某テレビ番組のトークコーナーで、蕨餅が好きだという若い女性タレントが、何故好きになったかを語っていました。それは、祖母が、何かというと蕨粉を練って作ってくれたからとのことでした。彼女は、「そのせいで、蕨餅が好きになりました。」と言いました。
私は、あれ、と思いました。「そのせいで」という言い方が気になったのでした。共演者の中にも「えっ」と言う声があったように思われましたが、それはともかく私が言いたいのは、「そのせいで」は「そのおかげで」ではないのか、ということです。
そこで、国語辞典を抜粋・引用させて頂き、冒頭の表現を並べてみました〔用例中の、見出し語を表す記号( ー )は、文字表記に変えさせて頂きました。=引用者〕。
「せい」について
『広辞苑』第七版
せい【所為】
上の語句をうけて、それがある物事(多くは、よくない物事)の原因・理由であることを示す。ため。ゆえ。せえ。
「人のせいにする」
「年のせいか早く目覚める」
「気のせい」
冒頭の表現「その〔 = 祖母が、何かというと蕨粉を練って作ってくれた〕せいで、蕨餅が好きになりました」
感想 「冒頭の表現」は、国語辞典の要点「多くはよくない物事」とは合致しないのでNOではないか。
『明鏡国語辞典』第二版
せい【所為】
〔名〕
《連体修飾語を受けて》それがある結果の原因・理由となっている意を表す。
「失敗を人のせいにする」
「酒が入っているせいか声が大きい」
「服が真っ白 な/のせいもあって汚れが目立つ」
|表現|
1 よくない結果にいうことが多いが、よい結果にもいう。
「苦労したせいか心遣いがこまやかだ」
2 感謝の気持ちがこもる文脈で使うのは誤り。
「× あなたのせいで助かった
(〇 あなたのおかげで助かった)」
冒頭の表現「その〔 = 祖母が、何かというと蕨粉を練って作ってくれた〕せいで、蕨餅が好きになりまた。」
感想 「冒頭の表現」は、国語辞典の「よくない結果」とは合致しないが、「よい結果」とは言えるでしょう。しかし、「感謝の気持ちがこもる文脈」とは言い切れないので、「冒頭の表現」はOKか。
「おかげ」について
『広辞苑』第七版
おかげ【御蔭】
1 神仏のたすけ。加護。また、人から受けた恩恵・力ぞえ。
「君のおかげで助かった」
2 (善悪にかかわらず)ある人や物事がもたらす結果・影響。
「あいつのおかげでえらい目にあった」
『明鏡国語辞典』第二版
おかげ【御蔭・御陰】
〔名〕
1 神仏の加護。
2 人から受けた恩恵。また、ある物事などによる結果。
「あなたのおかげで助かった」
「皆が協力してくれたおかげで期日に間に合った」
「渋滞のおかげで遅刻した」
冒頭の表現「その〔 = 祖母が、何かというと蕨粉を練って作ってくれた〕せいで、蕨餅が好きになりまた。」
感想 冒頭の表現は、国語辞典の「人から受けた恩恵・力ぞえ」とは言えなくても、「(善悪にかかわらず)ある人や物事がもたらす結果・影響」「ある物事などによる結果」には合致するので、冒頭の表現は、「その〔 = 祖母が、何かというと蕨粉を練って作ってくれた〕おかげで、蕨餅が好きになりまた。」としてよいのではないでしょうか。
以上から、「その〔 = 祖母が、何かというと蕨粉を練って作ってくれた〕おかげで、蕨餅が好きになりました」の方が相応しい、と言ってよいのではないでしょうか。これが、私としての結論です。
最後に一言。仮に、「蕨餅が好きになった」ではなく、「好きになってしまった」といった、「取り返しがつかない」ニュアンスの表現なら「せい」でよいと言えるでしょう。
「その〔 = 祖母が、何かというと蕨粉を練って作ってくれた〕せいで、蕨餅が好きになってしまいました。」
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秋から冬へ
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「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない 宮沢賢治」