某病院の内科にお世話になっていたときのことです。行けば、まず血圧を測ることから始まります。あるとき、長いこと知りたいと思っていたことを、担当の先生に聞いてみました。血圧の単位「mmHg」のことです。
「これは、何と読むのでしょう」
「ミリミリ…、何だ?…」
年配のその先生は、言葉に詰まってしまいました。…
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なぜか、そんなことを思い出しました。10年ほど前の、嘘のような、本当の話です。
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「mm」が、ミリメートル、略せばミリであり、「Hg」が、血圧計に使われている水銀を表す記号であることは承知していました。私としては、その二つが合わさった「mmHg」を何と読むのか知りたかったわけです。先生は、不意をつかれて面食らったとでもいうのでしょうか、「mm」を「ミリミリ」と読んだのです。「ああ、聞かなければよかった」と、私は強い後悔の念にとらわれたことを覚えています。
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思い出しついでに、インターネットで調べてみようと思い立ちました(十二分に遅ればせながらの感あり、ですが…)。
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『ウィキペディア』
水銀柱ミリメートル
ミリメートル水銀柱
《mmHgは、「ミリ水銀」「ミリエイチジー」「ミリメートルエイチジー」
と読まれることがある》
という説明があります。
『レファレンス協同データベース』
水銀柱ミリメートル
または
ミリメートルエッチジー
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その他にも、ミリ水銀柱、ミリメータ水銀柱、水銀柱○○ミリメータ、ミリマーキュリー (mer
cury = 水銀)等、いろいろに読まれていることが分かりました。もしかしたら、あの内科の先生は、こういう状況を十分わきまえていて、どの読み方を答えたらよいかに迷っていたのでしょうか!?…
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その後も、あれやこれやで、某病院以外にも、通院する機会がけっこうありました。改めて気付いたことは、どこの病院の診察室でも、「mmHg」とか「/μl」とか「mEq/l」とか…、そういう単位は、いちいち口にすることはない、ということです。それは単位だけでなく、例えば血圧についても、いちいち「収縮期血圧129、拡張期血圧84」とか「最高血圧129、最低血圧84」とは言わず、「上が129、下が84」とさえ言わず、言うのは「129の84」というように数値だけです。つまり、通常は、数値以外はあまり問題にならないもののようです。
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しかし、あまり問題にならないものであるにしても、「mm」を「ミリミリ」と読むのは、どうでしょう。…
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あのときのことは、大袈裟に言うなら、トラウマになっています。聞いたほうがトラウマ云々は変かもしれませんが、あれから現在まで、別の医師や看護師にも「mmHg」の読み方を聞いたことはありません。なぜなら、聞こうと思っても逡巡が先に立ってしまうからです。