某全国紙〔2023/12/14〕「情報面」に、「戦争の物語 舞台で伝える90代」という、二人の女性俳優Nさんと I さんの活動を伝える記事がありました。Nさんと I さんは、劇団の特別公演「戦争とは…」の舞台に、30年ほど前の初回から出演を続けているとのこと。今も舞台に真摯に向き合い、満足しない姿勢は二人に共通しているそうです。「生きていく姿や思いを伝えるのはものすごい大変なことだなと、今にして思うんですよ」とは、90代のNさんの述懐です。
ところで上掲においては、「ものすごい大変なこと」という箇所が目に留まりました。これは本来「ものすごく大変なこと」となるところです。しかし今はテレビなどでも、「すごく」〔連用形〕【註1、註2】のところを「すごい」〔連体形〕と言う場合がほとんどではないかと思われるぼどです。それは老若男女を問わず、です。ただ、テレビの字幕スーパーで「すごく」と変えているのを見かけることはあります。従って、たまにテレビから「すごくおいしい」「すごくきれい」などと聞こえて来たりすると、何故か懐かしさを覚えたりします〔「ものすごい」は、同じ活用を示す形容詞「すごい」で記述します〕。
【註1】、『言葉の作法辞典』〔学研〕は、「すごく」を見出し語に掲げており、次のような一節があります。
「すごく」は形容詞「すごい」の連用形。この「すごく」を、副詞的に用いると、「すごく暑い」「すごくおもしろい」のように程度のはなはだしい意となる。終止形の「すごい」を使った「すごい楽しい」は、話し言葉ではよく使われるが、いわないほうがよい。
【註2】『新明解国語辞典』第七版〔三省堂〕は、「すごく」を副詞として見出し語に掲げています。
すごく【凄く】(副)
各国語辞典に、「すごい」使用についての解説があります〔『広辞苑』第七版には、解説はなし〕。特に『デジタル大辞泉』の引用文の冒頭に「俗に」とあるのは注目したいところです〔抜萃して引用させて頂きました。用例中の、見出し語を表す記号( ー )は、文字表記に変えさせて頂きました。下線はすべて引用者です。=引用者〕。
『デジタル大辞泉』〔1995〕
俗に連体形を副詞的に用いて「すごいおもしろい人だ」のような言い方もある。
『明鏡国語辞典』第二版〔2011ー2018〕
|語法| 話し言葉では、「すごい」を「すこく」と同じように連用修飾に使うことがある。
「すごい悔しい」
「お母さん、すごい怒ってたよ」
もう一つ。不思議なのは、「連用形」のところを「連体形」で表現するのは「すごい」だけではないかと思われる点です。例えば、「すごい」と意味が通う部分のある形容詞「ひどい(酷い)」などは、「ひどい暑い夏だった」とは言わず、「ひどく暑い夏だった」と本来の表現をするのではないでしょうか。さらに、形容詞「赤い」「白い」などは。花が「赤い咲く」とか「白い咲く」とは言わないでしょう。
以下は、藤圭子歌『圭子の夢は夜ひらく』〔石坂まさを詞、曽根幸明曲〕の一節です。
赤く咲くのは けしの花
白く咲くのは 百合の花
どう咲きゃいいのさ この私
夢は夜ひらく
以上。…だから何だということはなく、「すごく」のところを「すごい」と言う現象がある、ということを記録しておきたいと考えた次第です。お付き合い、ありがとうございました。
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「すごく」と「すごい」については、
以前のブログで取り上げています。
⇒ 「すごく楽しかった」と「すごい楽しかった」〔2017/5/24〕
⇒ 「凄いおいしい」「肉々しい」という言い方〔2023/4/8〕
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~~ 青 空 ~~
◎センダン【栴檀】(センダン科)。…だと思います。
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「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない 宮沢賢治」