桃の節句は酢に溶けてしまって
桃の・・・日の・・・ちらし寿司の・・・
酢の匂いが部屋に充満し
酢の粒子が体の全部の呼吸に紛れ
体内に流れ込み骨を骨抜きにし
それは骨ばかりではなく血液も・・・
血液ばかりではなく真実も・・・
真実ばかりでなく現象も・・・
現象ばかりではなく戯れすら・・・
骨抜きにし
すっぱい匂いのふにゃふにゃの私が
ちらし寿司を作る朝
の光
桃の・・・節句・・・
3月3日は女の子の日。5月5日は男の子の日。
4月4日は? オカマの日!!
なんて、4月4日生まれの私は冷やかされたりした
ゲイがまだキッチュな魅力を持っていた時代に・・
女と男のズレの在処に生まれた日を持っている私の生。
生ぬるい3月の湿気を帯びた朝
生ぬるいベッドタウンのマンションの一室
生ぬるい酢の粒子を孕む吸気の中
作為の中を歩き続けるしかない時間に
闇を見ることもなく目を瞬かせるしかない朝に
ズレの在処に生まれたはずの私の固い肢体は
3月3日に混ぜ続ける寿司飯の
その酢の吸気を狂気のように呼吸し
骨を骨抜きにし
血液も・・・真実も・・・現象も・・・戯れすら・・・
だから
ふにゃふにゃになってしまった私の肢体は
3月の朝の空気の中
突然目覚めたりする
あなた
おでんの大根に味が沁みこむまでの間に
わたしは
何度も指を折るだろう
何度も空を見上げるだろう
何度も曇天を渡る風を感じるだろう
おでんの大根に昆布だしのかおりがうつり込んでしまうまでの時に
わたしは
夕食までの時間を計算するだろう
生まれてからの日々を数え上げるだろう
死ぬまでの日のカウントダウンを始めるだろう
退屈な夕方の空気を割って
曇天
空をからすが横切っていく
あなたもおでんを炊いたのだろうか
カゾクのために
仕事を終えて遅い夕食の準備
あなたもおでんを炊いただろうか
その時去年で終わってしまうカウントダウンを知っていたのだろうか
あなたのことだから
大根は
皮をむき
面取りをし
隠し包丁をいれ
米のとぎ汁で下茹をし
沸騰する前に昆布を取り出しただし汁で
その時この空を見上げただろうか
おでんの大根には一緒に炊いている蛸のコクも沁みこんで
大根なのだか昆布なのだか蛸なのだかわからない味が醤油と塩で絡められていて
だから
なんだかわからないにおいが
退屈な夕方の空気を割って
換気口から
曇天
空に流れ始め
一緒に
数え上げれた生まれてからの日々の記号が音符のような羽をつけて
換気口から流れ始め
夕方の空気の向こうのからすの飛ぶ空の下に
それらは羽を休めて落ちていこうとするのだがどうしても
うまく着地することができないようで
大根のかおりは空に溶け込んでも
いつまでも
夕方の空気の向こうのからすの飛ぶ空に
記号だけは羽をつけたまま
刻み付けられ続けている
大根がぐつぐつ煮え
刻まれた記号は剥がすこともできず
大根はおでんのにおいに整えられてしまい
記号は空から私を見下ろし
大根を食べる時が迫ってきて
あなたなら
記号をうまく着地させてから
カゾクの食卓におでんの大根を
煮崩れもせずおでんの味に調えられた大根を
差し出すことができただろうか
広がる曇天の
わずかの隙間から西に落ちていく陽がこぼれ射して
記号が求める謝罪に
応えなければいけないのは
わたしなのだ
と
知ることができたのだろうか
今夜の我が家はおでんです。
熱燗でいっぱい。
いっただきまーす
箱
3つめの箱も開けてしまえ
と君が言う
ロジックが固くて手に力が入らない
と私は言う
空は秋の色に青く
ウロコ雲なんかを散りばめているというのに
美容室の南向きの天窓から
あたたかな光が
ひざかけを包み
私の髪は脱色されていく
老人のように真っ白になってしまった髪は
魂を悪魔に売り渡してしまった役者のようだ
3つめの箱の中身は知らないんだ
と君が言う
認識できないものは開けたりできない
と私は言う
すっかり葉を落としたケヤキの木の枝に
残された2枚の葉が巻かれ
各々一匹ずつの蓑虫がもぐりこんでいる
葉に篭る必然はあるのだろうか
冬が寒いとは限らない
北風が吹くとは決まっていないというのに
3つ目めの箱に何が入っていたらいいのか?
と君が尋ね
何も入ってない可能性はないのか?
と私は尋ねる
だって
白髪の役者の髪をしたからといって
蓑虫の必然を嗤うことなんてできないじゃない
だって
空でウロコ雲が泳いでいるからといって
安心なんかできないじゃない
3つめの箱は開けられる前に
12月の風が暖かな光を奪いにくるかもしれない
それでも
箱を開けろと君はいう