3分読書、読んで頂き、ありがとうございます。

これまで書いた作品も、読んで頂ければと思います。

地球の選択 - 二つの未来 

では、「記憶の書」を読んでみてください。

爆 笑爆笑爆笑


深夜の古書店で、中村悟はひときわ目を引く一冊の日記を手に取った。その表紙は革で覆われ、時間を経た風合いが感じられるものだった。彼は何気なくページを開いたが、そこに記されていた内容に目を疑った。それは、まるで自分の過去の出来事が詳細に書かれているかのようだった。初めて犬を飼った日、小学校での卒業式、初恋の人との出会い。普通なら忘れ去られがちな細かなエピソードまで、鮮明に綴られているのだ。




最初は自分に関する何かの奇妙な偶然か、或いは誰かの悪戯だと思った悟だったが、読み進めるうちに、その日記はただの偶然や悪戯で説明できないほどの詳細な記述で自分の生活が描かれていた。不安と興味が入り混じる感情の中で、悟は更にページをめくった。そして、そこには昨日起こったばかりの出来事が、彼が誰にも話していない心の内まで含めて書かれていた。


恐怖を感じながらも、彼はその日記から目が離せなくなった。そして、まだ訪れていない未来のページに手が伸びる。そこには、明日彼が体験することになる出来事が書かれていた。それは、彼が普段通りに会社へ行く途中で突然の事故に遭い、重傷を負うというものだった。


この予言のような記述に戦慄した悟は、その日記を持って古書店を後にした。家に帰る道すがら、彼は深く考え込んだ。この日記は一体何者が書いたのか、なぜ自分の過去と未来が書かれているのか。そして、書かれた未来を変えることはできるのだろうか。


家に着いた悟は、日記をテーブルに置き、深夜までその日記について考え続けた。未来が本当に訪れるのか試すため、そして何かを変えることができるのかを確かめるために、彼は翌日の予定を変更することに決めた。しかし、その決断が彼の運命を更に複雑なものにしていくとは、この時の悟にはまだわかっていなかった。


翌朝、中村悟は自分の決意を試すべく、いつもの通勤路を敢えて変更した。日記には特定の交差点で事故に遭うと書かれていたため、彼はその場所を避けるルートを選んだ。不安と期待が交錯する心境で、彼は会社へ向かった。しかし、その日の彼の心は完全に日記の記述に囚われていた。路面電車の窓から外を眺める彼の目には、通り過ぎる風景がいつもよりも鮮明に映っていた。


その日の勤務中も、悟は日記のことで頭がいっぱいだった。昼休み、彼は日記をもう一度確認した。ページを開く手が震えているのを感じながら、彼は未来の記述を読んでいく。驚いたことに、日記の内容が変わっていた。今朝避けた交差点の事故は記述されていなかったが、代わりに新たな出来事が追加されていた。その夜、帰宅途中の雑踏の中で強盗に遭い、大事な書類と共に財布を奪われると書かれていた。


この新たな予言に直面し、悟はさらに混乱した。日記が彼の選択に応じて内容を更新するという事実に、彼は恐怖とともにある種の可能性を感じ始めた。彼はこの力を使い、何か良い方向に導けるのではないかと考えた。しかし、同時に、この不可解な日記がもたらす未来の予測が、彼の日常にどれほどの影響を与えるのか不安でもあった。


午後の仕事を終え、悟は警戒しながら帰路についた。日記の予言を回避するため、彼は人通りの多い道を避け、人目のつかない裏路地を通ることにした。心臓の鼓動を感じながら足早に歩く悟の耳に、突然後ろから足音が聞こえてきた。振り返ると、怪しげな男が追いかけてくるのが見えた。急いで逃げる悟、しかし、男は彼を追い越し、前に立ちはだかった。




この瞬間、悟は自分の選択が未来をどう変えても、避けられない運命があるのかもしれないと感じた。しかし、諦めるわけにはいかなかった。彼は男に立ち向かう決意を固め、持ち前の機転を利用してその場を切り抜けることを試みた。この出来事が、悟にとってさらなる転機を迎えるきっかけとなるのだった。


中村悟は裏路地で追いつめられた状況から、何とか機転を利用して逃げ出すことに成功した。彼の急いだ足取りは、家にたどり着くまでの間、誰にも見つからないことを祈りながらのものだった。家に安全に入ると、彼は深く息を吸い、自室に駆け込んだ。彼の手にはその日記がまだしっかりと握られていた。


部屋の中で、悟は疲れ切ってソファに倒れ込むと同時に、日記を開いた。彼は日記が新たな未来をどのように書き換えたかを確認したいと思った。驚くことに、日記の内容は再び更新されており、今度は彼が無事に家に帰るシナリオが書かれていた。この日記が、彼の選択に応じて未来を書き換えることができるのだということが、この瞬間、はっきりとした。


この発見に心を奮い立たせた悟は、日記の力を使って、自分だけでなく他の人々の未来にも良い影響を与えられないかと考え始めた。彼は試しに、日記のページに友人の一人が昇進する未来を具体的に描いてみた。翌日、その友人から、予想外の昇進のニュースが報告される。これにより、悟は日記が単なる未来の記述以上のもの、つまり願いを叶える力を持っていることを確信した。




しかし、そんな力があればあるほど、それを悪用しようとする者も現れる。日記の存在が知られれば、それを狙う危険も増す。悟はその力を秘密にしておくことの重要性を痛感し、日記をより安全な場所に隠すことに決めた。


数週間後、悟は日記を使って小さながらもポジティブな変化を社会にもたらそうと努力していた。しかし、彼は常に自分がこの力を持つことの倫理的なジレンマに悩まされていた。力があることでできることと、してはならないことの境界を見極めることが、彼にとって新たな試練となっていった。


日記の書が悟に与えたのは、ただ未来を知る力だけではなかった。それは彼自身がどのように生きるべきか、どのように他人と関わるべきかを考えるきっかけを与え、彼の人生観を根本から変えることとなった。そして彼は、この不思議な力を持つことの責任を、一生懸命に、しかし慎重に担いでいく決意を固めたのであった。