犬が飼い主を咬む理由 | タンタンとパパの子犬の社会化ブログ

タンタンとパパの子犬の社会化ブログ

最新のドッグトレーニングと犬猫に関する情報
動物保護のお話など

 

普通犬が本気で咬むのは自分や自分の物・仲間を守るためです。

 

あなたを食べるための『獲物』と考えているなら襲ってくるかもしれませんが、

人間社会で生活していてきちんと食餌を与えられていてそんな状況になるわけはありません。

 

もちろん野犬やトラウマをもった保護犬に安易に手を出せば、

危険を感じて唸り、それでも触ろうとしたら咬むでしょうね。

 

飼い犬でも知らない人が急に触ろうとしたら警戒します。

 

それは犬の警告も分からずに触ろうとした人間が悪いわけで、犬が悪いわけではありません。

 

少なくとも犬の常識では正当な防衛行動です。

 

例外的には『闘犬』が一般的に行われていた頃には、常にイライラさせておいて闘争心を煽り立てられた犬がいて、そんな犬が脱走したら人を襲うこともあったでしょうね。

 

 

では、子犬の頃から育てているのに

手が付けられない咬み犬になってしまったと

飼い主さんが相談してきたらどんな原因が考えられるでしょうか?

 

もちろん脳の疾患というケースもあるでしょう。

 

スイッチが入ると理性の箍(たが)が外れたように興奮して襲ってきますが、

落ち着くととても穏やかで従順なんて個体は東大附属動物医療センターに相談した方がいいでしょうね。

 

てんかん発作で自傷行動が起き、やめさせようとすると咬まれるなどというケースも

専門医による治療が必要です。

 

 

でもそうではなく、ブラシをかけようとすると唸ってそれでも続けると咬む。

 

シャンプーをするために抱き上げてバスルームに連れて行こうとしたら咬む。

 

こういった行動は嫌なことをされそうになった時、咬んだらされなかったという学習から覚えた行動ですから、飼い主が『咬んで嫌なことを回避する方法』を教えたのです。

(負の強化)

 

咬めば嫌なことから逃げられるわけですから、どんどん咬むようになりますよね。

 

最終的にはちょっとでも不信感を感じると咬むようになっても不思議ではありません。

 

こういう手入れや治療行為についてはスモールステップでハズバンダリートレーニングを行うことが大切です。

 

嫌なことを我慢させるのがハズバンダリートレーニングではありません。

それが嫌なことではなく、おやつがもらえるゲームのような楽しいことと印象を変えて、自発的にそれを望むようにするのがハズバンダリートレーニングです。

 

 

ところが「最初が肝心だから主従関係をしっかり叩きこめ!」などと言われ、犬が嫌がることも押さえつけて無理やりやって、逃げようとしたり抵抗したりすると怒鳴る、叩くを続けていると、犬は飼い主が近づいてくるだけで唸り、それでも手を出せば本気で咬むようになるでしょう。

 

咬まれたら「くそっ、なめやがって!」とカッとなってさらに殴る蹴るを繰り返す。

 

咬まれないように棒を使って叩いたり、物をぶつけたりして主従関係を教えてるのだと言いわけしていたら、どんどん関係は悪化していくはずです...

 

 

その気がなかったとしても『咬み犬』を作ってしまったのは飼い主です。

 

ここまで読んで「でも、譲り受けた犬が咬み犬だったら飼い主に責任はないでしょ?」とか

「保護犬を引き取ったら咬む子だったとしたら?」などと言い出す人もいるのでもう一度最初の方で下線が引いてあるところを書きますが、『子犬の頃から育てているのに』という前提の話です。

 

 

 

なんでこんなことくらいで怒るようになったんだろう?

 

なんでこんなことくらいで咬むようになったんだろう?

 

 

トラウマは膨らむからです

 

 

 

過去にゲンコツで叩かれてとっても痛い思いをすれば、その印象だけが恐怖・苦痛・怒りとして残り、その相手が手を伸ばしてきただけでより強くフラッシュバックしてきます。

 

「吠えたから殴ったんだ!俺は悪くない!」

 

そんなこと関係ありません。

 

犬にとっての記憶は悪魔のような形相の飼い主と痛みだけです...

 

「わたしは叩いてない!叩いたのはお父さんよ!」

 

何もかも信じられなくなった犬にとって人間は全て敵に見えるかもしれません。

 

そうなったら誰が近づいてもパニックになることもあります。

 

犬にとって飼い主家族全員がゾンビの群れのように感じられても不思議ではありません。

 

 

そこまでこじらせてしまったのに、

飼い主さんはまるで善意の第三者のようにふるまいます。

 

「わたしたちはいつも友好的に接しているのに近寄るだけで咬むんです」

 

「もうどうしていいのか分かりません。 手がつけられません」

 

もちろんお母さんが叩いたのではないのかもしれません。

 

今ではもう叩いていないのかもしれません。

 

でもお父さんが叩くのを容認していたのは他の家族全員です。

 

自分が盾になって守ってやりもしなかったのに、誰を信じろと言うのでしょう。

 

 

 

そんな飼い主に強制服従系の訓練士たちはあたかも同情しているかのようにこう言います。

 

「ご家族が悪いわけじゃありません。私に任せてください。きっといい子にしてお返しします」

 

 

その言葉は耳触りがよく、悩みに悩んだ飼い主さん家族は藁にもすがる思いでその訓練士に犬を預けたくなるでしょう。

 

しかし問題が飼い主家族にあって、

その原因の元が『主従関係を築かなければ』『上下関係を叩き込む』などという間違った先入観にあるのに、さらにその先入観のである訓練士に預けてしまっていいのでしょうか?

 

その後訓練士がどのような矯正訓練を行うかは別の投稿に書いてあります...

 

 

 

 

そうではなく、まず愛犬を『咬み犬』にしてしまった飼い主家族が反省して先入観や偏見を捨てなければ状況は変わりません。

 

本当ならこう言われるべきです。

 

「ご家族が悪いんです。心から反省しなさい。あなたたちが考え方を改めない限りこの子は返せません...」

 

まぁ、実際はそんなことを言ったら飼い主さんは逆ギレして、せっかくのビジネスチャンスがなくなりますし、応用行動分析学的にも叱って行動修正をしようとすると逆効果なことが多いですからよほど有名で引く手数多な先生でもなければそんな有体(ありてい)なこと言わないでしょうけどね😅

 

 

まずは犬を家族から離し誰も咬まなくても穏やかに暮らせる状況におき、少しづつ人間に対する不信感やトラウマを取り去っていくこと。

 

飼い主家族の考えを根本から変えること。

 

犬が悪かったんじゃない。

犬が私たちをなめてたんじゃない。

犬との間に主従関係なんて必要ない。

犬は私たち人間のボスになろうとなんてしない。

自分たちの行動が『咬み』を強化したのだ。

犬の心にトラウマを作り、

肥大したトラウマが私たちを咬ませているのだ。

 

 

その上で家族が犬に会いにきて、スモールステップで関係を改善していくこと。

 

そういうことが知識的・技術的にできるドッグトレーナー(他にもいろんな肩書きがあるでしょうが)に出会い、相談できたらいいのでしょうね。

 

『咬み犬』を作ってしまったのは人です。

 

犬はそうならざるをえなかったのです...