タイトル:アリス殺し

著者:小林泰三

発行:創元推理文庫

発行日:2019年4月26日

 

 

 

 

 

 

あらすじ 

栗栖川亜理はここ最近、不思議の国に迷い込んだアリスの夢ばかり見ている。

ある日、ハンプティ・ダンプティが墜落死する夢を見た後、亜理が大学に行くと、玉子という渾名の博士研究員が校舎の屋上から転落して死亡していた。

グリフォンが生牡蠣を喉に詰まらせて窒息死した夢の後には、牡蛎を食べた教授が急死する。

夢の世界の死と現実の死は繋がっているらしい。

不思議の国で事件を調べる三月兎と帽子屋によって容疑者に名指しされたアリス。

亜理は同じ夢を見ているとわかった同学年の井森とともに冤罪を晴らすため真犯人捜しに奔走するが……邪悪なメルヘンが彩る驚愕の本格ミステリ。

 

 

 

 

読み切ったあとの感想が、「面白い」より先に

「グロ・・・」とか「えぐ・・・」が来た作品でした。

なかなかグロテスクな表現がある作家様だとは事前情報で知っていたけれど…

グロテスクでしたね……

 

夢と現実を行き来しながら両方面から事件の謎を追う、という構成はとても面白い。

「ここの事件の表向きの真相は…?」と個人的に突っ込みたくなる箇所はあったものの、

まあ、作中ですべての謎の解説する必要はないか…と納得できるレベルの物事である。

ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』の世界観をモチーフにしているから、

細かいことは気にしなくていいんですよ、というスタンスなのかもしれない。

「考えるな、感じろ」に近い作品。

とはいえ、ミステリ好きにはロジカルな事を好む人も多いから、

そういう人には腑に落ちない点が目に付くかもしれない。

 

『不思議の国』がメイン舞台なので、登場人物たちの考えや言い回しは独特。

『夢』から『現実世界』に戻ってきても、『現実』の登場人物の話に違和感がないのは、

恐らく文体自体がかなりシンプルで、ほとんどが描写ではなく登場人物の会話文で成り立っているからだと思う。

たぶん小説の8割以上が会話文だ。

 

 

 

P86

白兎は驚いたような顔をしてこっちを見た。「はあ?おまえ誰だ?」

ビルを忘れたの? ひょっとしてボケがきてるのかしら?

「またかい」ビルはため息を吐いた。「よく嗅いでご覧よ」

白兎はくんくんと空気を嗅いだ。「ああ。ビルか。どうも爬虫類は臭いが薄くて困る」

「だから。匂いに頼るんじゃなくて、ちゃんとした眼鏡を掛ければいいんだよ」

「眼鏡なんぞに頼ったら、目に見えるものしかわからなくなる。人間も同然だよ」

 

改行の位置が独特。

そのおかげで、会話文だらけの本文で誰が話しているのか判別できる。改行の位置大事。

 

目に見えるものしかわからなくなる・・・

そうかもなぁ。

なんだか最近、世の中便利になったでしょう?

だから、1から10まで馬鹿にもわかるように説明してあるのが当然、みたいな風潮あるよね・・・。

私も大概に賢くないのでその恩恵にあずかっているわけだけれど、

その親切があまりに当たり前になりすぎると、

まるでその親切をしなかった――――つまり馬鹿にもわかりやすく示さなかった方が『悪い』みたいに言われる時代になって、なんだかなぁ、と思う。

なんで電子レンジの説明書に

「ネコを中に入れないでください」なんて書かなければならないのか。馬鹿馬鹿しい……。

(これ、都市伝説だったんだってね。本当かと思っていたよ。何言っているかわからない人は以下↓)

猫を電子レンジでチンした訴訟とは?アメリカでの事例や真相について解説 | ねこちゃんホンポ (nekochan.jp)

 

 

あと最近目にしたジブリパークでの不適切事件とかね。

(この記事書いているのが3月の中旬なので、いろいろ今更感あるのは許してほしい)

これに対してジブリは『ノーコメント』対応して、何故か批判食らっているけれど、

『ノーコメント』の判断は、私は正しいと思うよ。

 

「キャラクターの像にセクハラしないでください」

なんて当たり前のことをジブリパークなんて大御所が注意書き表示やり始めたら、

小さい企画展でもその注意書きが必要になってしまうかもしれないじゃないか。

で、いずれは「そういう注意書きがなかったので、セクハラOKだと思いました」なんておバカな人間が出てくるのよ。

回転寿司で「テーブル備え付けの醤油点しを舐めないでください」なんて一々書かれる世の中になるのだなんて、私は御免だね。

 

 

派手に脱線した。

軌道に戻そう。

 

 

 

P192

テーブルの上にはもはや置き場は全くない。

だから、食器の上に食器を置き、菓子の上に菓子やティーカップやポットを置くしかないのだ。

ティーカップの下敷きとなったケーキは潰れ、お茶がテーブルの上に溢れ出しても、もちろん誰も片づけはしない。

テーブルのあちこちに小さな水溜まりができ、それが少しずつ広がり、さらに大きくなり続ける。

やがては池か小さな湖のようになり、どこから這い上がってきたのか、魚が泳ぎまわり、それを目当てに水鳥たちが降り立ち、彼らが運んできた種が根付いて、一面の水草だらけになっており、アリスはその水草を掻き分けながら、クッキーを探さなければならなかった。

 

ティーでできた小さな湖で泳ぐ魚!!

それを食べにくる水鳥!!

まさに不思議の国、っていう感じがして最高だね。

 

 

 

本作がルイス・キャロルの作品をオマージュしているためか、

充分お楽しみいただくためには原作読んでおいた方がいいだろうなぁ、って気がする。

もちろん、世の中にはたくさんのオマージュ作品が溢れているので、

原作読んでいなくても登場ワードに疑問符を浮かべなくて済む人はいるかもしれないが。

 

『不思議の国のアリス』の登場キャラクターは『知っている前提』で書かれているので、

少なくともディズニー映画の『不思議の国のアリス』は見ておいた方が楽しめるだろう。

後は、以下のワードと内容を軽く知っておけば、より楽しめると思う。

もちろん、予習などしなくても大体の雰囲気は作中から読み取れるし、

『不思議の国のアリス』自体が理解不能の作品なので、細かい事は気にしなくてもいい。

 

ハンプティ・ダンプティ - Wikipedia

ジャバウォック - Wikipedia

バンダースナッチ - Wikipedia

スナーク狩り - Wikipedia (ブージャム)

 

 

本作、面白かったし、ミステリ小説らしいオチも含めて楽しめた。

小林泰三氏は『メルヘン殺しシリーズ』として他に4作品出しているようなので、

第一弾となる本作を気に入った方は是非!

私はグロテスク描写の耐性ついてから参戦しようかな!

(西尾維新、乙一、湊かなえ、山田悠介作品や、ほか殺人事件のあるミステリと比較しても、本作のグロテスクな描写はなかなかのものである)

 

 

追記:

小林泰三氏のオノマトペ、独特だな…ってとても思った。

嘔吐の効果音が「ぶべっ!」って…。

 

以下、個人的メモ。ネタバレにはならないけれど、一応反転。

アーヴァタール・・・インド神話における神の化身

 

 

 

TOP画は以下からお借りしたものを少し加工させていただきました!

ホラーな木その2 – SILHOUETTE DESIGN (kage-design.com)

少女の横全身シルエット2イラスト - No: 2613297/無料イラスト/フリー素材なら「イラストAC」 (ac-illust.com)

(不謹慎な雰囲気への加工申し訳ない(ー_ー;))

 

 

 

 

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オマージュ元となった元祖・不思議の国のアリス

【25】不思議の国のアリス(ルイス・キャロル)(河合祥一郎・訳) | 秋風の読書ブログ (ameblo.jp)

 

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他にもおすすめの本があればコメントで教えてくださいね!

では素敵な読書ライフを!