恥辱とカタルシス -19ページ目

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

やっぱ家はいいね!

こんにちは、渋谷です。



家はやっぱりサイコーやわあ。屋根はあるし湯は出るし。

ベッドはぬくいしクッションは人を駄目にするし。なんせ猫がいる。キャンプに猫は連れていけんもんで、にゃんこ成分が薄まるのよねえ。

猫を膝に乗せ本をめくる。言うことないわ。しみじみ思いましたが、読書って宇宙ですな。ファンタジーやSFなんかを含めれば、現実の世界の何倍もの情報が蓄積されてる。時代もいくらでも遡れる。人の心の中を深く掘り下げることもできる。

キャンプに出て、山やら海やらぼんやり見てると、逆に「狭い世界やなー」と思うのよね。目に映るものしか触ることができない。

読書は目に映らないものを手に入れることができる作業なのね。面白ろっ。ますます本を読みましょう。

という訳で曽根圭介さんの「沈底魚」。江戸川乱歩賞受賞作、曽根さんのデビュー作です。



警視庁公安部外事二課、というところにお勤めの不破さんという刑事さんが主人公です。40歳。周りと溶け込む気ゼロの無頼派です。お友達はいません。

やべえ……私かよ。いや、私には家族がいますが。悪意なく周囲と距離をおく不破さんの人間性が異様に分かります。5年前に「あなたは傷つくことを恐れて着ている鎧を脱ごうとしない」とか言って、嫁さんは出ていったようです。違うよ、ナチュラルに他人に興味がないだけだよ。だから距離をおいて付き合ってくれればそれでいいんだよ。無理に心を開かせようなんて考えるからいかん。

鎧も皮膚なんだっつーの。まあそんな無頼派の不破さんが、中国、日本、アメリカがそれぞれ糸を引く2重3重のスパイに翻弄され、真実に肉迫していくまでの物語です。

私があまり読まない、警察小説というジャンルです。警察なんですが、描写はほとんどヤクザの集団です。警察内部でも策略や闘争が繰り広げられていて、その波をかいくぐりながら不破さんは北京から送り込まれたスパイを追っていきます。

そっからもう、スパイだと思ってた人が囮だったりやっぱりスパイだったり、あっちのスパイしてたはずなのに二重スパイで実は敵だったり、目くらましだった標的がやっぱり目くらましじゃなくて本星だったり、本庁から来た上司がスパイなのかと思ったら違ったりやっぱりそうだったり、もう……。

もう複雑過ぎて、気を抜くヒマがない!

多分ね、警察小説を読み慣れてる人には頭に入って来やすいんだと思うのよ。お話の展開も早くて追いにくいんだけど、その上男同士の全ては語らぬやりとりとか。言葉を越えたところにある信頼関係とか。

「ちょっと説明が足らん!待って、もうちょっと分かりやすく噛み砕いてー!」ってなる。不破さんはモノローグでひたすら状況の説明をしてくれてるんですが、話が複雑過ぎて何度も何度もページを遡って読み直しました。そして……最後の最後にものすごい爆弾を投下して逃げちゃう不破さんに、驚愕。

いやー、これが曽根圭介さんのデビュー作なんですね。やっぱりこの人の破天荒ぶりが私は好きです。警察官なのに、闇に通じた老人にすべての情報をぶちまけて姿をくらます不破さん。このあと、CIAとか永田町とか中国の安全部とかは上を下への大騒ぎになるんでしょう。一件落着、大団円にしないんだね。やっぱり受賞作には熱が必要なんだわ。



という訳で、読み慣れない警察小説でちょっと戸惑いましたが、ストーリーの力でねじ伏せられた感じの「沈底魚」。エンターテイメントでした。面白かったです。

さあ次はどうしよっかな。道尾秀介さんにしようかなー。楽しみ楽しみ。

ではでは、またっ!

キャンプから帰ってきました!

 

こんばんは、渋谷です。

 

 

 

ゴールデンウィーク後半、また二泊三日でキャンプに行ってきましたよ。

 

こうとか

 

 

こうとか

 

 

 

こうとか

 

 

こう。

 

 

 

 

意味わかりますかねー。

 

パラグライダーができるキャンプ場でキャンプしてたら、ひょうが降ってきてタープ(日よけ)が裂けましたよ、という話ですね。

 

もう7年ぐらい使ったタープですが、まさか裂けるとは思わんわねえ……。またこれで夫にキャンプ用品を購入する余地を与えてしまうことになりましたよ。なんかこのあともお金がかかる行事が目白押しなんですけどね。誕生日母の日父の日お中元。さあどうしましょう。手元には1万円分のマックカードがありますが、マックばっか食ってるわけにもいかんしなあ。

 

まああれです、有川浩さん原作の「県庁おもてなし課」にも出てきたキャンプ場は気持ちが良かったです。あとのことは何とかやりくりしましょう。専業主婦の腕の見せ所ですね。

 

 

 

さて、キャンプ場でも本を読みました。新潮社ストーリーセラー編集部編の「Story Seller」です。収録作家さんは

 

伊坂幸太郎

近藤史恵

有川浩

佐藤友哉

本田孝好

道尾秀介

米澤穂信

 

となっております。

 

ミステリー限定の短編集というわけではなくて、色んなテイストのお話が詰め込まれています。長さは短編って言うか中編に近いような気もする。結構読み応えのあるお話ばかり。

 

はっきり言ってね、全部面白かった。伊坂幸太郎さんの「首折り男の周辺」はちょっとしたドラマになりそうな上質なミステリー。有川浩さんの「ストーリー・セラー」は作家の妻と支える夫の恋物語。本田孝好さんの「ここじゃない場所」はサイキック青春ミステリー。色んな風味のお話がありましたが、やっぱり特筆すべきは道尾秀介さんと米澤穂信さんかな。

 

道尾秀介さんの「光の箱」は、童話作家になった男が、過去に誤解を抱いたまま別れた元カノとよりを戻すまでのミステリーです。叙述トリック満載。結構長い話なので詳細は割愛しますが、誤解が解けた瞬間、恐れるべきものがなくなった瞬間って、読者もほんとに大きな安堵を得るんだなと思った。だからやっぱり、ミステリーってハッピーエンドで終わった方が読後感がいいのね。まあどんな話でもそうだと思いますが、叙述トリックを駆使したのちのバッドエンドって結構痛々しい。

 

なんか裏切られた気すらしてイラっと来たりするよね。心温まるラストを迎えた「光の箱」、とても素敵なお話でした。

 

 

 

対してぎょっとしたのが米澤穂信さんの「玉野五十鈴の誉れ」。

 

この間読んだ「身内に不幸がありまして」と中盤までほぼ同じ話です。お嬢様とお付きの召使の少女。こっちの話は、弟が生まれたことで祖母に命まで狙われているお嬢様(跡継ぎ問題がいろいろ複雑らしい)を助けるため、召使の少女が弟を焼却炉で焼き殺しちゃう話です。

 

その時、「はじめちょろちょろ中ぱっぱ、赤子泣いても蓋とるな」つって歌いながら焼き殺しちゃうんだぜ。私、キャンプでライスクッカーでご飯炊きながらこれ読んじゃったんだぜ。赤子は焼却炉の蓋をガンガン叩いて泣き叫んでいたのでしょう。……怖いわ。私が火にかけたライスクッカーの中には何がいるのか……どきどき……まあ、炊き立てご飯でしたが。

 

なんせその発想に驚きましたよ。びびった。面白いねえ。私もこんなの書きたいなあ。

 

 

 

というわけで今日はおしまいです。早よ連休終われっ。洗濯物干してこよ。

 

ではまたー!

令和令和ー!

 

こんばんは、渋谷です。

 

 

 

平成終わったね。最後の日にも本を読んだ。2冊目です。これをアップする頃には令和ですが、たった今はまだ平成。NHKの爆笑問題を見ている。

 

カウントダウン見なきゃと思って。あと2分だって。で、短編集を読みましたよと。日本ベストミステリー選集 「暗闇を見よ」です。

 

収録作家さんが、

 

赤川次郎

飴村行

乾ルカ

歌野晶午

北村薫

倉知淳

柴田よしき

辻村深月

法月林太郎

……あ、令和になった。

平山夢明

道尾秀介

柳広司

米澤穂信

 

……となっております。

 

 

 

道頓堀もセンター街も大騒ぎやな。ハロウィンとかに騒ぎ立てるタイプの人たちかな。雨の中ご苦労様ですなあ。私は本読んでブログ書いてますが。色んな人がいるから世の中面白いね。

 

で、この本もとっても面白かったよー。もんのすごく久しぶりに赤川次郎さんを読んだ。「隣の四畳半」。安定の怖くない謎。いいですね。その後の飴村行、乾ルカの両氏は私、すごく苦手なやつだった。悪夢やんただの……。まあこれも好みの問題やからね。好きな人は好きなんでしょう。でも私は嫌でした。げっそり。そんな中。

 

やっぱり琴線に触れたのは道尾秀介さんの「冬の鬼」、米澤穂信さんの「身内に不幸がありまして」です。道尾秀介さんの「冬の鬼」は、すごい傑作でした。

 

何がどうすごいって、女性の日記の形をとった独白ものなんですが、日付が遡っていくのよ。不穏な内容から始まって、そこに至るまでの理由が少しずつつまびらかになっていく。「どうしてそんなことになったのか」の原因が、ちょっとずつちょっとずつ明らかになっていくの。だから知らない事実が合法的後出しジャンケンの形ではっきりしていく。叙述トリックではないのね。あの「……そんなんもっと詳しく言ってくれな分からんわ!」みたいな置いてけぼり感覚を味わうことなく、「そ、そーやったんや……!」が小出しにやってくる。

 

こりゃ面白い手法やねえ。時間を遡っていくっていうのはひとつのテクニックなんでしょうが、こんなに効果的に読者に驚きをもたらすなんてびっくりですよ。主人公の女性は火事で家族を失い、顔にひどいやけどを負ってるんですが。

 

それを愛する人に見られたくないがために、その人にお願いして眼球を摘出する手術を受けてもらっちゃうんです。自分の変わり果てた姿を見られていることが苦痛だったんですね。そしてその眼球をダルマに埋め込んでお焚き上げをした。これで私たちは幸せになれるはず。……なのになぜか鬼の足音が遠くから聞こえてくるような気がする。というのが一連の流れ。

 

これを逆の時系列で書いていくんです。鬼におびえる描写から始まって、ラストシーンが眼球摘出後のラブラブぶり。ぐわああ……なんという余韻。やっぱり私の好きな道尾秀介さん。面白かった!驚きの短編でした。

 

 

 

米澤穂信さんの「身内に不幸がありまして」も良かった。犯人は大体目星がついちゃうんですが、犯人が殺人に至るまでの動機が面白かった。「身内に不幸がありまして」……このセリフで会社ずる休みしちゃう人、いますよね。

 

この犯人はサークルの合宿をサボるために、大学入ってから三年連続でひとりずつ身内を殺しちゃうんだぜ!合宿で寝てる間になんか口走ると大変だっつって!なんやそら!ですが、名家の令嬢だからおかしなこと口走るわけにいかないんだってさ。この令嬢に仕える使用人の少女の目線で書かれた作品なんですが、描写が美しくて切なくて本当に良かった。素敵な作品でした。

 

他にも、平山夢明さんの「吉原首代売女御免帳」、辻村深月さんの「十円参り」も良かった。「吉原首代売女御免帳」は身を売る女の悲哀を書いた時代小説です。逃げられない女の悲しい運命。残酷さにたまらなくなりますが、こういう話はままあったんでしょうね。人情もの……でもないのよ、バッドエンドだから。でも覚悟を決めた女の迫力が圧巻でした。短編とは思えない読後感だった。面白かったです。

 

 

 

と、いうわけで令和も本を読みます。そして小説を書きます。あれこれジャンルを広げて読んでいきたいと思います。書くのも根詰めてやります。まあまずゴールデンウィークが終わらんことにはどうにもなりませんが。しょうがないので、焦らず。

 

ではでは、おやすみなさい!

はい、さくっと読了!

こんばんは、渋谷です。



今日は家中に掃除機かけたり、キャンプ中の汚れ物洗濯したりアイロンがけしたりして、昼から読書タイムにしました。平成最後の一日、通常運転が一番いいかなって。

 

多分私、明日世界が滅亡しますよと言われても掃除して洗濯してご飯作ってっていう一日を過ごすと思う。平常心が一番だ。なんか世の中年越しそば食べてる人もいるんだってね。これは面白い。確かに大きな意味で年越しだもんね。うん、うちも晩御飯天ぷらそばにでもしようかな?

 

そんなわけで道尾秀介さんの「片眼の猿」を読みましたよ。軽い文体で書かれているのであっという間に読めちゃいましたが、とてもしっかりしていて中身のある、面白い探偵ものでした。




主人公三梨は盗聴専門の探偵。どうやら人とは違う形状の耳をもっているらしく、となりのビルの話し声まで聞こえちゃうんだって。だからでっかい耳してるのかな?と思いますよね。それを隠そうとしているのか、おっきなイヤホンをつけてる。そんな三梨は探偵事務所ファントムの代表です。


彼がとある楽器会社に雇われ、ライバル会社に調査に入るところから話が始まります。楽器のデザインがパクられてみるみたいだから証拠を掴んでくれ、と依頼される三梨。得意の盗聴で証拠を得ようとしますが、聞いてしまったのはライバル会社のオフィスで起きた殺人事件の一部始終でした。


時を同じくして三梨はサングラスをかけた女探偵と出会います。「同じ人種」であることを察知し、女探偵冬絵をファントムに誘う三梨。冬絵と三梨は早々に男と女の関係になってしまいますが、この冬絵がなんか怪しい。


四菱エージェンシーという悪徳探偵事務所に所属していたんですが、ここは依頼人に浮気調査などの結果を伝えず、調査対象を脅しちゃったりする会社なんですね。「この証拠、いくらで買います?」みたいな。そこから来た冬絵は、もしかしたら三梨が巻き込まれた殺人事件の犯人なのかも知れないのです……!




うん、面白かったねえ。


この作品、事件自体はすごく読者に優しい伏線を張ってくれてるんですね。だから気安く読み進めることができる。でもびっくりは事件が解決してから。


三梨や冬絵、そして探偵事務所が入るビルの多彩な住人たちの秘密が一気に明らかになるのですが、これが爽快だった。ずっと「すごく大きな耳」なのかと思わされていた三梨は凍傷で耳自体を失っていて、冬絵は一重の小さな目を気にしていただけ。


盗聴も超人間的な能力ではなく、盗聴器を仕掛けてイヤホンで聞いていただけでした。ほかの仲間たちも、少しずつ不思議な特徴を持っているんですが、みんな鼻がなかったり、目が見えなかったり、腕がなかったりする。これは叙述トリック的な形で最後まで隠されていたんです。


「片眼の猿」とは、周りがみんな片眼の集団の中に産まれた両眼の猿が、自分についた両眼を恥じ、自ら片眼を潰してしまったという逸話に基づいています。両眼の猿は眼と共に自尊心も潰してしまった。耳がなかったり目が小さかったり腕がなくても、自尊心をなくす必要はない。いい話。そしていい仲間。ミステリーとしてもだけど、人間ドラマとしても素敵なお話でした。




しかし、この作品は小説だから成り立つのね。映像化は不可能。映像にしちゃったらなんも謎がなくなっちゃうもん。


続編もない造りだよね。この流れが「カラスの親指」に繋がったのかななんて思います。面白かった。私、こういうお話好きです。


さて、次も道尾秀介さん読もうかなあ。それとも短編集かな。……短編集がいいかな。明日も一日家でのんびりする予定だから、またすぐ更新するかも知れません。


あー、平成終わる。次は令和第一回ですね。昭和生まれは過去の産物やな。まあ強く生きていこう。とりあえず天ぷらそば。晩ごはんつくろっ。


ではではまたっ!

キャンプから帰ってきましたー!

 
こんにちは、渋谷です。
 
 
 
キャンプ行ってきました。
 
こうとか
 
 
 
こうとか
 
 
こう。
 
 
 
画像のサイズってこれでいいのかなー。デカかったらごめんなさい。
 
スノーピークがやってる高知のキャンプ場で、スノーピークのテント(バカ高い。ひと張り25万とかする)ばっかりの中、堂々とコールマン(庶民派テント。それだって軽く10万超え)張ってきたぜ!
 
キャンプって野営のクセにお金かかり過ぎる……。キャンプ場も1泊5000円とかする。田舎育ちなので、外で寝て金がかかるとか理解の範疇を超える。うちの山で野営したらタダですよ?と思うけど、まあ快適さが違いますわな。
 
ゴールデンウィーク後半でももう一回キャンプするかも。もうあとは茶漬けとこんこ(漬物)で給料日まで過ごすしかないわー……。
 
さて、昨日帰ってきてやっと本を読みました。道尾秀介さんの「向日葵の咲かない夏」。
 
新人賞受賞第一作だそうです。かなり力のこもった、ホラーに近いミステリーでした。
 
 
 
 
うーん、これは……ね。
 
衝撃的なんですが、多分好みが分かれるなー。
 
ミチオくんという小4の男の子が主人公。同級生のいじめられっ子、Sくんの首吊り死体を見つけちゃうミチオくんが、妹のミカ、Sくんの生まれ変わりのしゃべる蜘蛛と共に、Sくんを殺して自殺に見せかけた犯人とSくんの死体を探す、というストーリーです。
 
なんかこの世界観の中では、死んだ人間は動物とか昆虫になってすぐ生まれ変わるんですね。で、人間と同じように喋って、ミカとSくんは和気あいあいと冗談を言い合ったりします。ミカは3歳の女の子なんですが、めちゃくちゃ口が立ちます。……ここでおかしいと思ったんだよなー。3歳児はこんなに話せない。機転も利かない。
 
ミチオくんとSくんの担任の先生、岩村先生に殺されたと主張する蜘蛛になったSくん。岩村先生は男児専門の変態です。付近で多々発見される動物の惨殺体も岩村先生の仕業なのか?ミチオたち3人はハラハラドキドキの冒険を繰り広げるのです。
 
 
 
……と、このあたりは「向日葵」って題名も分かる感じの流れなんですが。
 
この辺りから「……ん?」ってなってくる。
 
結論から言うと、ミチオくんはだいぶ基地外くんなんですね。Sくんは生まれ変わってなんかいないし、そもそもミカという妹だっていなかった。
 
Sくんは実際に死んでいて事件として現実にはあったのですが、「あのパートは現実」「このパートはミチオくんの空想」っていうのが入り乱れて一連の流れになっていた。大体Sくんだと名乗る蜘蛛が「岩村先生に殺された」って登場してすぐ主張してましたが、実際には岩村先生はSくんを殺していませんでした。
 
変態なのは事実なんですが。これもミチオくんが作り出した空想、ということになってるんだけど……どうなんだ?ちょっとご都合主義過ぎやしないか?
 
先に枚数が決められていて、そこに収まる長編を書こうとした、という感じの、微妙なエピソードがいくつかあるんですね。  
 
岩村先生の下りはいらんかったんじゃないかなー。真相とかけ離れ過ぎてる。あとご神託を降ろす近所の変わり者婆さんが実は猫でした、ていう下りも苦しい。ストーリーを分けて考えると、話をふくらませるために挿入したエピソードの中にいらないものが混ざってる気がする。
 
確実に必要なものの方がもちろん多いんですが。「え?」ってなるやつがいくつかねえ。ミカが、実はお母さんが流産しちゃった胎児の生まれ変わりのトカゲ、って辺りとかは必要ですが。盛りだくさんにしようとして頑張り過ぎちゃった感じがするなあ……。
 
 
 
とは言え。
 
練り上げられたプロット、奇想天外な結末、驚きの仕掛け、渾身の力作であることはよく分かります。迫力があって目が離せなかった。惹き込まれて一気よみしちゃいました。
 
とにかく、「主人公の気が狂ってるからこそ成り立つ叙述トリック」って辺りに疑問を感じちゃったんだよね。ここまで主人公の見てる幻に頼り切っちゃったんじゃ、ミステリーとして成り立たんやん。ホラーとして読むならアリだけど。なんか置いてきぼりにされた気分。
 
この作品が研ぎ澄まされて「月と蟹」とかに繋がっていくのかな。大作家も初期作品はこうなんだな、と感じました。まあエラソー。エラソーですが、一読者の意見ってことで。
 
熱がすごかった「向日葵の咲かない夏」。次も道尾さんにしようかな。
 
というわけで、またっ!