企業は年始の株高に応え一段の改革を | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

日経平均株価は今年に入り、2112円上昇している(12日、東京都中央区)

掲題の今朝の日経社説。

問題なしとしない。

 

第一に、脱デフレの期待とは数年前ならともかく、

時代錯誤も甚だしい。

 

第二に、投資資金は投機資金の間違いではないのか?

 

まず第一点だが、昨年度(2022年度)に

日銀が2%物価安定目標のベンチマークとしている

コアCPIベースで3%物価上昇を記録済みである。

 

すなわち、デフレ(物価の趨勢的な低下)どころか

インフレ(物価の趨勢的な上昇)こそが、

日本経済の真実であり、繰り返すが、

昨年度に3%もの物価上昇を記録した(過去形)。

 

今年度も2%をかなり超えるコアCPIの上昇率が確実だ

(現在と将来予想)。

 

したがって、日本経済は、いま、

100%デフレ(=物価の趨勢的な下落)ではない。

 

くどいようだが、

それはインフレ(趨勢的な物価上昇)下にある。

しかも、食料品価格上昇を中心として、

日本は米国よりも深刻な生活費高騰の危機

(cost of living crisis)に直面してきている。

 

第二点に関しては、

植田ノミクスと岸田ノミクスは、

インフレ下にあっても、一方で

マイナス政策金利を含む金融刺激策を継続し、

他方で、大幅な財政支出拡大も続けてきている。

 

したがって、将来にわたっても、当面の間、

総需要が過度に刺激され続けて、

インフレ加速や資産(株、不動産、為替レート等の)

バブル増幅が懸念される。

 

(なお、GDPギャップは昨年7~9月期で-0.3%程度だが、

これは推定誤差を考えればほぼ需給均衡とみて間違いない。)

 

特に、名目でも、またインフレを

調整した実質ベースではなおさらのこと、

マイナス金利を所与として

将来の企業配当や企業利益予想を現在価値に割り引けば、

株価は無限大に発散するのは経済理論が教えるところ。

 

繰り返すと、マイナス金利で将来企業の配当や利益予想の流列を

割り引けは株価は無限大に発散する。

これはバブル以外のなにものでもない。

 

特に、今週の日経平均株価の未曾有の高騰ぶり(週間約6%)は、

特に1月の日経平均株価指数先物と

同マンスリー・オプションの満期日を金曜日の寄り付きに控えた

大型投機筋のコール(買う権利)の売り手の踏み上げを狙った

投資資金というよりも、投機資金であることは間違いあるまい。

ちなみに、先週は日経平均株価が小幅下落していた。

 

いずれにしても、今週のマンスリーSQ直前に起きた

日経225の急伸の背景には、

昨年12月19日の日銀会合で示された

「チャレンジ」しない植田日銀による

金融政策の現状維持姿勢であり、

加えて、新年元旦において不幸にも発生した

甚大な能登半島地震によって、

新年1月23日の日銀会合では、

金融政策正常化はおろか、

その端緒となるはずの

マイナス政策金利撤廃さえも

大幅に延期されるのではとの

思惑が背景にあるとみられる。

 

したがって、日経社説の

「企業は年始の株高に答えて一段の改革を」とは、

日本経済の現状とその問題点を大きく外した、

空理空論に過ぎないとの厳しい批判さえ免れまい。

 

ところで、7~9月期の日本GDPは

インフレを調整した実質ベースで3期ぶりの

前期比マイナス成長に陥ったことは周知の事実。

 

(逆に、GDPデフレーターと称する付加価値ベースで見た

国内インフレ率は前年同期比で+5%強と記録的な

物価上昇率を記録した。)

 

なかでも特に深刻な点は、

民間主体の持続的な経済成長のための双発エンジンである

消費と(設備)投資が2期連続で前期比で縮小したことだ。

 

政府・日銀は賃金と物価上昇との好循環という、

それらの悪循環はあっても、

世界の経済学では笑止千万とさえ言える

空理空論の流布に忙しく、

同社説もその応援団の一員のようなのではあるが、

日本経済では消費と投資の悪循環から

明らかに抜け出せていない。

 

そのような中で、資産バブルだけが

舞い上がっているのが現状と見ざるを得ない。

 

その証拠に、10~12月期も、

11月までの家計消費や鉱工業生産などを見る限り、

消費と投資のこれまでの悪循環が

好循環に転じた気配は皆無といっても過言ではあるまい。

 

なお、企業収益と整合的なはずの鉱工業生産は

直近の11月データでも少しも芳しくない。

 

なお、以下の小文字部分は、

昨年末筆者ブログの一部からの転載。

 

鉱工業生産、11月は0.9%下落 3カ月ぶりマイナス | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌 (ameblo.jp)

 

(なお、より深刻だと見えるのは、

設備投資の一致指標といえる資本財出荷も

11月に前月比-6.8%、前年同月比でも-5.9%という

かなりの落ち込みを記録したこと。

しかも、資本財出荷のかなりの前年比割れは

7月以降の5カ月連続の前年比でのダウン!

(事実、過去5カ月間で前年比平均-6.8%という

かなりの前年同月比割れ)

 

したがって、筆者がかねてから主張してきている、

10%消費税率と高インフレ税のダブルパンチ

(正確には両者の掛け算部分が加わることで、

トリプルパンチ)によって、

消費と(設備)投資の悪循環が生まれきており、

インフレとマイナス経済成長の共存から

日本経済はいつまでも抜け出せないとのシナリオを、

今朝の11月鉱工業生産速報値は

いみじくも裏書きしたとも言えよう。)

 

 

最後に、年初の日本株暴騰は、必ずしも、

一時的と見ることは、幸か不幸か、

かなり困難かもしれない。

 

なぜならば、インフレ下において、

マイナス政策金利解除という

金融政策正常化への第一歩にさえ踏み出せない

植田日銀とその子会社の

「親企業」である岸田政権の下では、

そもそも、実質ベースでの大幅なマイナス金利を所与とすると、

企業配当や利益の将来予想の流列を割り引けば

理論的には無限大にまで発散しかねないためだ。

 

世界中で普及する国際マクロ経済学を前提とすれば、

日本での最大級のマクロ経済学上の矛盾を、

日経225指数先物や同オプション等の

デリバティブ取引を駆使する

世界的な大型マクロ・ヘッジファンド等が

見逃すとは考えにくい。

 

それが端的に示されたのが今週の東京株式市場、

より正確には先物・オプション取引を中心とする

大証デリバテイブ市場ということなのだろう。

 

要するに、リーマン・ショック直後に流行ったフレーズに、

「音楽が鳴り続ける限り、

踊り続けなければならななかった」がある

(株価急落で公的資金で救済された当時の

シチィーバンクCEOプリンス氏の言葉。)

 

令和6年年頭の今週から本格化してきたバブル沸騰時には、

「デフレ完全脱却のために、

物価上昇に負けない、賃上げを!」とか、

「賃上げと物価上昇の好循環を!」等との

政府・日銀あるいは日経社説等が繰り出す狂騒曲

鳴り続ける限り、ひとは(投資家は)、

踊り続ける以外にないのかもしれない。

 

もっとも、世界最大級のマクロ・ヘッジファンドであれば、

資金力という腕力が凄いだけに、

最後にババを引くことは滅多にあるまい。

 

最後のババをつかまされるのは、

日本の一般国民や、

我が国の一般投資家だけ

ということにならないことを

願うばかりである…。

 

 

年始から日本株の上昇が目立っている。脱デフレの期待などを背景に投資資金が入っている。株高の流れが持続するには着実な企業収益の成長が欠かせない。そのためにも、企業は資本効率を高める一段の経営改革が求められる。

 

12日の日経平均株価は3万5577円と5日続伸し、1990年2月以来33年11カ月ぶりの高値を連日で更新した。昨年末比2112円高く、6%の上昇率は世界の主要市場で抜きんでている。

 

株高が再び勢いを増したのは海外マネーの関心の高まりが大きい。今春の賃上げを含め、脱デフレの機運や、企業の統治改革に注目する投資家は多い。地政学的に中国を避け、日本を選ぶ流れもある。時価総額で東京市場が上海市場を抜いてアジア首位に返り咲いたのは変化を象徴している。

 

国内では今年、新しい少額投資非課税制度(NISA)が始まった。海外への投資も多いとみられるものの、貯蓄から投資に踏み出す家計の資金が株価底上げにつながっているとみていいだろう。

 

もっとも市場環境が晴れ渡っているわけではない。米国は景気が減速感を強め、今年は利下げを探る。一方で日銀はマイナス金利解除の機会をうかがう局面にある。円高に傾けば輸出企業の逆風になりかねない。世界の地政学リスクも気がかりだ。行き過ぎた楽観は修正を迫られる可能性があろう。

 

株価は企業業績を映す。11日に堅調な決算を発表したファーストリテイリングは株価も最高値だ。こうした増益を続ける企業が広がらねば、中長期に評価は高まらない。実際、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る企業は東証プライム市場でなお4割ある。

 

東証は昨春、PBR向上など企業価値を高める取り組みを開示するよう上場企業に要請した。1月15日からは開示した社名を公表する。これをもとに投資家との対話が深まることを期待したい。

 

自社株買いなど単なる財務的な手当てでは効果は続かない。自らの強みは何か、付加価値を生む分野で設備や人に積極投資する。事業の取捨選択も含め、資本を成長に生かす戦略を磨いてほしい。

 

日経平均は89年末の高値をなお下回る。回復局面もこれまでは海外頼みの構図が強かった。働き手に賃上げで報い、家計もNISAなどを通じて潤う。国内の循環を太くしてこそ株高は健全かつ持続したものになっていくはずだ。