先日、早朝のラジオ番組を聴いていたところ、ゲストで出ていた女性演歌歌手がこのような言い間違いをしていた。彼女はイベントの告知をする際に、福岡・北九州市にある八幡市民会館を「八幡市の八幡市民会館」とのたまったのであるが、八幡市と言えば、現在の北九州市が合併する前に存在していた5つの市の1つで、それも半世紀も前の話であるから、思わずラジオに向かって「あなたはいつの時代の方なのか?」ツッコミを入れそうになったのは言うまでもない。
それはともかく、このような時代錯誤的な言い間違いは結構公の場で起こるようで、時には罰金まで科されたという話も聞く。それがこれから書く東京・明治神宮球場での出来事であるが、この話は実に20年近くも前に起こった事である。この時、神宮球場ではヤクルトスワローズ対阪神タイガース戦が行われていたが、その発端は当時阪神タイガースの投手であった嶋田哲也氏が打席にいた古田敦也氏に向けて投じられたえげつない球からであった。
嶋田氏が古田氏に向けて狙ったのかどうかは知らないが、本来なら危険球で退場となってもおかしくはない頭への投球が1球ならまだしも3球も投げられたのであるから、日頃温厚な古田氏も怒らずにはいられない。嶋田氏に歩み寄って「狙ってやったのか?」と問うと、この日マスクをかぶっていて、現在はタイガースのバッテリーの台所を預かる山田勝彦コーチが近寄ってきた。ここで古田氏が山田コーチの胸を押すや否や、押された側は一発ど突き、負けじと古田氏も首投げで応戦する。そうなってくれば、燕も虎も「出撃開始」となるのは当然であり、たちまちバトルロイヤルとなった事は言うまでもないが、残念ながら観客も参加しての大混乱にならなかった事は実に惜しい。
結局、乱闘の発端になった古田氏と山田コーチが喧嘩両成敗という事で退場となったが、今度はその判断を下した審判が問題の言い間違いをしてしまった。この試合の責任審判は三塁塁審であった田中俊幸氏であったが、この件についての経過説明を場内放送で説明した時に古田氏の属する球団を事もあろうに「ヤクルトアトムズ」とぬかしたからたまらない。スタンドからはヤジと怒号が飛び、結局田中氏は古田氏や山田コーチと共にセントラル・リーグからきついお叱りと罰金を喰らっただけでなく、リーグの上層部も「審判の教育が足りない」という事で連座して罰金を喰らうという波紋を呼んだ。その後、田中氏は別の試合で犯したミスジャッジが元で審判の職を辞して6年前に鬼籍に入ったが、この方の審判人生は良きも悪しきもいろいろな事が起こっており、まさに「山あり谷あり」と言えよう。
事の発端となった嶋田氏は引退後の現在、その田中氏と同じNPBの審判としてグラウンドに立っている。もしも彼があの試合をジャッジしていたら、マウンドにいた自分に対して危険球での退場処分を下し、そして、スワローズの事を「アトムズ」と口にしていたのであろうか?思わずそんな事も考えてみたくもなった。