山下裕二の“日本美術”の誕生!~幕末から明治時代「激動の美術」~を聞いた!
叡智と経験を結集した、最新にして不朽の美術全集。
日本美術全集 全20巻
編集委員:辻惟雄、泉武夫、山下裕二、板倉聖哲
第6回配本「激動期の美術〈幕末から明治時代前期〉」
責任編集:山下裕二
開国とともに西洋から強烈な刺激が押し寄せ、伝統的界画のやまと絵、浮世絵、さまざまな職人芸にも影響がおよんだ。高橋由一・五姓田芳柳・原田直次郎らの油絵、冷泉為恭・塩川文麟・狩野芳崖らの仏画や屏風、月岡芳年・河鍋暁斎・小林清親らの浮世絵夜半が、工芸の分野では柴田是真・白川松哉らの超絶技巧の数々を紹介。
「日本美術全集」刊行記念企画第4弾文化講演会「“日本美術”誕生!~幕末から明治時代「激動期の美術」~」を聞いてきました。平成25年11月2日(土)、14:00から15:30、会場は丸の内、明治安田生命ビルの「MY PLAZAホール」、講師はおなじみ明治学院大学教授の山下裕二先生、主催は当然「日本美術全集」の発行元小学館でした。会場はほぼ満員、山下裕二の人気の高さが分かるというものです。ここ数年、僕は山下の講演や対談を何度か聞いています。「白隠展」「五百羅漢図」「山種コレクション10選」、朽木ゆり子との対談「ハウス・オブ・ヤマナカ」などが思い浮かびます。
さて、司会の女性の方から山下裕二の簡単なプロフィールの紹介の後、いつもの名調子が始まります。まずは安本亀八の「相撲生人形」の話から。熊本市現代美術館で生き人形の展覧会を二度ほど開いている。美術輸送のエキスパート、プロフェッショナルの人形の組み立て。生人形の担当の学芸員は私の教え子、宮沢さん。常国寺?には杉本喜三郎の生人形がある。東大の木下直之さんは「油絵茶屋」の研究をしています。生人形は油絵とともに、見世物興行として使われていた。当時は、「引き札」も商品を売るための宣伝印刷物でした。
高橋由一の「鮭」。教科書に載っているのでよく知られていますが、これは大きい絵です。展覧会で美術を観るとき、スケール感の確認が大切です。フェルメールは小さい。青木繁の「海の幸」、現物は小さかった。「伝源頼朝像」は、実際は足利忠義の像という説が有力ですが、実は等身大です。その逆、「高松塚古墳」の壁画はフィギアサイズです。雪舟の「秋冬山水図」も小さい。由一の「鮭」は大学3年のとき都美術で開催された「近代日本の美術」で初めて見ました。由一はこの絵で何をやりたかったのか。これは紙に描かれたものです。荒縄を細かく描いています。質感を出す、触覚的な絵です。「墨水桜花輝耀の景」や「江の島図」も油絵で描いた。空気感を描くのはちょっとだが、嫉視差、懸命さで描いています。金刀比羅宮は由一の作品を20数点所有している。
由一は美術館構想を持っていました。「螺旋展画閣略図稿」で、会津の「さざえ堂」のような螺旋状のものです。「とーふと焼どうふと油揚げ」、これぞまさに触覚的リアリズムです。焼きどうふのこげ目やまな板の傷など、質感描写がすごい。「花魁」は日本の油絵の原点で、すが、着物の描写はうまくない。高階秀爾先生は鎌倉近代美術館でこの絵を見て、違和感を感じたと体験談を書いています。フォンタネージの作品は、空気が描けています。由一は「ヤニ派」で作品は暗い。一方、ヨーロッパ帰りの黒田清輝は「外光派」で明るい。浅井忠の「収穫」もあります。ワーグマンは横浜でジャーナリスティックな仕事をしていました。「甲冑図(武具配列図)」は靖国神社にあります。
川村清雄は最近評価され始めた画家です。「形見の直垂」は勝海舟が亡くなったときに描いたもの。江戸東京博物館や目黒区立美術館で展覧会が開かれました。早い時期にアメリカやヨーロッパへ行って油絵を学ぶが、日本へ帰ってからは日本的なものを描いています。山本芳翠の「浦島図」、本当に気持ち悪い、その気持ち悪さが気持ちいい。ディテールは細かく描いているが、全体としてがヘン。大好きなヤニ派です。原田直次郎の「騎龍観音」、護国寺の所蔵だが国立近代美術館にあります。護国寺には複製がかけてあります。渡辺幽香の「幼児図」、五姓田派です。五姓田義松の記録画「五姓田一家之図」があります。山本芳翠の「裸図」、原田直次郎の「靴屋の親爺」もあります。
ここからは油絵でないものもあります。狩野派の水墨を基調として金泥が加えられるのみの「釈迦文殊普賢四天王十大弟子図」、成田山新勝寺にある大きなものです。2011・3・11の東日本大震災で開催が遅れた江戸東京博物館での「五百羅漢図」、第22幅と第49幅です。「美術全集」には100幅全部載せました。NHKハイビジョンの動画、増上寺の展覧会の模様です。3年前のものです。文久4年の正月、五百羅漢の盛大な法要です。96幅まで描き終えた数え年48歳で病没、残り4幅は妻・妙安、弟子・一純らが補って完成させ、文久3年(1863)に増上寺に奉納されました。現在、「幕末の鬼才狩野一信 五百羅漢図」が山口県立美術館で開催されています。
黒田清輝はパリのギメ美術館で狩野一信の絵があることを知り、帰国して増上寺に住んでいた妙安を訪れます。若冲は「原色日本の美術」(小学館)ではほとんど触れられていませんでした。菊池容斎の「塩谷高貞妻出浴之図」、元祖ヘアヌードです。今までにない裸体表現です。もうひとつ、血みどろの表現、最近になって研究されるようになった。土佐の高知の「絵金」、重要な作家です。一介の町絵師として描いています。毎年7月には「絵金祭り」が開催されます。月岡芳年の「奥州安達がはらひとつ家の図」、アンコウの吊るし切りです。
日本画で最も大きく取り上げたのが河鍋暁斎です。「書画会図」、真ん中に出っ歯の人がいます。暁斎です。「新富座妖怪引幕」、明治13年6月30日、酔っぱらった後の暁斎は幅17メートル、高さ4メートルの大きな引幕をわずか4時間で仕上げたそうです。先日も河鍋楠美さんと「暁斎展」をやりたいねと話したところです。静嘉堂文庫美術館出開催されている「幕末の北方探検家 松浦武四郎」に暁斎の「武四郎涅槃図」が出ています。暁斎はお雇い外国人のコンドルの絵を教えていました。三菱一号館を設計した人です。「大和美人図」は、暁斎からコンドルの贈ったもので、最近日本に買い戻されました。
この時代の「工芸」は重要です。三井記念美術館で「超絶技巧!明治工芸の粋」を来年開催します。チラシは山口晃君に描いてもらいました。清水三年坂美術館の村田コレクションのものです。大半が海外へ行ってしまっています。村田理如氏の収集によるコレクションのうち、並河靖之らの七宝、正阿弥勝義らの金工、柴田是真・白川松哉らの漆工、旭玉山・安藤緑山らの牙彫や、作者不明の京薩摩や印籠、近年買い戻された刺繍絵などが展示されます。これらを「全集」にも大きく取り上げました。そして「生人形」、「写真」「銅像」等々。また新潟県の三角形の奇想の茶室も。
元々私は室町時代が専門ですが、旧来の美術史を塗り替えなければならないと、常々思っていました。歴史は書き替えていかないと澱んでしまいます。最新の研究のビジュアルを多数載せてできたのではないかと思っています。
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「幕末の鬼才狩野一信 五百羅漢図」
2013年10月10日(木)~12月8日(日)
2014年4月19日(土)~7月13日(日)
三井記念美術館