ウルヴァリン:SAMURAI(2013)

※ネタバレあり

【ウルヴァリンの内面に迫った作品】


「日本を舞台に描かれる、ウルヴァリンの新たな戦い!」などと紹介されると、番外編のような印象を受けますが、そのようなことはありません!本作は「X-MEN:ファイナル ディシジョン」から続く正統続編であり、X-MEN及びウルヴァリンシリーズの中でも最もウルヴァリン=ローガンの内面に迫った作品の一つと言えます。

日本の描写など、細かい部分で気になる点はあれど「命の重さ」と「贖罪」というテーマで見ると、本作がウルヴァリンを掘り下げる優れた人間ドラマと気づきます。

【死と向き合うこと】


「X-MEN:ファイナル ディシジョン」から数年後。「恵まれし子達の学園」を離れたウルヴァリンは一人、カナダの山奥へ隠遁していました。人々を守るためとはいえ、自らの手で仲間であるジーン・グレイの命を奪った罪悪感を抱えるからです。

世俗との関わりを絶った彼の前に、来訪者ユキオが現れます。彼女は、雇い主の命でウルヴァリンを日本に招きます。その雇い主とは、かつて戦場でウルヴァリンが命を救ったヤシダです。彼は終戦後にビジネスで成功し財を築きましたが、病に倒れ先は長くはない状態。死を前にして、かつての恩人のウルヴァリンに「特別な贈り物」をしたいというのです。

その贈り物とは、不死のはずのウルヴァリンに「死を与える」というものでした。

「かつて助けてやった礼に、俺の命を奪う?冗談じゃない」

ウルヴァリンは申し出をにべもなく断ります。しかし、心のどこかでその申し出に惹かれる部分を自覚します。不死であるがゆえに、彼の心は孤独。大切な者は皆死んでいく。

もし、申し出を受けることで、死を受け入れることで、この罪悪感から逃れられるなら・・・

招かれたヤシダの屋敷で過ごす夜、ウルヴァリンは何者かに毒を盛られます。

そして翌日、体調が急変し命を落としたヤシダの葬式に参列するウルヴァリン。そこでヤシダの孫娘マリコがヤシダの跡目を巡る権力争いに巻き込まれ、襲撃される様を目にします。

ウルヴァリンはマリコを助けるため、襲撃者との戦闘を開始。しかしそこで、ウルヴァリンはかつてない異変に見舞われます。彼の負った傷が、いつものように再生しない。不死の力「ヒーリング・ファクター」が失われていたのです。

【命を重さ】


ウルヴァリンは正義感が強く、誠実な人物です。だからこそジーンの命を奪った罪悪感に打ちのめされます。

しかし、一方で不死のウルヴァリンは、今まで本当の意味で命を重さを実感することはありませんでした。今回「ヒーリング・ファクター」を奪われたウルヴァリンは初めて終わりある命を実感します。

命を実感すればするほど、ジーンを奪った罪悪感はより鮮明にウルヴァリンの心にのしかかる。本作の最大の敵は、目の前の相手ではなくウルヴァリンの内面の罪悪感なのです。

戦いの果て、ウルヴァリンはマリコを守り切ります、命の重さを知ることは、ウルヴァリンの罪悪感を鮮明にするだけではなく、彼の人助けという善行の価値を鮮明にするものでもありました。

ウルヴァリンは今まで多くの命を奪ってきた。しかし、一方で多くの命も救ってきた。

日本を舞台にした冒険を通して、命の重さを正しく実感した彼は、自らのこれまでの行いを、正しく客観的に評価します。そして、再びジーンの幻影に対峙します。

「俺は君を傷つけた。でも君も多くを傷つけた。仕方なかったんだ。」

ウルヴァリンは自らを赦しました。そして、その様子を見届けたジーンは、満足げな微笑みを浮かべ、光の中へ去っていきます。ジーンの幻影は、初めからウルヴァリンを責めるつもりなどなかったのでしょう。ただウルヴァリンが自分で自分を赦せるようになるまで、傍で寄り添ってくれた。

長きに渡る罪悪感に決着をつけたウルヴァリン。彼は、今までとは異なる重みある一歩を踏み出します。