだったぜ。」
「ごめんね、やっぱり私が一番待たせてたか…」
案の定、ナオキが一番最後に準備を終えたようだった。
突き詰めてみれば、準備と言っても、結果的にやるのは、さっきの戦いの傷を治して、体力を回復す事だけであり、それ以外は特にない。
そう考えれば、ナオキがさっきまでの分析をしていた事が他より遅れをとるのも普通だろう。
「それじゃあ、早速出発しよう。」
ナオキは、マグマラシ達に言った。
「ああ。急ごうぜ!」
そういうと、ナオキとマグマラシは他の仲間達にも出発の連絡をした。
「ナオキ、もういいの?」
レントラーがナオキに言った。
「うん。調べたい事は、だいたい調べたからもう大丈夫だよ。」
「それならいいけど…」
そう言いながらも、レントラーは少し心配そうな顔をしていた。
それは、ひそかにマグマラシもそうだった。
マグマラシは、感じていた。
論理的にはわからないが、少なくとも『ナオキがただ事じゃないような様子』であるという事に…
それは、ナオキが調べものをしていたために他の仲間達を待たせてしまっていた事とは明らかに違う、少なくとも何かただ事じゃないような事を抱えているような雰囲気だった。
エレメンタル内にいたポケモンが全員集まった。
「それじゃあ、今からテンガン山に向かうよ。今までとは違う、気の抜けない戦いになるから、心していこうね。」
「おおー!!」
一同は、ナオキに呼応するように掛け声を上げた。
「ナオキ、オレはどうすりゃいいんだ?」
そう話したのは、パルキアだった。
「…君はひとまずここにいてほしい。」
ナオキは、パルキアの事を今まで以上に案じていた。
ナオキが調べものをしている時にわかった事の一つに、『ギンガ団はレジェンドを危ない形で狙っている』という事があった。
ともすれば、パルキアが参戦すれば、その場でパルキアまで狙われる可能性もある。
それを考えれば、事態が収束するまでここにいた方が安全である。
「…わかったぜ。くれぐれも、いつもの事だが無理はするなよ。アンタ、毎回ポケモンよりも傷だらけになって帰ってくるんだからな。」
パルキアもマグマラシ同様、いつもナオキの事を気にかけていた。
今回は、今まで以上にただ事じゃないような事である以上、なおさらパルキアはナオキの事を心配していた。
「ありがとう。大丈夫だよ、パルキア。規模は今まで以上の事になるかもしれないけど、こういう事は私達にとっては珍しい事じゃないからね。」
ナオキは、パルキアに言った。
ナオキは、あらためてマグマラシ達のいる方を向いた。
「それじゃあ、あらためて出発するよ、みんな。」
そう言って、ナオキはエレメンタルの入り口に向かった。
ナオキが前に立つと、自動ドアが開くようにエレメンタルの入り口が開いた。
いつものように通っている入り口だったが、今のナオキ達にはそれが今までとは違う、初めて通るような気持ちを抱いていた。
ナオキは、一瞬足を止めたが、すぐに体制を立て直した。
「行こう!」
ナオキのこの一言と共に、ナオキとポケモン達は一斉に走り出した。
ナオキ達が入り口の奥に消えると、エレメンタルの扉は閉じていった。
パルキアは、ナオキ達が走っていったエレメンタルの入り口をしばらく見続けていた。
その様子は、ナオキ達の心配に限らない、何かを考えているような雰囲気だった。
エレメンタルを抜けたナオキ達は、外に出た。
「よし。それじゃあ、テンガン山へ向かおう!」
「おう!それで、どうやって行くんだ?」
「ここから一気に飛んで向かうよ。」
そう言ってナオキは、一枚のカードを取り出した。
マグマラシとムクホークは『神鳥の羽』だと思ったが、いつもと違うような雰囲気を何となく感じていた。
ナオキがカードを構えると、カードが光り、ナオキの背中に羽が生えた。
ところが、その羽はいつもの羽と違い、緑色じゃなかった。
その羽は、真っ白で何かと神々しさを感じさせるものだった。
「何だ…その背中の羽…?今まで使ってたやつと全然違うぞ。」
「オレと戦った時に付けてた羽と色が違うな…?」
マグマラシに続いて、ムクホークが言った。
ナオキが飛ぶ時に使っていた羽を一番知っているのは、初めてそれを使った時に戦ったムクホークだったので、他の仲間よりも今までと違う感覚を覚えていた。
「説明は後でするよ。それじゃあ、行こう!」
そう言うと、ナオキはまずレントラーを背中に乗せた後、マグマラシをレントラーの背中に乗せる形で二人を背負った。
ムクホークは、エルレイドを背中に乗せて、その上にロズレイドを乗せた。
「ムクホーク、大丈夫ですの?足で掴む方があなたにも負担にならないはずですわよ。」
すると、ムクホークは言った。
「オレは大丈夫だぜ。足で重いものを掴むよりは、背中に乗ってた方が他に体力を使わなくて済むからよ。それに…」
「?」
「不思議と、二人を背負ってるのに全然重く感じねえんだ。気になるのは、せいぜい二人が落っこちねえかって事くらいだな。」
不思議な事に、ムクホークはそれなりに体重があるにもかかわらず、普通に軽々と飛べると言っていいほど、重さを感じていなかったのである。
実は、それはひそかにナオキも同じだった。
「その事の説明も後でするよ。それじゃあ、あらためて出発だ!」
ナオキは、体制を構えて、地面を蹴った。
ムクホークもそれに続いて翼を広げると、舞い上がるように飛び上がった。
ナオキとムクホークは、地面から離れ、空高く飛んでいった。
ナオキ達がいた所に、ナオキとムクホークの羽がひらひらと舞い落ちていった。
ナオキ達は、シンオウ地方の空を飛んでいた。
「それでナオキ、その羽は何なんだ?」
あらためてマグマラシが聞いた。
「これは、『女神の翼(エアトス・ウイング)』。ガーディアンさん達の長でもある『ガーディアン・エアトス』さんの翼だよ。」
「『ガーディアン・エアトス』?」
マグマラシも初めて聞く名前らしい。
「君が私のパーティーになった時は、ガーディアンさん達には紹介したけど、そういえばエアトスさんの事は教えてなかったね。」
ナオキは、ガーディアンのもとで戦う存在になった時、ひそかに『もう一人のガーディアン』の存在は教えてもらっていた。
しかし、その際こんな事を言われていたのである。
(エアトスは、己の力や己自身の事に未熟さを覚えて、その強大な力がいつしか災いのもとになる事に通じないよう、今はこの祠に隠された部屋に封印されてるんだ。その際にエアトスは、『この世界が存亡の危機になるような事が将来起きたならば、その時に私を頼ってくれたら…』って、我々に伝えていたんだ。)
ナオキは、それを今日に至るまで忠実に守ってきた。
思わず、その力に頼るために手が伸びてしまいそうになるような、今の私ではどうする事も出来なさそうな時も、もっと力があればと思った時も…
目先の事にとらわれずに、エアトスの事に触れずに戦ってきたのである。
しかし、ナオキが祠で分析していた事から導きだされた結論は、ナオキに、それどころじゃない…いや、『今がエアトスさんが言っていたその時かもしれない』と悟り、ナオキは決心したのだった。
エアトスの封印を解除すると…
「ガーディアンにそんな隠れた存在がいたのか…」
「そう。私は、ひそかに知っていたんだけど、教えても封印されてるから意味ないと思って今まで誰にも言わなかったんだよ。」
少なくとも、エアトスの存在はナオキが秘密にしていたわけじゃなく、あくまで『教えたところで特に意味はないから』という理由だった。
それでも、一応『その時』が来るまでは誰にも教えないでいたのである。
「それで、その力はどんな効果があるの?」
レントラーがナオキに言った。
「今の状態でわかるのは、『飛ぶ速さが上がってる(本人に限らず、その仲間にも及ぶ)』のと、『重いのを背負っても軽々と持った状態でいられる』ってとこかな…?」
先ほどムクホークが言っていた事も、エアトス・ウイングの力によるものだったようだ。
身近に感じる効果でさえも、こういう効果が事細かく及ぶほどにあるならば、真の力はどれほどのものなのだろうか…
(封印されるほどの事であるならば、エアトスさんの力はそれほどの規模であるという事…エアトスさんの力は、少なくともこれだけじゃないのは確かだろう…)
そう考える中、ナオキはある事を気にかけていた。
(でも…気のせいだろうか…この封印された力の背景に、詳しくはわからないけど、何かしらの違和感がある…まるで、力の強大さとは別の…)
ナオキは、ガーディアン達が話していた事を思い出した。
しばらく考え込んだ後、ナオキは思った。
(この力を使う時は…それなりの覚悟が必要というわけだな…)
ナオキの顔には、これからの事とは別の『そう安々と進められそうにない』というような雰囲気が表れていた。
しばらくして、ナオキ達はテンガン山に到着した。
ナオキ達は、テンガン山のふもとに行くと、そこに降り立った。
「よし、ここからは歩いていくよ。」
「そうだな。テンガン山の近くの空はすげえ寒かったもんな。」
このまま頂上まで行くという考えもあったが、216番道路に向かう際、テンガン山の上空を飛んだ時に寒さにやられた事もあったので、ここは安全を優先する事にしてふもとから向かう事にした。
ナオキ達は、テンガン山に入っていた。