音楽が音楽として成立する要件ってなんだと思われますか。世界にはいろいろな音楽があるので一概には言えないでしょうが、まずはメロディかもしれませんね。では、次に必要なもの、大切なものって、なんでしょうか。
こんばんは。
トロンボーン吹きで作編曲家、吹奏楽指導者の福見吉朗です。
問題
さっそくですが問題です。
冒頭の楽譜を見てください。マルティーニです。
楽器紹介で、これをやることになったとします。
ところがあいにく、その日はトロンボーンが2人しかいません。
さて、どの2パートを演奏したらいいでしょうか。
1と2?
1と3?
それとも…
ちなみに、Twitter(X)で訊いたアンケートの結果はこんなふうになりました。
1と3が多いですね。
音楽の3要素
みなさん、音楽の3要素って聞かれたことはないですか。それは…
メロディ、リズム、ハーモニーの、3つ。
この際、リズムは置いておいて…
いちばん必要なのはメロディかもしれませんね(必ずそうとは限らないでしょうが…)。
メロディがあれば、それはモノフォニーとして成立します。
では、もう1声部増やせるとしたら、なにを足したらいいのでしょうか。
上の問題、そういうふうにも言い換えられると思うのですよね。
さて、何?
ハーモニー
ぼくが思うことを書く前に、冒頭の3重奏を少し分析してみましょうか…
1番パートは、もちろんメロディですね。
2番パートは、その下声部(ハーモニー)です。
ここで、和音の第3音に注目してみましょう。
8分音符以下の短い音は別として、長い音だけを見てみると…
1番パートにはハーモニーの第3音が3つ、2番パートには6つもあります。
探してみてください。
2ndってやっぱり第3音が多いのですね…
では、3番パートは何でしょうか。
これは、旋律の下声部ではなくバスですよね。ベースラインです。ここがポイントなのです!
古典和声では…
ところで、古典和声では第3音は省略できないことになっていますよね。
もちろん根音は省略できないですよね。主人、ですからね。
第5音は省略していい。でも、第3音は和音の性格(長短)を決定づけるので省略できない…
冒頭楽譜の3声にも、第5音省略が見られます。
(アウフタクトのユニゾンはアレンジの妙です)
解決した主和音で第5音を省いて(減らして)根音を増やすと終止感が増しますよね。
あっ、でも、そういうことを第一に考えて楽譜を書くわけではないのです。
第一に考えるのは、横の流れ。各声部の流れを自然に、音楽的にすることなのです。
特に『限定進行』といわれるもの、これを破るのには『相当な』理由が必要です。
ホルン五度
ここで少し余談。
冒頭の楽曲がもしホルン2重奏だったら、きっとこんなふうに始まるでしょう…(inFです)
2拍目の完全五度、これ、『ホルン五度』といいます。
第3音がないやんけ! と言われますか?
ホルンのこれだけは許されているのですよ。なぜだと思いますか。
昔々、まだホルンにバルブがなかった時代…(200年ちょっと前)
おもに自然倍音列で演奏できるように、作曲家は工夫したのですね。
それで生み出された伝統的な響きが、上の『ホルン五度』というわけなのです。
バス
いろいろと書いてきましたが、そろそろ最初の問題の答えといきましょうか…
まずは、音を聴いてみてください。
♪1と2の音 ♪1と3の音 ♪全体の音
参考までに全体の音も上げてみました。
さて、1と2、1と3、どちらが、より自然で、より音楽として成立していると思われますか。
1と3の組み合わせではないでしょうか。
第3音がいちばん多い2番パートがないわけですから、空五度やオクターブが多くなります。
にもかかわらず、ハーモニーを感じませんか。
バス、ベースラインが決まればハーモニーは8割方決まる、そんなふうに思うのです。
メロディのほかにもう1声部選ぶとしたら、内声ではなくベースだと思うのです。
その2声部を聴いて、人間は脳内でハーモニーの音を無意識に補填しているのかもしれません。
メロディとベースがあれば、音楽として成立するのです。
楽譜を書く時も、ハーモニーを決めるのは、まずはベースから、ですよね。
もちろんこれは絶対的な正解ではなく、人により音楽により変わってくるものかもしれません。
さて、みなさんはどう思われますか。