世田谷美術館コレクション選「器と絵筆、魯山人、ルソー、ボーシャンほか」を観た!その2 | とんとん・にっき

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世田谷美術館選
「器と絵筆 魯山人、ルソー、ポーシャンほか」

 

「世田谷美術館」

 

世田谷美術館選
「器と絵筆 魯山人、ルソー、ポーシャンほか」案内板

 

世田谷美術館で、世田谷美術館コレクション選「器と絵筆 魯山人、ルソー、ボーシャンほか」展を観てきました。

 

ここでは「その2」として、今日も絵筆を手に―アンリ・ルソーと、「素朴」な画家たちの多彩な世界、を以下に載せます。

 

なかでも久永強のシベリア抑留を描いた作品は、特に解説の文章を入れました。シベリア抑留といえば香月泰男の作品が有名ですが、それと比較するもいいかもしれません。

 

今日も絵筆を手に

―アンリ・ルソーと、「素朴」な画家たちの多彩な世界

 

1.画家宣言―アンリ・ルソー

アンリ・ルソーが「税関史」と呼ばれるのは、パリ市の入市税関に22年勤め、その間に絵を描き始めたからでした。描き始めたのは、1884年40歳の頃。すでに10年以上税関に勤め、妻クレマンスと9歳の娘、5歳の息子がいました。この頃創設されたアンデパンダン展に、ルソーは85年より作品を出品します。無審査無償のこの公募制度は、わずかな会費と出品料さえ払えば、素人であろうと作品を展示することができたのでした。この発表の場で、ルソーはありとあらゆる嘲笑を浴びています。「10歳の子どもの作品だ。」「目に涙をためて笑っていないものはひとりもいなかった。」と酷評されながら、ルソーはその記事を大事にとっておきました。「サン=ニコラ河岸から見たシテ島」はこの頃の作品。手ひどい嘲笑にもかかわらず、ルソーは90年アンデパンダン展に「私自身、肖像=風景」を出品しています。前年に開かれたパリ万国博覧会に感激して描かれたこの作品は、サン=ニコラ河岸と同じセーヌの岸に立つルソーその人です。この河岸には、当時入市税関があり、彼は自分の職場に「画家」として立つ自分自身を大きく描いたことになります。それは、ルソーによる「画家宣言」といってよいでしょう。
そんなルソーに最初に注目したのが、劇作家アルフレッド・ジャリでした。ジャリは、自分が編集を任されていた文芸誌「リマジエ」のためにルソーに版画を依頼します。油彩画「戦争」(1894年)を下敷きとするルソー唯一の版画作品は、民衆版画とともに、雑誌に挟み込みのかたちで発行されました。
ルソーの絵画を真剣に評価したのは、パブロ・ピカソ、ギョーム・アポリネール、ロベール・ドローネーといった若き前衛画家、詩人たちでした。すでに60歳を超えていたルソーは、間もなく死を迎えますが、彼らのルソーに対する敬意は死後さらに深まり、ピカソは、4点のルソーの作品を所蔵し生涯手元に置いています。ドローネーは、晩年のルソーに最も親しかった画家であり、死後の遺品整理を引き受けています。ルソー礼賛は、ドローネーを介して、ヴァシリー・カンディンスキー、パウル・クレー、フランツ・マルクといったドイツの前衛画家たちに伝わり、さらにロシア・アヴァンギャルドに影響を与えるに至りました。

 

アンリ・ルソー
「サン=ニコラ河岸から見たシテ島」
1887-88年頃

 

アンリ・ルソー
「フリュマンス・ビッシュの肖像」
1893年頃

 

アンリ・ルソー
「散歩(ビュット=シューモン)」
1908年頃
 

アンリ・ルソー「戦争」1894-95年

 

2.余暇に描く

 

アンドレ・ボーシャン
「地上の楽園」1935年

 

アンドレ・ボーシャン
「花咲く茂み」1943年

 

ルイ・ヴィヴァン
「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」1925年

 

ルイ・ヴィヴァン「凱旋門」1935年

 

オルネオーレ・メテルリ
「楽師と猫」1937年

 

オルレオーネ・メテルリ
「中庭で口論する女たち」
制作年不詳

3.人生の夕映え

 

エーリッヒ・ベデカー
「カウボーイ」制作年不詳

 

4.道端と放浪の画家

 

ウィリアム・ホーキンズ
「スネーク・レスラー」1988年

 

ウィリアム・ホーキンズ
「バッファロー6」1989年

 

5.才能を見出されて―旧ユーゴスラヴィアの画家

 

イヴァン・ゲネラリッチ
「ダブル・ポートレート」1964年

 

イリヤ・ボスイリ
「海の生物と鳥」1967年

 

ミーヨ・コヴァチッチ「焼き物師」1962年

 

イヴァン・ラブジン「雲」1987年

 

イヴァン・ラツコヴィッチ
「散在する村落」1983年

 

6.絵にして伝えたい―久永強

熊本でカメラ店を営み、クラシック・カメラの修理にかけては一級の名人といわれる腕前を持っていた久永強。もともと音楽が好きで、50歳を過ぎてチェロを始めたものの満足がいかず、60歳から絵を描き始めましたが、ある展覧会がきっかけとなり、自ら封印していたシベリア抑留の記憶が一気に噴き出します。1987年下関の個展で見た画家・香月泰男の「シベリア・シリーズ」。見始めると夢中になり、疲れた足から靴を脱ぎ手に持ってはだしのまま、何時間も見続けたといいます。そして久永が到達した結論は、「私のシベリアはこれではない。私のシベリアを描かなければならない」というものでした。描くうちに、無念のままに死んでいった戦友たちの顔が続々と現れて、「俺も描いてくれ」と言い出したと久永は語っています。黒い躯となった人物のひとりひとりが、久永にとっては、名前のある友人たちでした。ほとんど骨身をけずるようにして描き続け、肺炎を起こし、43点を描いたところで、ドクター・ストップがかかって一連の「久永シベリア」は終了します。そしてカメラの修理を依頼しに訪れたある画廊主の目に留まり、東京で展示されることになりました。その作品は、久永が1点1点につけた詞書とともに訪れた人々に忘れがたい印象を残しました。

素朴な画家たちのなかには、どうしても描いておかなければという強い思いに引き込まれ、作品を残した人々がいます。すたれゆく筑豊炭坑の歴史を描いて、近年世界記憶遺産の登録された山本作兵衛は、その作画の動機を、「文字にすれば読みもせずに掃除のときに捨てられてしまうかも知れず、絵であれば一寸見ただけで判るので絵に描いておくことにした。」と語っています。広島の原爆の絵の募集に応じた広島市民による多数の作品も同じ動機から描かれたものでしょう。絵にして伝えなければという彼らの思いの前には、習得を要する絵画の技術や技法は問題にならないといえるでしょう。

 

久永強
「堪え忍べダモイ(帰還)の時まで」
1994年」

 

久永強「鬼の現場監督」1993年

 

久永強「生ける屍」1993年
 

久永強
「青年将校、我が指を切る」
1993年

 

久永強
「慰問団来る」1993年

 

久永強
「バザールの帰り」1994年

 

久永強「力尽きて」1993年

 

久永強「霊安室」1993年

 

久永強「翼が欲しい」1993年
 

7.シュルレアリスムに先駆けて

 

セラフィーヌ・ルイ「枝」1930年

 

モリス・ハーシュフィールド
「母と子」1942年
 

「アンリ・ルソーから始まる―素朴派とアウトサイダーズの世界」

世田谷コレクション選集(第2版)

編集・執筆:遠藤望、加藤絢

発行日:2013年9月14日

発行:世田谷美術館

 

日々愛され使われた器、今日を生きるため描かれた絵画

本展では、世田谷美術館の柱をなす北大路魯山人の器と、アンリ・ルソーなど「素朴派」といわれる人々の作品を紹介します。

篆刻、書画、陶芸、また料亭のディレクションなどを自在に手がけた才人ながら、毀誉褒貶の激しかった北大路魯山人(1883-1959)。そんな作家を長年支援した世田谷在住の実業家・塩田岩治が、妻サキとともに愛用した味わいぶかい魯山人の作品は、「塩田コレクション」として当館に寄贈されたものです。

ルソーやアンドレ・ボーシャンといった素朴派の描き手たちは、おのおのの人生を歩むなか、独学で表現を追求しました。不思議な魅力をもつ彼らの作品は、生きることと表現することとの分かちがたい結びつきを示すものとして、当館の活動のシンボルにもなっています。

本展では、魯山人の陶磁器など約50件、フランス、東欧、米国、日本などで生まれた素朴派絵画から約50点を精選。展示室の窓外に広がる砧公園の自然も楽しみながら、日々創造的に生きることに思いを巡らせる、またとない機会となるでしょう。

 

「世田谷美術館」ホームページ

世田谷美術館 SETAGAYA ART MUSEUM

 

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