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「桶狭間の合戦まで」 第九部



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「桶狭間の合戦まで」 第九部


 地図は一畳程の大きなもので、地形の起伏が実に巧妙に描かれている。山は緑に、川や海は青く、砂州や平地は薄い茶色で、彩り鮮やかに描かれてある。城をはじめ、城下町や村里、無人の野が、躍動的に、生き生きと、動きださんとばかりに揮毫されている。これは忍びに作らせた地図である。

 忍びは、好かぬ。信じることが出来ぬから好かぬ。しかし、その実力は優れたものと認める。だから、利用できる所は、こうして、利用する。

「これが」と、飛車を、人差指と親指と中指の三本の指を使って、それまでよりもやや力が込められた感じで、ぱちっ、と胸がすくような音を、あえて鳴らしてみせて、尾張の陣地内である大高城に、打ちおろした。「これが松平元康だ」余は、その駒を使う事に、誇りさえ感じた。そして、その飛車は余を現す玉を、目を向いて睨みつける、といった感覚を覚えさせ、余に飛び付かん、という向きで置いた。

「たけちよ、…、…」

 と余は小さい声で呟いた。

 そして、もう一度、

「竹千代!」

 と今度は、はっきりと、己の心を確かめる様に言った。

 竹千代、つまり、徳川家康の事である。


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