ぼっち・ざ・ろっく!(2022)
ぼっちざろっく

※ネタバレなし

【世にも珍しい主人公】


主人公は「ぼっち」の高校生、後藤ひとり。つまり、話すのが苦手で、友達がいない。彼女は、そんな自分にコンプレックスを抱きます。鬱憤をぶつけるかの如く、唯一興味を持てるギターに打ち込み、中学の3年間を、部活もバイトもせず、ただギターの研鑽に注ぎ込みます。果たして、ギターの腕はプロ級、ただし人付き合いは全くの不得意という世にも珍しい主人公が誕生します。

これは、彼女が信頼できる仲間と出会い、共に「結束バンド」として、ステージに立つまでの物語。

【誰だって他者の心に触れるのは怖い】


本来、この手の作品の主人公は、愛嬌や他者を巻き込む力はあっても、ギターは苦手。仲間との研鑽を経てギターの腕前を伸ばしていく、というのが定石ですが、後藤ひとり=ぼっちちゃんは全くの逆。ギターの腕前は完成され切っているものの、人付き合いで躓きます。

あらすじからして変わったアプローチですが、それこそ、本作が幅広い層にヒットした理由かもしれません。バンドものというのは通常、楽器の演奏、そしてそのための練習が中心となります。詳しい方なら楽しめても、一般の人にはやや敷居が高い。

翻って本作は、バンド活動をテーマとしつつも、主題はぼっちちゃんのコミュニケーション面での成長です。コミュニケーションの問題は程度の差こそあれ誰しも抱えるもの。一見明るく見えるあの人だって、心では葛藤している。ぼっちちゃん程の極端な反応はなくとも、誰だって他者の心に触れるのは怖い。

本作は、そんな葛藤を「正して矯正する」ものではなく「寄り添うもの」あるいは「かけがえのない個性」として描きます。ぼっちちゃんの仲間たちは、ぼっちちゃんの人見知りを無理に直そうとはしません。ただ、そのような個性としてありのままに受け入れます。そんな「優しい関係性」を見ることで、視聴者もまた、内面に抱える「コミュニケーションの葛藤」を、受け入れられた気持ちになる。

コミュニケーションにまつわる、人間ドラマ中心の作劇であったからこその大ヒットと言えるでしょう。

【人をまっすぐに支える、力強い物語】


「人見知り」という個性は、ただ欠点であるだけではなく、「思慮深さ」「思いやり」といった良い側面もある。ぼっちちゃんの人柄を通して、「ぼっち」の意味合いは再定義されます。

悩める人たちの背中を結束バンドの関係性は優しく受け入れ、バンドとしての成長と、力強いメッセージが込められた音楽は、視聴者の背中を力強く押す。

楽しめて、前向きになり、心に残る。

人をまっすぐに支える、力強い物語が、ここにあります。