「信長一人称」
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「桶狭間の合戦まで」 第二十一部
続いて、余は、善照寺を目指した。ここで信盛が連れてくるであろう、すべての尾張勢を待つことにする。すべて、とは言え、いい所、二千弱であろう。
その間に、訃報が入った。既に中島砦についていた佐々勝通と千秋四朗が先走り、今川勢に攻め込んでしまった。今川勢の見えざる圧力に飛び出ざる得なくなってしまったのか、余がすぐそばまで来た事によって、気持ちが大きくなってしまったのか、それとも、よくある話だが、大将である余に手柄を見せたかったのか、いずれにしろ悲しい事だ。しかし、これも、「塞翁が馬」、その事で今川側はこちらの願い通り、思惑通り、油断をし始めている。しかも、大将の義元を筆頭での油断である。
今川軍本陣は沓掛城を拠点としていたが、そこよりわずか一里ほどの桶狭間で陣を張った、そう、早馬からの伝があった。
また一つ、訃報が入った。
佐久間盛重が丸根で討たれた。討ったのは元康だった。
悔しいが、余にも、焦りが生じた。
「ご愛敬ですよ」余に、岩室が耳打ちした。「まぁ、大丈夫です。佐久間様には申し訳ないが、致し方ない、といえば致し方ない。これも、殿の為の討ち死にと思い、本人もご家族も本望と思われますぞ。末代まで誇りに思える本望でありますることでしょう。そうする為にも、殿、この戦、勝たねばなりますまいぞ」
「分かっておる。貴様よりも、よっぽど余の方が分かっておるわい」
桶狭間で、義元は早めの昼食を取り始めたとの事である。堕落した兵は酒まで饗している。義元に関しては謡を三番うたった、との事。
その後、鷲津砦も落とされた。
「いけますぞ」岩室はもう、正気ではない。戦場に向かう恐怖のためか、余の作戦を知らされ、それに酔いしれているのか、そうすることで、恐怖心を和らげようとしているのか、奇人と化している。味方がやられる事に快感を得ている様である。「いよいよ行けますぞ。これはいやがうえにも、流れはこちらに向いております。こちらは義元の首だけをとればよいのです。他の一切は必要ないのです」
早馬がまた来た。
今川軍は桶狭間で昼飯をとるため、陣を停滞させているとの伝であった。しかも、大高周辺をすべて陥れた事に舞い上がり、盆と暮れが同時で、更には花見や紅葉狩りまで、この際、一緒にまとめてしまえと言わんばかりに、既に祝勝祭を始めているとの事。
ようやく、信盛の部隊が余の本陣に合流した。
小僧は、余に鎧を着けてくれた小僧は、いなかった。
つづく
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