人間の性はなぜ奇妙に進化したのか。(長谷川寿一訳 草思社文庫)
この言葉はジャレド・ダイアモンドの著書のタイトルの邦題である。この本のタイトルの原題は“Why Is Sex Fun?: The Evolution Of Human Sexuality”『セックスはなぜ楽しいか? ヒトのセクシュアリティの進化』で,単行本のタイトルは原題の直訳であった。このタイトルについて訳者の長谷川寿一は単行本の「訳者あとがき」で次のように書いている。
「97年,原書が出版された直後に,米国の書店に通信販売で注文したところ,『当書は貴国では通関できない可能性があるのでお送りできません』との返事が届いた! 本書はポルノ扱いされ,さらに日本の税関はイスラムや共産圏世界のそれと同格にみなされたらしい。博士が来日した折りに,この話を披露したら,大いに笑い転げられた。ついでに,このタイトルはご自身の命名ですか,と尋ねたところ,『もちろん。ぴったりのいい題名でしょう』との返事であった。訳者としては,いささか気恥ずかしくもあるのだが,邦題も原著者の意を汲んで直訳とした。」
ところが,文庫化にあたって『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』と改められた。その理由にについて訳者の長谷川寿一は「文庫化にあたっての追記」で次のように書いている。
「日本語訳初版では,原書を直訳し『セックスはなぜ楽しいか』と題したが,文庫版では,女性や中高生などにも手に取りやすく,本書全体の内容をより正確にあらわす『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』とした。(大学の講義でも,堂々と副読本として指定できるようになりました)」
ジャレド・ダイアモンドは博覧強記の人だ。しかし,それだけではない。ダイアモンドが興味深いのは,問いの立て方が非常にファンダメンタルで,遠大なパースペクティブをもっているところにある。それは,ピュリッツァー賞を受賞した『銃・病原菌・鉄』を読めばすぐに分かるが,本書の考察も進化生物学の観点から,ヒトが直立二足歩行と大型の脳を獲得したということと並んで,ヒトの祖先を大型類人猿から分かつにいたった決定的な要素が,その性であるという大胆な考え方に基づいていて,たいへん興味深いのだが,文庫化に際しての邦題の変更は私としてはいささか残念な気もする。(笑)
文庫本の表紙
↓
単行本の表紙
↓