監督:松本優作
キャスト
東出昌大(金子勇)
三浦貴大(壇俊光)
渡辺いっけい(北村文哉)
吹越満(秋田真志)
吉岡秀隆(仙波敏郎)
************************************
ファイル共有ソフト「Winny」の開発者が逮捕され,著作権法違反ほう助の罪に問われた裁判で無罪を勝ち取った一連の事件を,東出昌大主演,「ぜんぶ,ボクのせい」の松本優作監督のメガホンで映画化。
2002年,データのやりとりが簡単にできるファイル共有ソフト「Winny」を開発した金子勇は,その試用版をインターネットの巨大掲示板「2ちゃんねる」に公開する。公開後,瞬く間にシェアを伸ばすが,その裏では大量の映画やゲーム,音楽などが違法アップロードされ,次第に社会問題へ発展していく。違法コピーした者たちが逮捕される中,開発者の金子も著作権法違反ほう助の容疑で2004年に逮捕されてしまう。金子の弁護を引き受けることとなった弁護士・壇俊光は,金子と共に警察の逮捕の不当性を裁判で主張するが,第一審では有罪判決を下されてしまい…。
金子役を東出,壇弁護士役を三浦貴大がそれぞれ演じるほか,吉岡秀隆,吹越満らが脇を固める。(「映画.com」より)
************************************
ファイル共有ソフトWinnyを開発・公開したことで,著作権法違反幇助罪で逮捕・起訴され,7年半に渡る裁判を戦い2011年12月に最高裁で無罪を勝ち取った天才プログラマー金子勇の裁判を描いた映画。つまり,実話に基づく映画である。
この事件が報じられた当時,私はWinnyの技術がどのようなものであり,P2Pがいかに画期的な技術であるのかということをよく知らなかった。今回少し調べてみて分かったのは,金子が7年半の間プログラミングの作業ができなかったことで我が国のIT 技術の進歩が外国に大きく後れをとったと言われていて,彼がいかに優秀なプログラマーであったかということである。もちろん,それを知らなくても映画の鑑賞には支障はない。したがって,ここではそういったことは脇に置いて映画としての内容についての感想を書くことにする。
映画は金子が逮捕・起訴され一審で有罪になるまでを描いているのだが,裁判で争われたポイントは「他人の著作物を無断でコピーすることは著作権法違反であり罰せられるのは当然だが,そのための技術を開発して公開した者までもが著作権法違反幇助としてその罪を問われるべきなのか」ということである。金子の邪念のない技術開発の精神に共鳴して彼の弁護に全身全霊を傾けるのが弁護士の壇俊光である。この問題についての彼のスタンスは,例えば刃物が凶器として使われたとしても,それを作った職人が罪に問われるわけではないということだ。したがって,裁判はWinnyを製作した金子の製作意図を巡って争われることになる。しかし,この点で弁護側は不利な立場に置かれることになるのだ。それは,金子が警察の取り調べの中で警察官に誘導されて申述書を書くのだが,警察官が作った作文をそのまま写すようにと言われ,なんの疑いもなく「著作権侵害を満えん(金子は「蔓延」という文字を誤って記述している)させるためにWinnyを作りました」と書いてしまっているからである。もっとも,裁判では敏腕弁護士の秋田真志がその点について証人として出廷した警察官のウソを見事に暴き立てるのであるが…。
映画を通じて描き出される金子勇の人物像は申述書の件でも分かるように,元来まったくのオタク気質でプログラミングについては天才的だが,非常に天真爛漫な人で社会常識にはとても疎い人物というイメージなのだ。その金子勇役を演じた東出昌大だが,体重を18kg増やして臨んだ演技がじつに見事で金子勇が乗り移ったのかと思わせるほどであった。演技という点で言えば,社会的感覚のズレている金子に少しやきもきしながらも必死に彼を支える弁護士の壇俊光役を演じた三浦貴大の演技もその思いを十分に観客に伝えるものがあったし,論理的に検察側の証人を追いつめていく秋田真志役の吹越満の安定した演技も印象に残った。
このように,俳優陣の演技は申し分がないのだが,本作は映画としてのインパクトに欠ける面があり,その点が残念ではある。それはおそらくいろいろなものを詰め込みすぎたために,焦点がやや曖昧になってしまったためであろう。つまり,この映画は金子勇という人物を描きたいのか,Winny裁判の裁判劇なのか,警察の捜査のあり方を糾弾しているのか,金子と壇の友情を描いているのか…。おそらくそのどれをも描いているのだろうが,いずれもが中途半端な結果に終わってしまっているのだ。特に,平行して描かれる愛媛県警の裏金問題はWinny裁判と全く無関係ではないにしても,警察の腐敗を描くために挿入されている感があり,映画の焦点を却って曖昧にする結果になっているように思われた。
