テイコさん
病院の待合室でテイコさんがカタル声を聞いていた。
白内障って目が白くぼやけるそうや
目は幕を張ったみたいに白くぼやけてるんやそうやけど、
動かす口 吐く息 放たれるコトバはマッハや
香住の田舎で生まれた少年が夜中に父母が喋るのを聞く
ぎょうさん子ども産んだけど、面倒見てもらう子ォはひとりや
あとの子ォはいらん
少年は次の日田舎を出る。
大阪では製麺所で働いた。製麺所で働き、オトコになった少年は、
うどん屋の娘と結婚した。
うどん屋の娘は器量は良かったけど、変わりモンで、
娘の噂は眉を顰め近所で語られる。
オトコが娘を選んだのは
客の多いうどん屋のタイショウになりたかったからやそうや
娘は3人子供を産んだ
いちばん上の男の子が
テイコさんの夫や
テイコさんはそこまでカタリ、
目を上げる
看護婦さんを目で追う
次は自分の診察の番らしい
やがてテイコさんの夫となるその男の子は
勉強が好きで、洋食屋のオムライスが好きで、
うどん屋はキライやったそうや
うどん屋のタイショウになるために
変わりもんの娘と結婚したオトコには
息子の気持ちがわからない。
上の学校にいくことは許さない
男の子は伯父と教師の力で進学したそうや
テイコさんはここでカタリを中断し
診察室へ消えていった。
外は春
遅れて咲いた梅がにおう
上の学校を出た男の子は
せんそうにいき
通信兵になる
ツーツー ツッツゥ
やがてテイコさんの産んだこどもに
通信信号を教えたりした
せんそうから かえり
おとこになった男の子は
郵便局につとめたそうや
郵便局にはテイコさんとテイコさんの美人のともだちも働いていたそうや
おとこは美人に愛を伝え、美人にソデにされ、
慰めてくれてたテイコさんと結婚した。
外は春
診察室から出てきたテイコさんのカタリは佳境にはいるが
わたしは眠くて声のカタチがわからない
相槌がワンテンポ遅れたりするが
テイコさんはそれに気づかない
テイコさんはわたしにカタっているわけではない
白くにごって見える目には
わたしは映っていないんや
テイコさんが産んだ2人のコドモのひとりが
やがてわたしの夫になるのだが、
そのはなしはまた こ ん ど
ねむい・・・
ねむい・・・
舞踏稽古場日記 赤ちゃんに髪を掴まれながら踊る夜
稽古場に生後6か月のレンちゃんがやってきた!
この稽古場で出逢って結ばれたレイコさんとサトシくん。
ふたりは昨年の夏(レイコさんが『臨月公演』を成し遂げたまさにその夜)、自宅でサトシくんがあかちゃんを取り上げるというお産を経験。
そして誕生したのがレンちゃんなのだ。
その後3人は魂の赴くまま、遥か南の地、宮古島に移住し、この夜は数か月ぶりの再会の夜となる。
赤ちゃんが稽古場にやってきた!
レンちゃんは成長が早いようで、6か月ですでにハイハイを極めている。
久しぶりなのに、満面の笑みをみんなに向けてくれるし、いざ稽古が始まると、その空気を感じるようで、じっと何かを見つめる表情をしたりする。
レイコさんのお腹の中、羊水で泳いでいたレンちゃんは、すでにこの稽古場で母と一緒に踊っていたのだから、何かを掴んでいるのかもしれない(笑)
いや、本当に、私はレンちゃんの鼓動を感じながら、その鼓動に踊らされるようにカラダが動く・・・という経験を何度かしたことがある。
つまり、生まれてくる前のレンちゃんと一緒に踊ったことがあるのだ。
だからレンちゃんが何かを掴んでいても不思議ではないのだ。
その日の稽古は、面白かった。
三人が海の匂いを連れてきてくれて、他の四人のメンバーのカラダも、命の誕生の海・・・のような感触をつかみながら踊っていた。
実際にレイコさんとカヨさんは昨年出産したほかほかのママなので、命の誕生というその夜のテーマは極私的にもあふれる思いがある。だからなのか踊りにも具体性があり、思わず見入ってしまうものだった。
レンちゃんが稽古に加わることで、「命」ということを、誰もが具体的にとらえることができえいるので、他のメンバーの踊りも、深く独創的になっていく。
なんだか場がとても「あたたかい」
私はというと、一度カラダを落として死ぬ・・・まさにその時、這って近寄ってくるレンちゃんのぬくもりを感じた。そして気づけばレンちゃんが私のカラダにつかまり立ちをしている気配。
その小さな手の温もりが私のカラダを包み込み、
愛おしい~!
思わず抱きしめようとするが、師匠の声
「触れないで、空気のように受け止めて」
そうか、現実の愛おしさではない、もっと深いところで、生まれて6か月のレンちゃんと繋がることが求められているのだ。
そのあと、私の髪を引っ張り始めたレンちゃんの、その魂のその深さを受け止めて、私は立ち上がる。
と、隣で踊っていたサトシ君が、同じ速度で立ち上がっているのを感じることができた。
その場にいるすべてのもの、空間のすべて、そこには見てくれている人、レンちゃん、そして一緒に踊っているサトシ君も存在していて、
受け止め、受け止められ、深くつながり、そこにいることをカラダで伝えカラダで受け止める。
その夜の稽古は、と言ってもこれは一週間も前の金曜日のことなのだが・・・
まるで羊水の中に沈んでいるような、ぬる~い、密度のたか~い、稽古の夜になりました。