今年もラマダンが一昨日あたりから始まっている。
サウジアラビアでは、夜空の月を観測する宗教家によってラマダン開始が宣言される。
暦の上でおよそ決まっているのだけれど、新月の見え方で微調整されるので「今日かな、明日かな」と非イスラム教徒の私たちさえ、その宣言を心待ちにする。
(正確には「心待ちにしていた」。・・・・・これは過去に遡ったブログ記事です。🙇♀️)
ラマダン=太陰暦(イスラム暦)9月。
この時期にイスラム教創始者ムハンマドがクルアーン(コーラン)の啓示を受けたとされ、そのことを祝い感謝して、
イスラム教徒はいつも以上に自制した生活を送り「断食」する。
夜明けから日没まで、飲食しない。
のどが渇いても、水も口にしない。
太陰暦の1年周期はおよそ354日なので、
太陽暦の上では、ラマダン開始は1年ごとに11日ずつ前倒しになる。
今年は4月初め開始だが、来年は3月下旬開始という具合だ。
当分は春→冬だから、いくらか断食月も過ごしやすいだろう。
断食月が真夏に巡ってくると、サウジアラビアなどの灼熱の国では相当な苦行となる。
かつては脱水症状で倒れてしまう屋外労働者も多かったと聞く。
今は、そういう職業の人たちは例外的に水を飲んでも良いことになっている。
病人、高齢者、妊婦やこどもたちも例外に含まれる。
自制心の強さを示す断食は、以前ご紹介した巡礼と同じく、
イスラム教徒にとってたいへん誇らしいことだ。
中学生になって「僕は今年から断食します」と宣言した教え子の少年の輝かしい表情を今も懐かしく思い出す。
ラマダン期間中、街の飲食店はどこも日中、店を閉める。
非イスラム教徒も、イスラム教徒に敬意を表し、外での飲食を控える。
飲食店以外の店舗もイレギュラーな営業時間だ。
▼こちらの手芸雑貨店はいつもより遅く始まる朝の4時間と夜9時から12時半まで営業。
だから、街に出かける機会はうんと減る。
日中の街は人通りがまばらで、眠ったように静かだ。
(各種お役所の仕事も眠ってしまいがちなので、諸手続きはラマダン前に済ませたい。)
そして、
日が沈みお祈り(マグリブ)が終わると、にわかに街が目を覚ます。
イスラム教徒はイフタールと呼ばれる夕食(断食明けという意味で英語のBreakfast)をとって、食べられることの喜びをかみしめる。
毎日親戚一同が集まって会食するので、「ラマダン前には何百個ものサモサ(春巻きのような揚げ物)を準備する」と知人マダムから聞いたことがある。
各ホテルなどに用意されるイフタール会場、イフタールテントに足を運ぶ人も多い。
お得に食事できて抽選会もあったりするので、私たち非イスラム教徒も時に足を運んで、お祝い気分をお裾分けしていただく。
テーブルにつくと先ずデーツ(ドライ・ナツメヤシ)が振る舞われる。
▼スーパーで売られている各種デーツ
これはムハンマドの断食明けの食事の言い伝えから来るらしい。
砂漠のオアシスでたわわに実る黄金の果実は、いかにも生命力があり栄養価が高そうだ。
この実を乾燥させたデーツは、栄養価と食物繊維が豊富で、断食後の一口目に相応しい濃厚な味わいだ。
最近は日本にも輸入されて、体に良い食物として注目されている。
オタフクソースの材料にも使われている。(デーツはいろんな国から輸入されているが、オタフク社はサウジアラビア産)
デーツ<なつめやしの実> | オタフクソース株式会社 (otafuku.co.jp)
ムハンマドに倣ってデーツと水で胃を労わった後、美味しいイフタールを頂く。
そして夜遅くまで、いや明け方まで、夜通しおしゃべりに花を咲かせる。
断食に耐えるイスラム教徒同志の連帯感も生まれる時間だ。
彼らはお酒を飲まなくてもアラビックコーヒー片手にいくらだっておしゃべりできるのだ。
(ネットからお借りしました)
余談になるが、
アラビックコーヒーというのは、かなり浅く炒ったコーヒー(ほぼ生豆)とカルダモンなどの香辛料を煮詰めたものだ。
初めて飲む人にはかなりインパクトのある味で、試しに日本へのお土産に買ってみたが、
還暦近い友人をして「あんなまずい飲み物は今まで飲んだことがない」と言わしめた。
▼ネスカフェから販売される粉末アラビックコーヒー。ラマダン限定のオマケ・デミサイズのカップ付き。
が、何度か飲んでいるとじわじわと病みつきになり、特にデーツとアラビックコーヒーの組み合わせは格別だ。抹茶と甘い菓子の組み合わせに似ている。
余談が過ぎた。
話を戻すと、
ラマダン期間中の深夜には、海岸沿いの公園で幼い子どもたちがはしゃぎ遊ぶ姿もよく見かけた。
ホテルや広場にイフタール用のテントが建ったりするのも、街に彩りを添える。
スーパーも各店舗もラマダン仕様の飾り付けが施される。
▼「ラマダン・カリーム=ラマダンおめでとう!」と書かれたスーパーの飾り付け
▼ハイセンスな家具雑貨店も益々お洒落に飾り付け。
こんな具合で、街は人々の熱気と祝いのムードに包まれる。
やがて長い夜が明ける頃、朝食(スフール)と夜明け前のお祈り(ファジュル)を済ませて、人も街も眠りにつく。
会社の始業時間もいつもより数時間遅くなる。
今年もそんなルーティーンが始まったらしい。
日中の静けさと真夜中の喧騒と。
生活の不便と祝祭の高揚と。
「ラマダン」という言葉を聞くと、あの独特な街の空気感が甦る。
ラマダンは断食月だけど、ムハンマドが啓示を受けた喜ばしい月なんだ。
ラマダン・カリーム!