口には出来ない事を

多く飲み干してまで

苦しみが喉を詰まらせる

君の言葉には頷けないさ


その口の中には

許せない言葉ばかり

僕の瞳に映る物も

僕の耳に届く物も

何一つ響きやしない

いっそ手駒の一つなら

生きやすかっただろうに


差し伸べられた最善も

掬いあげられた救済も

全部全部投げ捨てて

僕が僕として前を向けたら

君が僕としての全てを

許してくれたなら


詰まりそうな喉の奥の

その本音を引き摺り出して

泣き出しそうな子供の手を引いて

笑う事が出来たのだろうか


何一つ許せない子供の僕を

君はまた笑って

許してくれるのだろうか


引き下げたままのゴーグルと

群青を引き連れた空の檻

少しだけ悲しげに伏せた

表情の奥底で確かめる


誰もいない、灰色の街で

少年は一人駆け足に通り過ぎる

誰の瞳も映さない

誰の言葉も聞こえない

越えてきた聳え立つ雑居ビルは

最早何の意味も持たない

国としての意味も、

存在の意味も。


埃に塗れた床に

少年は独り腰を下ろす

雨の匂いが漂う街と

未だ煌々と光る星空の下

少年の瞳は薄く濡れていた


「いかなくちゃ」


小さく呟いて肩を抱く

ゴーグルに映る街は

薄暗く夜を纏い始める

何が正しいのか

誰が正しいのか

答えなど何処にもない


少年は一人だった

今や、一人だった。


「やらなくちゃ、」


やはり小さな声のまま

虚ろに喉から絞り出す

星空を覆い隠す程の雨雲は

雑居ビル群の真上に陣取り

ぽつぽつと雨を鳴らし始めた


少年の姿はそこにない。

唯一つ、少年の足跡は

雨降る廃墟の通りへと

静かに溶けていった。




「少年は優しい街に抱かれて」


優しい話は

何時か終わって

枯れた水槽の中

横たわる身体と

喘ぐ喉の奥で


笑えないことだって

何時かは笑える様に

忘れてしまえば

消えてしまえば

もう何も残らないと

垂れ流した涙の後先を

考えないままに

両手から落として隠した


がらんどうに空いた

その胸の中を

君は知っているのだろうか

まるで優しい話は

僕を殺しにきているようで


今日が終わっていく

明日はあるのだろうか

少しずつ堕ちていく

色彩に手を振った

振り返る背中を覆う

巨大な影を覗く


さようならは

すぐそこだ。


嘘吐いて

死んだように

目を瞑って

笑えないと

願いを刺して


何もないんだ

カラリと声嗄らして

張り付いた喉は

音を立てる事もなく


何度目の愛を

何度目の涙で

流していく事ですら

語る事も出来ないで


嘘で殺した

君の目は

何を見ている?

後悔なんて

一つもありやしない


笑う様に

転がして

僕が僕であるなら

願う事も

祈る事も

忘れてしまって


幸せを

何と定義する

何も知らないで

色を帯びた世界は

嘘を愛しすぎた


僕は僕でいますか

君は君でいますか

その目は

僕を映してますか


その嘘は

死んだように眠る


僕の愛は

その喉に、


顔を覆い隠して

次の駅まで歩く

淀んだ空は霞んでいく

越えていく夢の様だ。


少し、疲れて

一つ欠伸を零す

何も無いのは

何時もの事だとして


溢れた声を垂れ流す

滴の様に垂れる頭に

君の姿を描いた

そんなキャンバスには

もう誰の姿も無いのに


気付けば通り過ぎて

僕を置いていく電車に

僕は手を振って

追いかけるように進む

隠れてしまったのは

どちらだったのか。


思い出せない事ばかり

君の声の様に曖昧に

それでも微かに望んだ

高鳴る胸の事だって


淀んだ愛が晴れていく

消えていってしまっても

確かに胸に残るのは

何時だってどれだって

忘れてしまった事だ。


電車はボロボロに煤けて

軋んだ床を転がしていく

弾ませたのは

一体誰だったのか


あの丘を越えたなら

愛を語るその声を

思い出せる日が

来ればいいと

朧気に揺らめいた

誰かの今日を願った。