近年、日本の音楽シーンを席巻し続けた空前のアイドルブームに終焉が訪れるのも案外そんなに先のことではないような気がする。

先日、正式に発表されたYGAとTomato n'Pineの解散宣言に、現在のアイドルブームの終わりの始まりを予感してしまうのは果たして自分だけだろうか。

今後のアイドルシーンを予想するに、おそらく今まで以上に生き残りをかけた壮絶なサバイバルレースが展開されることになるだろう。また来年はかなりの数のグループが活動停止に追い込まれるような気がする。

そんな群雄割拠の中、攻撃こそ最大の防御なりとばかりにひたすらアグレッシブに活動を展開するのがアップアップガールズ(仮)である。

ほとんど毎月のペースで新曲をリリースして定期的にライブを行い、年末には千人規模のワンマンライブも控えている彼女達。そして次回の新曲からはタワーレコードのアイドル専門レーベルであるT-Palette recordからのリリースも決定しているなど話題にも事欠かないアプガだが、実は自分が定期公演に参戦するのは今回が初めてのことだ。

以前までは麹町のTOKYO FMホールで行われていたこの定期公演、今回から渋谷のSOUND MUSEUM VISIONという場所に会場を移して開催されることになったわけだが、この会場、オールスタンディングのライブハウスときいてはじめはさぞかし窮屈な現場を予想していたのだが、いわゆるライブハウス特有の圧迫感があまり感じられず悪くないハコだと思った。

自分はフロアのかなり後方からステージを眺めていたのだが、それでも10列目くらいで観ている感覚だろうか、メンバーの動きや表情もしっかりと見える。

会場に集まったファンの年齢層は相変わらず高めで、自分の横で(仮)Tを着て盛り上がっていた十代の若者達がどこか浮いているようにも見えたが、アプガに限らずアイドルグループがブレイクしていく条件として彼らのような若いヲタをいかに多く獲得していくかというのはたいへん重要な課題だと思う。

いつもながらに複雑なフォーメーションのステージを展開し最後まで見応え充分なライブをこなしたアプガだったが、その中でも特筆すべきはこの日初めて披露された新曲の「チョッパー☆チョッパー」だろう。

曲のイメージは最近のアプガの得意のパターンである攻撃的なデジロック路線で、前作「UPPER ROCK」からの流れを踏襲している。前作を聴いたときも「オーッ、アプガはとことんまで行くつもりだな」と思ったが、今回の新曲からもアイドルらしからぬ過激な姿勢が垣間見える。

今回からT-Paletteに移籍することでタワレコに対する気遣いなのだろうか、歌詞の中に「NO MUSIC NO IDOL」みたいな歌詞が織り込まれていて思わず笑ってしまったが、そういえば会場にはタワレコの嶺脇社長も視察にきていたな。

ライブ終演後はTIF以来の握手会に参戦する。

基本的にアプガに関しては推しメンをつくらずにマクロな視点で長い目で応援していきたいと思っているのだが、ああやって間近で接触すると、そういうスタンスを貫く自信がなくなってくるww

来月始めに開催される新曲のリリイベに参戦したら間違いなく落とされる予感がしてきたが果たして自分はどういう運命を辿るのだろうかww
この日は特に用事もなく、久しぶりに地下アイドル現場の空気が吸いたくなったので真っ昼間から渋谷のDESEOへと向かった。

目当てのグループはasfiとANNA☆Sの二つだったが、ちょうどいい案配に出番がラストのasfiとそのひとつ前のANNA☆Sと並んでいたのでその時間に合わせて入場する。

ANNA☆Sを観るのは6月以来なので結構久しぶりになる。

中学生が遊び半分にやっているとは思えないような歌とダンスのクオリティは相変わらずスゴイと思うが、彼女達のあどけない表情を見ているとそれはアイドルを観ているというよりも、ほとんど親目線になってしまう。

…そして、それは突然ライブの3曲目に歌われた。

「OVERNIGHT SUCCESS」。

こうきたかとwww

以前、物販の特典で貰ったDVDを見て、ANNA☆Sがこの曲を歌っていたことは知っていたけど、まさかこの日にいきなり歌うとは思わなかった。


ところで以前に自分が某SNSで取り上げたテーマに「線聴き」というものがある。

つまり音楽を聴いたりライブを観たりするということは「点」で楽しむことであり、もう一方で音楽を聴き続ける、あるいはライブを見続けるということは、その点と点を結びつけて直線なり曲線なりの「線」にすることであるとそこで説いたのだが、当然その「線」は聴き手として、あるいは観客としてのキャリアが長ければ長いほどダイナミックな軌道を描くことが出来ると思う。

「OVERNIGHT SUCCESS」はこの日、この会場にきていたほとんどすべての人間にとって単に「ANNA☆Sが3曲目に歌った曲」に過ぎないだろう。

しかし自分の意識の中では「OVERNIGHT SUCCESS」を歌うANNA☆Sを見ながら遠く忘却の彼方にある在りし日の東京パフォーマンスドールの姿を思い出していた。

おそらくステージ上のANNA☆Sのメンバーは、いま自分達が歌っているこの曲がかつてTPDというグループによって歌われていたことを誰一人として知らないだろう。

また20年前にこの曲を歌っていたTPDのメンバーも、そのさらに数年前にこの曲がテリー・デサリオという女性シンガーによってスマッシュヒットしていた事実をきっと知らないと思う。

自分の記憶を辿るとテリー・デサリオによるこの曲のオリジナルは80年代にソニーのカセットテープのCMに使用されていてテレビやラジオでも結構よくかかっていた。

また、どういうわけか当時は「日本でしかヒットしていない洋楽」というものが存在しており、この曲もそんな本国のチャートとは無関係に盛り上がっていたエセ洋楽の中の一曲だったように思う。ひょっとしたら、当時、この曲は海外ではリリースされていなかったかもしれない。

そもそも、このテリー・デサリオという歌手からして謎で、この「OVERNIGHT SUCCESS」以降、活動を行っていたのかどうかさえ判然としない。

とまあANNA☆Sが懐かしい曲を披露してくれたおかげでいろんな記憶がよみがえってきたが、自分にはANNA☆Sの「OVERNIGHT SUCCESS」の先にはTPDの姿が見え、またさらにその向こうにはテリー・デサリオの歌声が聴こえてくる。

時空を超えていくつもの「点」がやがて「線」となりつらなっていく不思議な感覚。

このように記憶の破片をいくつもつなぎ合わせることによって、単なるエセ洋楽が時として自分だけの名曲となって鳴り響く。自分にとって「OVERNIGHT SUCCESS」はそんな忘れ得ぬ心の名曲となった。

一方でアイドル自身にとっても忘れ得ぬ名曲というものがある。

この日のasfiのステージでのこと。彼女達のライブで頻繁に歌われ、当然この日のライブでも歌われた℃-uteの「まっさらブルージーンズ」がこのたび公式カバー曲としてアップフロントに正式に認められ、来月リリースされるasfiのミニアルバムに収録されることが決まった。

しかし公式カバーとはいったいどういう意味なのか?

今まではずっと非公式でアップフロントにバレないように歌ってきたということなのだろうか?

それはともかくasfiがこの曲をレパートリーにするようになったのは朱音が加入してからのことである。

細かい事実関係は省くが彼女がいなかったらasfiが「まっさらブルージーンズ」を歌うことはおそらくなかったはずである。

この日のMCで朱音は自分がこの世界に入って最初に歌った曲が「まっさらブルージーンズ」であり(つまりそれはマムでの活動のことをさしている)、当時はこの曲を歌っても誰も沸いてくれなかったのに、今では大勢の人が一緒に盛り上がってくれる…と涙ながらに語っていた。

℃-uteのファンである彼女は、おそらくこの世界に入る以前は何度も自分が鈴木愛理になりきってこの曲をカラオケで歌ったに違いない。

そして初めてアイドルの一員としてステージに上がった一年前の夜も、asfiの中心メンバーである現在においても彼女はこの曲を歌い続けている。

まるでそれは「まっさらブルージーンズ」という曲を通して自分のアイドル活動の轍を線で結んでいるようにも映るが、その「線」が最終的に公式カバーという記録(レコーディング)にまで到達するとは朱音本人も考えてもみなかったことだろう。

こうなってくるとこの「線」が今後、どのような方向に延びていくのかが楽しみになってくる。

次なる展開は℃-uteとの夢の共演なんてこともひょっとしたら…?
先週というか10月の末は23日に発売されたしず風 and 絆の新曲のリリースイベントが都内で連日開催されていた。

自分が最初に参戦したのは24日の15時から秋葉原で開催されたイベントなのだが平日の15時にイベントとかwww

運営もずいぶんと無茶をするなと思ったが、こんな時間でも100人くらいのヲタが集まってきた。

いったい、おまえらは普段なにをやって生活しているのだと聞きたくなるが、かくいう自分も仕事を干して秋葉原まで車で乗り付けて行ってきたわけなのであまり人のことを言えないが…。

会場は神TOWERとかいう怪しげな雑居ビルの三階にあるイベントスペース。場内は狭くフロア内は人混みで溢れている。

自分はかなり遅くに入場したのだが、どういうわけか会場の入り口からステージまでの間に人混みの中にも人間が歩けるような空間というか道が出来上がっている。

なるほど舞台の裏に控え室はなくメンバーもお客さん同様に入り口から入場しフロアを通過してステージに上がるのだ。

ここで注目したいのはしず風ヲタの優良さである。

アイドルがヲタの人混みを掻き分けて入ってくるのだから、これ幸いによからぬことをしでかす輩が一人くらいいても不思議ではないのだが、ここの客にはそういった気配はまったくない。ヲタの民度の低さが何かと問題視されるアイドル現場においてこういう節度のある紳士的な対応というのは見ていて非常に気持ちのいいものである。

実際に彼女達がライブの最中に客席に飛び込んだりすることが出来るのも、そういった意味での信頼関係で両者が結ばれているからなのだろう。

メンバーがステージに上がりライブがスタートする。

新曲「チェッカーフラッグをとめろ」を含む全5曲のセットリスト。

CDをリリースしている歌手とは思えないくらいヘタクソな歌なわけだが、そんなことを問題にしないくらいエネルギッシュなパフォーマンスを披露する彼女達の姿が実に素晴らしい。

オルタナティヴアイドルとでも言えばいいのだろうか、現在のアイドルシーンというのは、もはや既存のスタイルや古典的なアイドルの方法論だけでは括ることの出来ないような特徴をそなえたグループが増えてきている。

しず風 and 絆はそんなオルタナ系アイドルの代表格といっていいグループだが、ほとんどヤケクソともいえるようなそのステージパフォーマンスとそれを支える客席の一体感はおそらく現在のアイドルシーンの中でももっとも熱い現場だといえるだろう。

翌々日の木曜日の夜はCHANCEスタジオに行こうかと思っていたのだが時間的に間に合いそうもなかったので、再度しず風のリリースイベントへ向かうことにした。

会場は中野のTSUTAYA。嬉しいことにうちからだとかなり近くバイクで10分程度で行ける距離である。

DVDの陳列棚を隅に追いやって無理矢理店内にスペースをつくり、そこでライブを行うという状況はなかなか不思議な絵である。

出稼ぎ、ぶっつけ本番、宵越しの金は持たない…といった今回のしず風のリリースイベントにはそんなドサ回り的な雰囲気が立ち込めていて、それはアイドルグループというよりも巡業一座といったほうが似合いそうである。(おそらく全員が名古屋の現役中高生だと思われる彼女達だが当然、この期間は学校は休んで東京にきているのだろうか?)

自分が中野に着いたとき彼女達はちょうど公開リハーサルを行っていたのだが、本番においてそれはほとんど意味をなさない。

出たとこ勝負でただひたすらぶちかます。

しかし、それでいいのである。

狭い店内をマイク片手に縦横無尽に闊歩し沸かせる彼女達のスタイルはアイドルのライブというよりどこかプロレスの場外乱闘を思わせるが、彼女達のライブにおける性急なパフォーマンスはクオリティの良し悪しを越えて見る者の心を打つ「何か」がある。

この日は前々日より一曲少ない中身だったが、それでも十分に満足のいく内容だった。

さらに日曜日、一応この日の昼に渋谷のTSUTAYAで行われたリリイベで今回のドサ回りはすべて終了なのだが、そのあとに駒沢で行われている東京ラーメンショー2012への出演が決まっていて、ラーメンを食するついでに自分はそれに行ってきた。

それなりに大きなステージだったし、当然、一般人を含めたお客さんの数もここがいちばん多い。

こういったアウェーな現場ではいかに普段通りのパフォーマンスを貫くことが出来るかというのが重要なテーマになってくる。

最初に登場した怪傑トロピカル丸も見応えのあるステージを展開したが、やはり会場の沸かせかたでいえば次に登場したしず風 and 絆の比ではなかったと思う。

それはトリに出演したAellのパフォーマンスをも食うほどで、ヲタ以外の一般客がいようがそんなことはお構い無しに例によって客席に乱入し、脚立によじ登りながら歌う彼女達の姿にはちょっとした感動すら覚える。

この日、初めて彼女達の名前を知り、初めて彼女達の歌を聴いたに違いない一般人のお客さん達もすごく楽しそうに彼女達のライブを見つめていた。

マニアやヲタク以外の人達に果たして何を訴えていくか。自分達のやっている活動をいかにして世間に浸透させていくのかというのはアイドルというジャンルに関わっている人間達にとって大変、重要な問題だが、この日のラーメンショーにおけるしず風 and 絆のライブにはそういった命題におけるヒントのようなものがいくつも見え隠れしていたような気がする。

6日間に渡るしず風一座の巡業の大トリを飾るに相応しいライブだった。