魔女の旅々(2020)
※途中までネタバレなし。
後半、案内後ネタバレあり。
【マイペースな旅路】

本作の主人公、「灰の魔女」イレイナは、連続アニメシリーズの主役としては特殊。世界各地を旅して冒険譚を記すという夢はありますが、その夢に具体的なタイムリミットはなく、最低限この地区は巡らないといけないといった具体的な目的地もありません。彼女はあくまで、その時々の気分に応じて各地を巡り、時間に追われることなくマイペースで旅を続ける。
だからこそ、彼女は明確な善悪を主張することはありません。光か闇か、善か悪か。分かりやすい結論に逃げず、出会った人々のそれぞれの心情に、同じ目線で寄り添う。それこそが本作の持ち味。
そのような作風だからこそ、イレイナの肩書は「灰の魔女」。
バトルアニメであれば、「正義の探求」
部活アニメであれば「勝ち負けの競争」
がテーマとなることが多い。
上記のような硬派な作品も多い中、本作の良い意味で緩やかで「勝ち負け」「善悪」に縛られない自由な「灰色の」作風は独自の魅力を確立します。
【フェアな主人公】

旅を続ける中で、イレイナは様々な土地で人々の抱えるそれぞれの事情に直面します。失踪事件に翻弄される人々、壊滅した王国に一人取り残された王女、隣町との競争に明け暮れる人々・・・
様々な出会いの中で、善悪で割り切れない振る舞いに終始するイレイナは、よくある主人公像とは異なりますが、かといって視聴者の反感を買うような描かれ方はしません。イレイナがどのような選択を最終的にするにしても、まずは相手の話を聞き、事情を理解しようとするからです。
相手の立場を理解し、更には自らの魔女という立場も隠すことはしない。相手に自分とどう向き合うか選択の余地を与えたうえで、自らの基準で判断を下す。
不意打ちや、数にものを言わせた襲撃などは決して行わない。イレイナのこのような、フェアな姿勢があるからこそ、善悪を超越した立場のイレイナを視聴者は受け入れることができます。
そして、旅人として各地の事情に干渉するイレイナですが、旅人の立場であるからこそできることの描写がしっかりできているのがポイント。
その土地の当事者たちは、時と場合によっては伝統や風習、前提知識から偏った判断を下してしまうこともある。そこにフェアな見方のできるイレイナが旅人として立ち寄り、客観的な視点から問題を解決に導くこともある。
また、旅人という立場だからこそ、毎話、新たに出会う人々とイレイナとの近すぎず、かといって遠すぎるでもない絶妙な距離感は、本作独自の魅力として映えます。
余談ですが、心理学的には、その場限りの出会いの人に、自分の踏み込んだ事情を、意外にも話しやすいという研究もあるようです。付き合いが長い相手には、様々な関係性のしがらみも生まれやすいからでしょうか。
【多彩なエピソード】

1話完結ではありますが、その作風を壊さない程度に、イレイナに憧れを抱くサヤとのドタバタ劇や、サヤとの関係性の変化からイレイナの成長を緩やかに描くなど、さりげない連続性から視聴モチベーションを維持する匙加減も効果的です。
オムニバス形式で描かれる本作は多彩な視点や判断を内包する豊かな作品群。連続ものが大半を占めるテレビアニメにおいて、本作ならではの魅力は数多くあります。
イレイナが向き合う善悪で割り切れない物語群は、我々の生きる現実に重なるように思えます。
この手の一話完結形式の作品は、エピソード数が積み重なるほどに味わい深くなるものだと思います。だからこそ、今最も2期が待望されるアニメ作品の一つと言えるでしょう。
【お気に入りエピソード】
※以下、ネタバレありでエピソード紹介
第3話後半。「瓶詰めの幸せ」
相手の事情を考慮しない押し付けた善意の問題がラストシーンで描かれますが、そこに至るまでの食事の描写で、イレイナへ希望と異なる形で、少年が大盛を与える描写から、彼が善意を押し付ける性格と描写する伏線が光ります。
また、少年が自分の家を自慢げに話すとき、「驚いてほしい」という相手の意図に気づきながら、あえて驚かないイレイナの描写も。善意を押し付ける少年と、たとえ相手の意図が分かったとしてもフェアに、ともすればドライに接するイレイナのスタンスが対比的に描かれます。
また、少年の父が食器を壊した少女を叱責する際に、イレイナは一瞬、少年の父に攻撃をするようなそぶりを見せつつ、食器を修復し、その場の衝突を抑えるのみにとどめます。
これは、たとえここで暴力的な手段に訴えて少女を解放しても、そののち彼女を守れるあてがなかったから。また、僅かなものであっても、少年が成長し、少女を立派に守り抜く未来の可能性を否定できなかったからでしょう。
細やかな心情の機微が光るエピソードです。



