スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム(2021)

 

個人的評価:A

※ネタバレあり

【夢の共演、その本質】


アベンジャーズと繋がるトム・ホランド主演

新生スパイダーマンシリーズ第三弾。

本作のトピックと言えば、何といっても、マルチバース設定を利用した歴代のキャストとの共演です。

旧シリーズのドクター・オクトパス、エレクトロ

リザード、サンドマン、グリーンゴブリンといった面々がオリジナルキャストにより帰還。

更に、終盤にはトビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドが、スパイダーマンの当時の設定の「その後」の姿を再演。

ただ、特筆すべきは、そんな夢の共演の中にあって本作が「青春ドラマ」としての軸を失わない点です。

【映画は「失敗」から始まる】


物語は基本、主人公のマイナス面

から始まります。

それは、周りの環境からの脅威であったり

自身の抱える不満であったり

日常への焦燥感であったり

または、主人公の「失敗」であったり・・・

そのようなマイナスからの脱却と成長を

およそ2時間で描くのが、映画の基本と言えるでしょう。本作も、そのような基本に倣います。

本作の冒頭でピーターは戦友のドクター・ストレンジのもとを訪れます。彼の魔法の力で世間の人々から、スパイダーマンの正体がピーターという記憶を消してもらうためです。

第二作「ファー・フロム・ホーム」ラストで

ピーターがスパイダーマンの正体という情報がネット上に拡散されました。

その影響でピーター、そして友人のネッドとMJの大学受験に影響が出てしまいました。「自分だけならまだしも、友人の将来が閉ざされるのは見過ごせない」ピーターの願いは、善意からくるもので、そこに非はありません。

しかし、ピーターはストレンジとの対面の場で「失敗」してしまいます。

ストレンジが魔法で人々からスパイダーマンの記憶を奪おうとする中、ピーターは直前になって身近な人には、スパイダーマンの正体の記憶を残したままにしてと言い出すのです。

ピーターとしての生活を守りたい

しかし、スパイダーマンでもいたい。

そんなピーターの優柔不断な姿勢はストレンジの魔法を「失敗」させ、世界に厄災を呼び込みます。

【選択の代償】


暴走した魔法は、人々から

スパイダーマンの記憶を奪うのではなく
逆に、並行世界からスパイダーマンの

正体を知るもの達を呼び込みます。

並行世界のスパイダーマンとかつて死闘を演じた強敵たちが、ピーターの世界で破壊活動を開始します。

ネッドとMJ、そしてストレンジと協力して

事態の収拾にあたるピーターですが
そんななか、彼の叔母のメイが

グリーン・ゴブリンの手にかかり
命を落とします。

自らの「選択」のせいでメイおばさんを失った。
ピーターは後悔にかられます。

そんな彼のもとに、思いがけない
助けが現れます。

ピーター(トビー)とピーター(アンドリュー)。
彼らは、ピーターとは異なる選択をした
可能性の存在として現れ、彼に選択の意義を教えます。

【ピーター(アンドリュー)の覚悟】


ピーター(アンドリュー)は

かつて自らの選択を誤り
恋人のグウェンを失いました。

 

取り返しのつかない失敗です。
彼はその後、憎しみに囚われ

暴力を行使するまでになりました。
しかし、長い時をかけて自らの行いに向き合い
本作においてMJを救うことで、かつての自分を許すことができます。

あなたの前にAとB、二つの選択肢があります
正しい選択をしたい、そう思うことでしょう
しかし、選ぶことのできるAとBは

どちらも間違いである
そのような瞬間が、人生ではいつか訪れます。

大事なのは正しい選択をすることではなく
どのような結果であっても向き合い、自らの糧とすること。


たとえどれほど時間がかかる苦しみの道であっても、その道を進む覚悟。

ピーター(アンドリュー)の姿はそのようなメッセージを体現し、ピーター(トム)を鼓舞します。

【ピーター(トビー)の理想】


戦いのクライマックス

メイを失った憎しみに囚われ
グリーン・ゴブリンにとどめを刺そうとする

ピーター(トム)を
ピーター(トビー)が止めます。

ピーター(トビー)はかつて

復讐心に囚われた友人ハリーを
救うことができませんでした。

しかしそれでも

目の前の人を救済するという理想を
ピーター(トビー)は捨てない。

そしてピーター(トム)にも

その理想を捨てないでほしい

ピーター(トビー)は、そのような想いで
ピーター(トム)を踏みとどまらせます。

【ピーター(トム)の選択】

戦いを終結させた彼らですが
ストレンジの魔法の余波が収まることはなく
遂に世界崩壊の危機が訪れます。

残された手段は人々から

スパイダーマンの記憶を
今度こそ抹消すること。

それは、ピーター(トム)と友人たち

ネッド、MJとの永遠の別れを意味します。

しかし、ピーター(トム)に迷いはありません
先輩二人の教えを胸に
選択と向き合う「覚悟」と

人を救う「理想」を胸に
かつての師、トニーがしたように
ストレンジに見守られながら

彼は、自己犠牲の選択をします。

【モラトリアムの終わり】

世界の崩壊は、止まりました。
しかし、もはや

ピーター(トム)を覚えている者はいません。

ピーターはMJと再会しますが
MJはピーターを覚えていません。

別れの寂しさ、しかし、それでも
世界を確かに救えたという誇りを胸に

ピーターはコスチュームをまとい
夜の街に消えていきます
次に、誰かを救うために

夢の共演の中で描かれたのは
モラトリアムの終わり
優柔不断が許される少年から
選択の責任を問われる大人への
イニシエーション

「何かを選ぶことは、何かを捨てることである」
そんな当たり前の

しかし残酷な世界のルールへ直面し
少年は、大人となる
そんな素朴な人間ドラマ。

それこそ、本作の本質です。