マイマイ新子と千年の魔法(DVD)
傑作「この世界の片隅に」を監督した片渕須直さんのことを全く存じあげませんでした。若い頃から宮崎駿作品に関わり、「名探偵ホームズ」シリーズの脚本を書き、ジブリ作品の中で私も大好きな「魔女の宅急便(89)」の監督候補(実際は演出補を務める)にもなられた実力者とのこと。そこで、大変遅ればせながら、前作の「マイマイ新子と千年の魔法(09)」を、12月8日の深夜にDVDで観賞しました。
これがまた素晴らしい作品でした
。

昭和30年の山口県周防市の自然豊かな農村を舞台に、空想好きで活発な小3の新子が、都会から越してきた女の子(貴伊子)や、学校の男友達と交流を深めながら、ゆっくりと成長していく物語。
新子には偏屈だが新子にだけは優しいおじいさんがいる。彼の影響で、彼女はいつも村の下に眠る千年前にあったという都の暮らしに思いを馳せている。
この新子の性格や、彼女を取り巻く人物、物語の骨格が、私には高畑勲さんや宮崎駿さんが関わったテレビの連続アニメ「アルプスの少女ハイジ」を思い起こさせました。新子と貴伊子の関係は、ハイジとクララのよう。亡くなった貴伊子の母の愛読書が「ハイジ」であるのは、あながち偶然ではなく、片渕さんからのメッセージかも。
圧倒的な農村風景の美しさ、その中を自由奔放に動き回る子供たちの躍動感、虫や鳥や蛙の鳴き声にせせらぎの音の臨場感など、アニメーションでしか表現できない世界に浸っているだけで涙が溢れてきました。
この作品は、子供は身体を使い、工夫をこらし、想像力豊かに遊ぶことで、いかに多くのことを学んでいるかを改めて教えてくれます。物質的には無駄なほど豊かになった現代ですが、今の子供たちが置かれた環境が、この頃の子供たちに勝っているとは私には全く思えませんでした
。

(以下、ネタバレです。)
印象的な場面がたくさんあります。上手いなあと感心したのは、新子と貴伊子がいっきに打ち解けていく際のきっかけ、ウィスキーボンボンのくだりです。最高でした
。ここで貴伊子にとっては一番辛い母の死について、さらっと笑って言わせてしまう演出が巧みだと思いました。

この作品は戦後復興期にある日本の典型的な田舎での生活を描いていますが、ノスタルジー一辺倒かというとそうではありません。子供たちが憧れている大人たちの暗い一面も容赦無く見せつけるところに、単なる子供向け映画にはしていない片渕さんの凄さを感じます。
しかし、新子たちは、目の前に突きつけられた厳しい現実を、健気にも自分たちのパワーで乗り越えていきます。タツヨシの父が通ったバー・カリフォルニアへの殴り込みシーンは、何事にも一生懸命で純粋な子供たちの行動に心を打たれました。
清々しいラストも印象的です。子供にとって出会いと別れはつきもの。遊びを通じてお互いに影響を与えあい、それを繰り返しながら、知らないうちに子供は成長していく。
すっかり村に馴染んだ貴伊子の姿を微笑ましく思うと同時に、旅立つ新子については、彼女がこの後どういう大人になったのかを観てみたい気がしました。おじいさんと同じように学校の先生を志すのでしょうか。もしかすると、ひづる先生は未来の新子の姿なのかもしれません。
残念なのは、千年前の都の話の新子そして貴伊子への絡ませ方が、少し無理があってしんどいところ。子供は、友達を作ること、遊ぶこと、笑うことが大切で、それは時代を超えて普遍なんだということはよくわかりましたが、別の話が中途半端に引っ付いているような感じを受けました。
ただし、それも面白がって観てしまえるのですが
。

最後に付記しておきたいのは、新子の声をあてられた福田麻由子さん、本当に良かったです。また、劇伴のようにずっと流れる軽快な音楽、スキャットも印象に残りました。
「この世界の片隅に」を観て良かったと感じた方は、ぜひこちらもご覧いただきたいと思います。
それにしても、「マイマイ新子と千年の魔法」というタイトルや宣伝用のポスターの絵からは想像もつかない内容でした

オススメ度:4
5 とにかく必見です
4 お勧めできる良作です
3 興味があれば観てください
2 あまりお勧めできません
1 理解に苦しみます
(1〜5の表現を、このたび整理しました)
この項、おわり