とーふのかたち (詩) -3ページ目
テレビの画面からは
若者たちが自分たちの意思を、自由を
守るために
闘う姿が映し出されている
ああ、もう昔の自分ではないのだと知る
あのころのわたしは
このような光景を見たら胸が押しつぶされるような
そんな思いを吐き出そうと言葉を縫い合わせていた
彼らが正しいのか、そうではないのか
そんなことを真剣に悩み
決して誰かに響かないとしても
第三者でいようとはしなかった
結局は第三者でしかないことなど気にも留めず
今ではすっかり目の前のものに追い立てられ
そんな彼らを映画を見るように非現実のものとして
受け止めてしまっている
しかし、彼らとわたしは同じこの空を
同じ朝焼けを、同じ夕暮れを見上げ
ともに温かな血をめぐらせ
生きている
年を重ねるごとに
弱さはかさぶたを剥がすこともできなくなり
たまにかゆがるように過去を思い返す
ああ、もう昔の自分ではないのだ
そんなとき若き頃に読んだ詩を思い出す
古きかさぶたは剥がしてしまえ
自らのなかに新しさはある
守らずにきた感受性を
今一度、叩き直せ
あの小さなトラの野良猫は
十字架の下で眠りこけている
真っ白な色の自転車が
こきこきと変てこな音を立てて
バックしてくると
「にゃあ」とも鳴かずに
川のそばまで歩いていく
風がヒゲをぴょおんと押し曲げた
派手な柄のシャツを着た白髪のひとが
日曜日になると野良猫の横に座って
地の底が抜けるほどの大きなため息をつく
このひとはきっと、肩の上に
重いものをのせすぎたのだろう
「にゃあ」と鳴くわけでもなく
野良猫は眠りこけているだけ
赤く燃える空を見上げていた少年が
ゆっくりと駐輪場へ消えていく
ふと陽が落ちて、少年が
自転車を滑らせていくと
かすかな月の匂いは
気づかれぬように追いかける
小さなこの街が寝静まったころ
野良猫はこっそり「にゃあ」と鳴いた
遠くに見える焼き鳥屋の提灯が
明かりを灯すこともなく
静かに風に揺られている
それがまるで自分のようだと
野良猫は思ったのかもしれない
(2003年ごろ作成)
梯子をのぼっていくと
侵食するように景色は広さを持つようになり
見たことのない 普段見慣れた街並みに
新しい感動を覚えさせられる
そして
見下ろした足元の先に在る街並みは
まるで私をあざ笑うかのよう
慌てて下へ降りようとして
しまう右手 と左手
遠くへ広がる街並み
足元に広がる街並み
その違いは一体何なのだろう
梯子はがたがたと揺れ動き
そのくせ地球は
まったく微動だにしないように
回りつづけている
梯子と地球 右手と左手
その違いは一体何なのだろう
私はまだ
梯子に揺られている
(2003年ごろ作成)

