マネーボール(2011)

※ネタバレなし

【夢破れた先に・・・】

これは、実話をベースとした映画。

2000年代初頭、主人公ビリーは弱小野球チーム、オークランド・アスレチックスの選手のスカウトとして働いていました。彼はもともと将来を有望視される若き野球選手でした。名門スタンフォード大学への奨学金付きの進学を前にしてメジャーリーグのスカウトを受ける。彼は進学ではなく、野球選手としてプロ入りを選びます。

 

しかし、メジャー入りをした後の彼は思うように成績を残せず、やがてプロの道を断念。期待を一身に受ける華々しいスタートを切った彼の「選手としての」野球生命はひっそりと終わります。

彼に残ったのは、安易な判断で無責任なスカウトの言葉に乗せられたかつての自分への憎しみ。名門スタンフォード生として掴めたはずの華やかな将来への喪失感と後悔。

コネを活かすことでかろうじて弱小チームの「スカウト」として野球界に残留し生活の基盤は守られたものの、今度は強豪チームのスカウトに水をあけられる日々。

ビリーが弱小チームのスカウトとして限られた予算を工夫し、将来性のある才能の芽を見出しても、その選手が実力をつける頃には強豪チームのスカウトが潤沢の予算にものを言わせ、その選手を引き抜く。

弱小チームがその予算のなさ故に敗北の悪循環に囚われる一方、強豪チームは金にものを言わせて勝利の好循環を繰り返す。

大金で強い選手をスカウトし、その選手が結果を出し、チームに金が入る。その大金で新たな強い選手をスカウトする・・・

本作の強豪チームのありようは、アメリカという国、ひいては資本主義経済の縮図のよう。

盤石なシステム下で必定の敗北を強いられるビリー。彼の起死回生の一手は「統計学」でした・・・

【起死回生の一手、「統計学」】

ある日、彼は同じ職場のピーターと出会います。彼は名門イエール大学を卒業し、この野球業界に入ったという。

「名門を出て野球業界?変わったやつだ」

ビリーはピーターにかつての自分を重ね、興味を抱きます。そして話すうちに彼が「統計学」の専門知識を持つことに気付きます。

「これしかない」

ビリーはスカウトの新たな手段を思い付きます。

それはスカウトする選手の選定に「統計学」を用いること。

これまでのスカウトは選手としての成績以上に「人がら」が重視されてきました。人当たりは良いか?私生活に乱れはないか?仲間内の評判は?

ビリーはそれらの「人がら」の情報を重視しません。ただ、ひたすらに機械的に選手の戦績の「数字」と向き合います。華々しいホームランはなくとも堅実にヒットを積み重ねる選手。きっちりと盤石な守りを行う選手・・・

冷徹にも見える彼のアプローチは次第に結果を出し始め、初めは懐疑的だった周りの人々も次第に彼への評価を改めます。

【常識を覆せ!】

「数字」のみ評価する方法は冷酷にも見えますが、公平な基準で結果を評価する姿勢は、誠実な姿勢ともいえます。

彼の突飛ともいえる革新的な「統計学」のスカウトの方法論が、旧来の定石を打ち砕いていく様は実に痛快。

本作は実話ベースのストーリー。本作で描かれた出来事をきっかけに野球のスカウトに「統計学」が用いられることは一般化されたそう。

昨日の突飛なアイデアは、明日のスタンダードかもしれない。

野球に詳しくない人にも、アイデアで常識を覆すドラマは十分に心に響くはず。行き詰った際には視点を変えること。最後の瞬間まであきらめないこと。明日への活力となる痛快なサクセスストーリーです。