※ネタバレあり。
エターナルズを久しぶりに見た。
本作がMCU映画内で低調な評価であったことは知っている。しかし、そのような評判を呼んでしまったのは本作がつまらないからというわけではない。
評価が芳しくなかった理由は、本作がMCUの他作品と大幅に作風が異なるという点だ。
MCUは超人を題材としつつもその内面に切り込む「人間ドラマ」に焦点が当たり評価を獲得してきた。
では、本作はどうか。本作にも重厚な「ドラマ」はある。しかし、主役となる「エターナルズ」のメンバーは「人間」ではない。この点が本作を難解にする理由だ。

エターナルズは人類を超えた長寿命と身体能力を持つ存在である。彼らの創造主として「セレスティアル・アリシェム」が君臨し、エターナルズに宇宙の均衡を保つ使命を与える。
難しいのは「宇宙の均衡を保つこと」=「人類を守る」ではない点だ。
何千万年という長期的スパンで宇宙の利とならないと判断されればセレスティアルズは容赦なく「人類」を切り捨てる。しかし、エターナルズは超人である一方で、長きを人類を過ごしたことから容易に「人類」を切り捨てられない。人類とセレスティアルズの狭間。その葛藤にドラマが宿る。
序盤からの描写で彼らエターナルズがどのような存在か描写される。デヴィアンツから親子を守ろうとするイカリスだが、一歩及ばず子供は守れても父親を救うのに間に合わなかった。善性はあれど、救いきれない存在もある不完全さが描写される。セルシは地震で倒れ行く歴史的価値のある石板から子供を守るため、ためらいなく石板を砂に変えて子供を守る。学術的価値を尊重しつつも、人命を最優先する。細かな描写に、不完全な存在ながら人に向ける「情」が描写されエターナルズの暖かな「人間味」が伝わる。
本作は社会に馴染めないマイノリティとしてエターナルズを描くが、『X-MEN』が社会から「迫害」される苦悩を描く一方、『エターナルズ』は強大すぎる力故に、人を救おうにも、どの程度の力で関わればよいか、距離感の分からない苦悩を描く。救おうとして、傷つけてしまうかも知れない恐怖。それが「孤立」に繋がる。
超常的存在の持つ価値観の齟齬をベースに、葛藤するヒーロードラマという点では『シン・ウルトラマン』(2021)や『ウルトラマンオーブ/オリジンサーガ』(2016)といった作品群との共通性も見いだせる。
また、本作の見どころの一つである人類史を俯瞰する雄大な映像美は、エターナルズから見た人類へ向ける眼差しの表現といえる。映像美がドラマにダイレクトにつながる構成はMCUでも新機軸だ。
超人であるはずのエターナルズが「使命」と「情」に揺るがされるドラマはには最後まで引き込まれる。特に終盤でのイカリスの選択には切なさともの悲しさを覚える。強すぎる正義感故の悲劇。頑強な精神性が垣間見せる脆さ、そこに宿る切なさ。ヒーロー映画の結末としては掟破りともいえる。
そもそも、本作のように主役の「超常種族」が人類を保護するというプロットは、主役が偉ぶっているように見え、視聴者から反感を買いやすいリスクがある。しかし本作のエターナルズはそれぞれ、とても「素直に感情表現」する。仲間が悲しめば共に悲しみ、仲間が傷つけられれば怒りをあらわにする。「超常種族」であっても我々と変わらない感情を素直に見せてくれるから我々もエターナルズに好感が持てる。
恋愛にまつわる考えが対比されるセルシとスプライト。軽薄そうな振る舞いに気遣いを覗かせるキンゴ。特に、感情を抑えてきたイカリスが苦悩の果てに、感情を覗かせる終盤は胸に迫る。

MCUの裾野の広さを再確認できる名作ではあるが、MCUだからこそ評価が難しい。
アベンジャーズ中心メンバーが集結する『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)がトニーの「自粛する正義」とスティーブの「行動する正義」の競合を描く「横軸」の価値観の対立なら、本作のエターナルズとセレスティアル・アリシェムの対立は「どの程度の視点の広さで正義を成すか」という「縦軸」の価値観の対立だ。
どちらも名作とは言え、作風には大きな乖離がある。
今後エターナルズがアベンジャーズと合流するにしても、組み合わせやすいようにエターナルズの人間的面を強調してはエターナルズの持ち味が薄れてしまうし、ソーとキャラがかぶってしまうだろう。かといって本作のような超常的存在として描写すれば、アベンジャーズの作風から浮いてしまうかもしれない。
公開からしばらくたって、MCUとのリンクが限られ、続編のアナウンスも無いのはそれが理由なのだろう。
アベンジャーズが常に行動を共にする「家族」のようなチームなら、エターナルズは時々顔を合わせる「親戚」のような距離感と言える。いつも合えるわけではないが、互いに尊重し合える関係。単体の作品として見るには良いが、長い期間で連続的にシリーズ作品を展開するには不向きな作風かも知れない。

しかし、見どころは多い。
時系列は、過去と未来が前後して描かれる。同じ表情、同じ演技で一貫性を保つキャラクターが数千年の時を隔てて登場するダイナミックな演出は、多少複雑な点もあるものの、壮大な世界観を有効に描く。
科学者であるファストスが人類に蒸気機関等の技術をもたらす場面は、「敵を倒す」以外の方法で人々を支えるヒーロー像として斬新だ。(後々大きな悲劇に繋がるが・・・)
また、作中通して脅威として描かれる「ディヴィアンツ」も印象的だ。MCUのメインの敵は人間的な者が主であった。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)のアウトライダーズ等、野性的なヴィランはいたものの、主流となることはなかった。「ディヴィアンツ」は本作通して「野性的」な獰猛さをいかんなく発揮し強敵としての格を保ちつつ、徐々に強化されていく。
最強のはずのエターナルズさえ一瞬の油断が命取りとなる緊張感は唯一無二。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014)の敵兵士は本心を偽る「人間的脅威」が強調されたが、「ディヴィアンツ」の持つ「野性的脅威」は好対照だ。
MCUという背景を武器として大予算で描かれるスペクタクルには一見の価値があるし、セレスティアル・アリシェムの存在感は圧倒的だ。超人が「使命」と「情」で葛藤するドラマは本作ならではの持ち味。本作はヒーロー映画というよりは、その土壌を活用した壮大な叙事詩なのだ。
MCUは、『アベンジャーズ』(2012)『スパイダーマン/ホームカミング』(2017)等の王道のヒーロー映画も素晴らしいが、本作や『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)『ワンダヴィジョン』(2021)といったヒーロー映画らしからぬ異色作も素晴らしい。
未見の方にはぜひおすすめの一作である。


