禁則 | フクロウのひとりごと

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愛知県在住のトロンボーン吹き、作編曲家、吹奏楽指導者。
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和声や対位法などの音楽理論には、やってはいけないとされること、つまり『禁則』というものがあるのです。さらにジャズ理論などにも禁則ってあるのですが、では禁則を破っていたら違和感があるものなのでしょうか。

こんばんは。
トロンボーン吹きで作編曲家、吹奏楽指導者の福見吉朗です。

 


 

 

  いろいろな禁則

 

古典和声にある、いろいろな禁則…
平行8度 … 特定の2声で完全8度(オクターブ)の関係が連続してはいけない。
平行5度 … 複数の声部が完全5度の関係のまま平行して動いてはいけない。
DS進行 … ドミナントからサブドミナントに行ってはいけない。
導音重複 … 導音(ドミナントVの第3音)は複数の声部に重複してはいけない。
直行8度 … 2声が並行移動して完全8度の関係に行ってはいけない(ただし外声に限る)。
あと、声部間はいくら以上離れてはいけないとか、音域の制限があったり…
いろいろあるのです。めんどくせーでしょ(-_-)
古典和声の課題では、これらをやったら減点です。

 

 

  古典に限らず

 

古典和声、ってことは、古典じゃなかったらいいのか、クラシック限定なのか…
それは、時と場合によるのですよね。さらに…
たとえばジャズ理論にも、禁則ってありますよ。
LIL … ローインターバルリミット。ここより下の音域で、これより狭い音程は不許可というやつ。
ベースに対する音程にも当てはまるので、ベースと10度離れていてもそれは3度と見なされる…
♭9インターバル … 1オクターブ+半音。世の中でいちばん不協和な音程(微分音は除く)。
この音程をつくってはいけないのです。たとえばM7のルートと7音が逆転したりはダメ。
まるで昔の減5度音程みたいですね。悪魔の音程といわれて禁止されていた時代もあるのです。
 

 

  禁則はダメなのか

 

では、禁則ってそんなに大切で、破ったら気持ち悪い音がする、良くないものなのか…

これは?

 

 

ドビュッシーの『沈める寺』です。ここでいう『寺』って、大聖堂のことなのですよね?

これ、平行5度のオンパレードです。


それから…、キース・ジャレットの『オーバー・ザ・レインボウ』の楽譜があったので、、
フィナーレに入れて鳴らしてみたのです。

この演奏。

 


この楽譜、平行5度は出てくるし♭9インターバルもある。禁則のオンパレード!
でも、演奏は美しく、禁則の箇所だって違和感など全然ないですよね。
その瞬間の音だけを鳴らしたら、そりゃあ♭9インターバルの音がしますよやっぱり。
でも、流れで聴くと全然自然なのです。
やっぱり流れなのですよね。


♭9インターバルといえば、身近(?)な例ではこんなのもありますよ。
 



滝廉太郎の『花』の冒頭。赤丸のところ。
これね、編曲するとき、どうしてやろうかと思いましたよ。
でも、違和感ないでしょ。
 

 

  時代とともに

 

古典和声の禁則はクラシックの音楽だけに当てはまる、そんなふうに言う方もおられます。
なにしろ、時代とともに変わってくるとは言えそうですよね。
たとえば太古?の昔には禁じられていた、減5度、それを取り入れて『属七』の和音が出来た。
その不協和な音程が協和音程に解決する進行が、ドミナントモーションですよね。
そして時代は流れて、♭9インターバルだってオルタード系のドミナントでは使われる。
こんなの。



こういうドミナントでは、♭9インターバルが生きる。
それから、これは♭9インターバルではないですが、こんなのもありますよね。



長3和音なんだか短3和音なんだかわからない(違)ような和音。

ラプソディ・イン・ブルーに出てくるやつ。
♯9thなんて言われますが、いわゆる『Blue Note』。
これがどうやって生まれたのかというと、9thが半音上がったのではなくて…
このあたりの話は、また書きますね。
 

 

  耳がどう捉えるか

 

結局のところ、聴く人、その耳がどう捉えるか、だと思うのです。
禁則の音から違和感を感じるのなら直せばいい。
そうではなく、むしろ面白い、新鮮だ、気持ちいいと感じるのであれば、そう書いたらいい。
ドビュッシーだって、なにかの響きが欲しかったから、ああ書いたわけですよね。
逆に、べつに禁則には当たらなくても違和感があるものもあるかもしれない。
心地よくない、面白くない…
それは捉える人、その感覚によっても違うだろうし、時代によっても変わってくる。
だから、耳(感覚)を研ぎ澄ますことが大切なのですね。
なかには理屈だけで捉える人もいます。理論と違う、禁則だからダメだ、と…
でも、それって本末転倒ですよね。
もちろんだからといって、禁則なんか破っていいということではないのです。
感覚を研ぎ澄まして、どう聞こえるのか、そして、なにを求めるのか、なのですね。
違和感がないのは感覚が未熟な場合もある。多々ある。
とにかく、音を聴くこと、なのですね。

さて、みなさんは禁則、気になりますか。
 

 

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