3分読書、読んで頂き、ありがとうございます。

これまで書いた作品も、読んで頂ければと思います。

地球の選択 - 二つの未来 

では、「図書室の囁き」を読んでみてください。

爆 笑爆笑爆笑


夜の大学図書室は、昼間の喧騒から解放され、静寂に包まれていた。主人公・佐倉恵介は、研究論文の資料を集めるためにわざわざ夜間開館日を利用していた。時計の針はすでに10時を回り、訪れる学生もまばらになってきていた。恵介が最後の資料を手に取ろうとした瞬間、突然、図書室全体を包むような停電が発生した。


「またか…」とつぶやく恵介。学内では最近、断続的な停電が続いていた。いつもはすぐに復旧するのだが、今夜は何故か電気が戻る気配がない。仕方なく、彼はリュックから小さな懐中電灯を取り出し、そのぼんやりとした光を頼りに本棚を手探りで進んだ。




図書室の奥に位置する古文書のセクション。普段は誰も手に取ることのない、古びた本が並ぶ棚の前に立つと、ふと、小さなささやきが聞こえてきたような気がした。「助けて…」という弱々しい声。恵介は思わず足を止め、耳を疑った。声は明らかに人間のものだったが、周りには誰もいない。声のした方向に懐中電灯を向けると、その光が一冊の古い日記に反射した。日記は無造作に棚から落ち、床に開いた状態で転がっていた。




恵介は好奇心と恐怖の入り混じった感情に駆られながら、ゆっくりとその日記を手に取る。日記を開くと、今度はもっとはっきりとした声が聞こえてきた。「ここから出して…」。声は日記のページから直接、彼に語りかけているようだった。日記の持ち主は過去の学生のようで、その文字からは切実な願いが滲み出ていた。


ページを捲るごとに、恵介の周りの空気が重くなっていくのを感じた。日記の記述は次第に激しさを増し、持ち主が経験した恐怖が文字から滲み出ているようだった。図書室に残されたこの日記は、かつてこの場所で起こった悲劇の証だった。日記には、「彼らが来る、隠れなければ」という言葉が繰り返し書かれており、その度に恵介の背筋を寒気が走った。


恵介は日記の最後のページにたどり着いた。そこには、日付の記載が途絶え、代わりに急いで書かれたような荒々しい筆跡で「もう隠れ場所はない。彼らは知っている。この日記を見つけた者よ、警告する。決して夜、図書室に残るな」と書かれていた。その瞬間、どこからともなく強い風が吹き、突然図書室の全ての本が棚から飛び出し、空中に舞い上がった。




恵介は恐怖で足が竦み、その場に崩れ落ちそうになる。しかし、彼はなんとか持ち直し、混乱の中で何かが彼を見つめている感覚に襲われた。図書室の最も暗い角から、二つの小さな光る点が恵介をじっと見つめている。息を呑んでその点を凝視すると、それが猫の目だと気づいた。だが、その猫はどこかおかしい。その目は普通の猫の目とは異なり、人間のような知性を宿しているかのようだった。


恵介は懐中電灯を手に再び立ち上がり、本が散乱した図書室を後にしようとした。しかし、出口に向かう彼の足元で、再び日記がページをめくる音が鳴り、不気味な声が耳元で囁いた。「逃げてはダメだ、終わりを見届けるんだ」と。その声は苦しげでありながら、どこか冷たく、無情にも感じられた。


恵介の心臓は恐怖で強く打ち、その場から動くことができなかった。図書室の空気は冷え切り、息をするたびに白い息が霧のように立ち上る。彼は何とか自分を落ち着かせ、もう一度深呼吸をしてから、懐中電灯を固く握りしめた。部屋の中心に立ち、恐怖に立ち向かう決意を固める。


「見届けるんだ、終わりを」と自分に言い聞かせながら、恵介はもう一度日記を手に取った。そこには、最後の持ち主が体験した恐怖が生々しく記されていた。読むごとに周囲の空気が一層重くなり、彼は自分が日記の中の物語に引き込まれていくのを感じた。この日記は、かつてこの図書室で起こった凄惨な出来事を記録したものであり、それが何らかの形で今にも影響を及ぼしているようだった。


突然、図書室の奥からゆっくりとした足音が聞こえ始めた。足音は徐々に大きくなり、恵介の背後に近づいてきた。振り向く勇気もなく、彼は息を潜めてその場にじっとしていた。すると、耳元でささやく声が聞こえた。「ありがとう、私の話を聞いてくれて。」


その声の主を確認する勇気を振り絞って恵介が振り向くと、そこには透明な姿の若い女性が立っていた。彼女はかつてこの図書室で命を落とした人物で、自身の話を誰かに知ってほしいと願っていたのだ。恵介はその透明な姿に手を伸ばすが、触れることはできなかった。


女性の幽霊は微笑を残して、ゆっくりと消えていった。恵介は深く息を吐き出し、やっとのことで図書室の出口に向かった。外に出ると、夜明けの光が地平線からさしこんでいた。図書室での出来事は誰にも信じてもらえないかもしれないが、彼にとっては忘れられない体験となった。それからは、彼は図書室に残されたすべての本に新たな敬意を払うようになった。そして、決して夜、一人で図書室を訪れることはなかった。