あたまがすうすうするよ
西北西へ走る電車の中で、私は友達のお喋りに相槌をうっている
外は木枯らしが吹いているけど
冬の午後を緩める日差しは私たちの後頭部に当たり
2人の短い影が足元で揺れていた
電車が揺れ
喋る友達の肩が揺れ
相槌を打つ私の頭が揺れ
二人の短い影が足元で揺れていた
矢継ぎ早に語られる断言
「そうめんは噛んではダメです。飲み込むのです。それでこそノドゴシを楽しむことが出来る。日本の文化だから噛んだらアカン」
アクセントを「カ」に置いて「アカン」という
その歯が白い
そうめんって今冬やし・・・
矢継ぎ早に続けられる断言
「東南アジアの市場に行ってみぃ。貧困が帝国の覇権主義を残留させてるから。日本人はアジアの貧困を見に行くべきです。」
見開かれた二重の瞳。薬師丸弘子に似てる??
その東南アジアに行く旅費も稼げない私の貧困はどうなるんや・・・
矢継ぎ早にもらされる悲しみ
「Hは高校生になってから野菜しかたべないって決めたの。母親の私への反抗かもしれないと思ってる。難しいね。こどもは」
ショートカットの髪がふわっとした
うちの子の反抗は茶髪にピアス。わかりやすいけど・・・
矢継ぎ早に飛んでくるおしゃべりに私のだるい相槌は
電車の振動と重なり
後頭部の日差しに温められ
車窓に移る北風とともに雑木林を舞い上がり
もう眠たいよ
もう寝かせてください
相槌がうまく打てない
矢継ぎ早に浴びせられる友達の言葉に
私はいつもたじろぎ
それでいて言葉の波動をうまくかわし
まともに受けないよう
私が傷ついたりしないよう
だるく相槌を打つ
なので
もう眠たいよ
もう寝かせてください
目が覚めたら今度はまっすぐ相槌を打ちますから・・・
電車は神社のある駅で止まり
開かれたドアから北風が吹き込んできた。
北風は
坂の下の神社辺りの空気から枯葉を一緒に連れてきて
くるくると
二人の影を写した足元に
くるくると枯れ葉を
くるくると回し続けて
後ろ手にドアを閉めてしまう
車内を彷徨って
枯れ葉は
私の黒い靴に張り付いて
制止した
枯れ葉には確かに言葉が書かれていて、
制止した私の黒い靴がそれは友達からの葉書だと知らせていた。
枯れ葉を読む
でもそれは私が待ち続けていた葉書ではなかった。
去年届いた友達からの年賀状
「今カナダにいます。地球の美しさを守るのために私に出来ることがもっとある。そんな思いを強めています。」
の続きを私は待っていたのに・・・
「1月3日妻が逝去いたしました」
そんな言葉を待っていたのではない。
去年の年賀状の続きを待っていたのだ。
枯れ葉を握る
目が覚めたら今度こそ
きちんと相槌打とうと
寝る前に私は友達と約束したのだから
目が覚めると
矢継ぎ早に浴びせられていた友達のおしゃべりは聞こえず、
気づけば
足元に私の影だけが揺れている。
パズルのピースが一つ見つからない。
私のあたまを形付けられいたパズルの
一片のピースが消えてしまった
四国の形のピース
友達は四国の人ではなかったのに
それでもどうしても四国のかたちのピースが見つからない
なので私のあたまは四国の形の穴を開けたまま
西北西に進み続けている
穴の向こうから
移りいく車窓の景色が
雑木林を過ぎて
工場の立ち並ぶ
緑の無い
どぶ川にかかる橋の
景色が
透けて見えて
あたまがすうすうするよ
四国の形の風がふいてきて
足元の影がひとつになってしまっても
後頭部からの日差しの中で
わたしはゆらゆら揺れ続けている。
ピースをなくした頭が
こんなに寒いのに
それでも
ゆらゆら揺れながら
西北西に向かっている
あたまをすうすうさせながら
向かっている
電車に揺られて進んでいく
ルネッサ~ンス
たとえば
夜の闇を裂いて鳴き続ける無数の秋虫の声
数千もの羽から生まれ、夏草と土のニオイとともに宙に沸き立つ
その虫の声が
この夜の闇から抜け出し
今日の昼天空に広がった
硝子のように透明な青の光にむけて放たれたとして
放たれた無数の虫たちの言葉は、
「青空の硝子」と形容したい今日のような硬質な空の面に
形を彫ることができるのだろうか?
唯一この時に鳴く、その必然性を、
昼の光の中でも刻むことが出来るのだろうか?
飛行機が金属の尾翼で削り込んだ直線すら
わずかな時間を待たず
開くススキの穂のように、
青空に舞う光の精霊の息吹を受け
まろやかに、形はぼやかされ、やがて痕跡すら消されてしまうのだから
その虫の声は
たとえば透明な空に浮かんだすじ雲の
柔らかな曲線の中に
溶け込んでしまうだけのものなのかもしれない
吹きかけられた光の精霊の息吹は
虫の必然をかき消してしまうかもしれない
なんて、オバハンは夜中のベランダで、ワイングラスを片手に、夜のあちこちから響いてくる虫の声の情緒に肩入れし、夢想している。
それはまるで「貴族のお漫才」のように主観的ボケをかまし、
「いや、オバハンの切なさを虫にかぶせてるだけやないか~い!」
なんて、突っ込まれることを待っているだけのことで
だから
「ルネッサ~ンス!」
夜のベランダで一人ワインを飲んだりするから、今夜はひとりよがりです。
ちがうかぁ
手をふるひとがいて
ふりむけば
手を振る人がいて
振られ続ける手の向こうで
梅雨空には夕陽が貼り付けられている
ハリツケラレテイタ
玄関の鉢植えのニッコウキスゲのはなが
花ごと茎からもぎとられて
傷を癒すしぐさで
夜の間に盗まれたきいろい花のりんかく
に ふれていた 手
青いにおいが傷口からガスのように噴出し
わたしは後ずさりするのに
夕陽が青く染まるかもしれないのに
おかまいなしで
ニッコウキスゲの傷口をなめた指は
ふられている
フラレテイタ
その手は
文字通りの爆撃のさなか
南の島の土をかたくにぎりしめ
死にゆく友の腕をつかみつづけ
あるいは
銃のおもさ
に ふるえる
その手
が
おかれたのだ
私
の
あたまに
だからぬくもりがわたしをみたしたの
だからいい子になりたかったの
だからひねくれたりはしなかったの
夜の間に
ニッコウキスゲのきいろい花は
盗まれてしまったから
ルリヤナギがムラサキに咲いて
夕陽があおく染まっても
手を振るのをやめない
ふりむけば
手を振る人がいて
夕陽は青く染まる
前に
手を振る人の背に沈もうとしている
シズモウトシテイタ