ボーン・レガシー(2013)
ボーンレガシー

※ネタバレあり

【更なる極秘プロジェクト】


ジェイソン・ボーンとCIAの決戦の末、「トレッド・ストーン計画」内情が世界へ暴露された。強大な陰謀であった故に、その余波は大きな影響を及ぼすこととなる。「トレッド・ストーン計画」とは別口で進められていたもう一つの強化兵士計画「アウトカム計画」抹消の指令が下ったのだ。

「アウトカム計画」はまだ表に出てはいない極秘プロジェクト。しかし、このままでは暴露されるのも時間の問題。CIAの権威の更なる失墜を防ぐため「アウトカム計画」の研究者、被験者、資料。あらゆる痕跡の排除命令が下される。

世界各地で次々と秘密裏に抹殺される関係者達。その中で、刺客の追撃を辛くも回避しながら生還を果たした「アウトカム計画」の被験者、アーロン・クロス。彼は計画のための研究者、マルタ・シェアリング博士と合流。共に逃亡を図るが、彼らの元に更なる刺客が送り込まれる・・・

【ターニング・ポイント】


前作までのジェイソン・ボーンの戦いは、記憶喪失となった自らの過去をミステリー形式で探求し、自らの「アイデンティティ」を組織から奪還するまでの物語でした。

それとは対照的に、本作の主人公、アーロン・クロスは自らの記憶を保持しています。アーロンは全てを理解した上で「アウトカム計画」に志願し、過酷な訓練の果て、組織のための強化兵士として生まれ変わりました。

アーロンと行動を共にするマルタ博士も同様です。

マルタ博士は「アウトカム計画」の内情を知りながら、科学者として被験者の強化のための研究職務に従事していました。

彼らは記憶を奪われたわけではありません。ただ、組織防衛という大義の元に、個々人が考えるべき問題を棚上げにしていたのです。

「アウトカム計画」抹消の指令が下り、二人は選択を迫られます。

【もう一つのアイデンティティ】


自らの主体性を組織へゆだねていたアーロンは、組織の裏切りと命の危機に直面し、自らの「アイデンティティ」を取り戻す戦いを決意します。

マルタ博士は、アーロンとの交流を通じて、自らの研究の結果が他者の人生を捻じ曲げていたという現実へ直面。贖罪のためアーロンを支えつつ、共に逃亡を決意します。

二人の葛藤と選択のドラマは、本作のテーマを浮き彫りにします。

人は誰しも、記憶を奪われずとも、職務と割り切ることで自らの主体性と責任を手放してしまう「弱さ」がある。

自ら選択するという重みと、その責任から逃げないこと。その勇気を持つことで、人は自らの「アイデンティティ」を取り戻すことができる。

ジェイソン・ボーン初期三部作とは異なる角度から「アイデンティティ」の意義を掘り下げるドラマは興味深い内容です。ジェイソン・ボーンとアーロン・クロスの物語を対比することでお互いの個性も際立つ。

スピンオフとしては、一つの理想形と言える内容と言えるでしょう。

 

【続編は・・・?】

 

本作の公開後しばらくして、本作の続編がアナウンスされました。新たな監督として、「ワイルド・スピード」シリーズのジャスティン・リンが起用されるとの話もありましたが、最終的にはマット・デイモンとポール・グリーングラス監督の両名がシリーズへ復帰。

 

オリジナルスタッフを迎え、ジェイソン・ボーン・サーガの新作へリソースは注力されることになり、アーロン・クロスの物語の続編は事実上の中止状態へ。

 

ジェレミー・レナーのアクション俳優としてのポテンシャルは「アベンジャーズ」シリーズのホークアイ役でしっかり発揮されたため、その点は満足ですが、アーロン・クロス役だからこそ表現できた鋭い雰囲気のジェレミー・レナーをもう少し見たかった思いもあります。

 

しかし、テンポに若干の難はあるものの、テーマとアクションをは独立した1作品としてしっかりと描かれ切っています。アクションも初期三部作のリアリティ溢れるテイストをしっかりと継承。未見の方にも是非おすすめの一作です。