この日は特に用事もなく、久しぶりに地下アイドル現場の空気が吸いたくなったので真っ昼間から渋谷のDESEOへと向かった。

目当てのグループはasfiとANNA☆Sの二つだったが、ちょうどいい案配に出番がラストのasfiとそのひとつ前のANNA☆Sと並んでいたのでその時間に合わせて入場する。

ANNA☆Sを観るのは6月以来なので結構久しぶりになる。

中学生が遊び半分にやっているとは思えないような歌とダンスのクオリティは相変わらずスゴイと思うが、彼女達のあどけない表情を見ているとそれはアイドルを観ているというよりも、ほとんど親目線になってしまう。

…そして、それは突然ライブの3曲目に歌われた。

「OVERNIGHT SUCCESS」。

こうきたかとwww

以前、物販の特典で貰ったDVDを見て、ANNA☆Sがこの曲を歌っていたことは知っていたけど、まさかこの日にいきなり歌うとは思わなかった。


ところで以前に自分が某SNSで取り上げたテーマに「線聴き」というものがある。

つまり音楽を聴いたりライブを観たりするということは「点」で楽しむことであり、もう一方で音楽を聴き続ける、あるいはライブを見続けるということは、その点と点を結びつけて直線なり曲線なりの「線」にすることであるとそこで説いたのだが、当然その「線」は聴き手として、あるいは観客としてのキャリアが長ければ長いほどダイナミックな軌道を描くことが出来ると思う。

「OVERNIGHT SUCCESS」はこの日、この会場にきていたほとんどすべての人間にとって単に「ANNA☆Sが3曲目に歌った曲」に過ぎないだろう。

しかし自分の意識の中では「OVERNIGHT SUCCESS」を歌うANNA☆Sを見ながら遠く忘却の彼方にある在りし日の東京パフォーマンスドールの姿を思い出していた。

おそらくステージ上のANNA☆Sのメンバーは、いま自分達が歌っているこの曲がかつてTPDというグループによって歌われていたことを誰一人として知らないだろう。

また20年前にこの曲を歌っていたTPDのメンバーも、そのさらに数年前にこの曲がテリー・デサリオという女性シンガーによってスマッシュヒットしていた事実をきっと知らないと思う。

自分の記憶を辿るとテリー・デサリオによるこの曲のオリジナルは80年代にソニーのカセットテープのCMに使用されていてテレビやラジオでも結構よくかかっていた。

また、どういうわけか当時は「日本でしかヒットしていない洋楽」というものが存在しており、この曲もそんな本国のチャートとは無関係に盛り上がっていたエセ洋楽の中の一曲だったように思う。ひょっとしたら、当時、この曲は海外ではリリースされていなかったかもしれない。

そもそも、このテリー・デサリオという歌手からして謎で、この「OVERNIGHT SUCCESS」以降、活動を行っていたのかどうかさえ判然としない。

とまあANNA☆Sが懐かしい曲を披露してくれたおかげでいろんな記憶がよみがえってきたが、自分にはANNA☆Sの「OVERNIGHT SUCCESS」の先にはTPDの姿が見え、またさらにその向こうにはテリー・デサリオの歌声が聴こえてくる。

時空を超えていくつもの「点」がやがて「線」となりつらなっていく不思議な感覚。

このように記憶の破片をいくつもつなぎ合わせることによって、単なるエセ洋楽が時として自分だけの名曲となって鳴り響く。自分にとって「OVERNIGHT SUCCESS」はそんな忘れ得ぬ心の名曲となった。

一方でアイドル自身にとっても忘れ得ぬ名曲というものがある。

この日のasfiのステージでのこと。彼女達のライブで頻繁に歌われ、当然この日のライブでも歌われた℃-uteの「まっさらブルージーンズ」がこのたび公式カバー曲としてアップフロントに正式に認められ、来月リリースされるasfiのミニアルバムに収録されることが決まった。

しかし公式カバーとはいったいどういう意味なのか?

今まではずっと非公式でアップフロントにバレないように歌ってきたということなのだろうか?

それはともかくasfiがこの曲をレパートリーにするようになったのは朱音が加入してからのことである。

細かい事実関係は省くが彼女がいなかったらasfiが「まっさらブルージーンズ」を歌うことはおそらくなかったはずである。

この日のMCで朱音は自分がこの世界に入って最初に歌った曲が「まっさらブルージーンズ」であり(つまりそれはマムでの活動のことをさしている)、当時はこの曲を歌っても誰も沸いてくれなかったのに、今では大勢の人が一緒に盛り上がってくれる…と涙ながらに語っていた。

℃-uteのファンである彼女は、おそらくこの世界に入る以前は何度も自分が鈴木愛理になりきってこの曲をカラオケで歌ったに違いない。

そして初めてアイドルの一員としてステージに上がった一年前の夜も、asfiの中心メンバーである現在においても彼女はこの曲を歌い続けている。

まるでそれは「まっさらブルージーンズ」という曲を通して自分のアイドル活動の轍を線で結んでいるようにも映るが、その「線」が最終的に公式カバーという記録(レコーディング)にまで到達するとは朱音本人も考えてもみなかったことだろう。

こうなってくるとこの「線」が今後、どのような方向に延びていくのかが楽しみになってくる。

次なる展開は℃-uteとの夢の共演なんてこともひょっとしたら…?