スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム(2019)
個人的評価:S
※ネタバレあり
【「エンドゲーム」の先の世界】

アベンジャーズの世界で展開する、新生スパイダーマン第二作目。
「エンドゲーム」直後の世界で展開される本作で
ピーターの前に立ちはだかるのは、これまでとは全く異なるヴィランです。
このヴィランこそ、本作の核心を担うものであり
唯一無二のものでもあります。
本作のヴィランを軸に本作の考察を進めていきます。
【ミステリオの葛藤】

本作のヴィラン、ミステリオは極めて個性的な存在です。元々、スターク社のエンジニアとして働いていた彼は、立体映像投影装置など様々な発明をして会社に貢献します。
しかし、自分がどれほどすごい発明をしても、表舞台に立ち脚光を浴びるのはいつも上司のトニーです。
ミステリオを雇用し、研究資金を出していたのはトニーでした。正当な報酬も、映画の描写の限りでは、払われていたのでしょう。
しかし、自分の発明にはもっと価値があるはずだ、もっと報酬があって良い、もっと認められて良いはずだ。
企業に勤めた経験のある人なら、ミステリオの葛藤がわからないこともないのではないでしょうか。
人には誰しも「トップダウン処理」という、思考の癖があります。良いことはすべて中心に立つ偶像のおかげと考えてしまいがちです。(「トップダウン処理」には、悪いことの原因を一つと考える、逆の作用もあります。)
中心に立てないものの葛藤をミステリオは体現します。
そして、何といってもSNS全盛の現代、ネットで拡散するヒーローの勇姿を嫌というほど浴びたミステリオは、承認欲求を肥大化させ、歪んだ野望を持つにいたります。
「俺自身が、世界を欺き、ヒーローになる」
【顕現する偶像】

「優れた技術は魔法と区別がつかない」そんな言葉があります。ミステリオの考案した方法も、まさにそれでした。
彼は手始めに、自分と同じく軽視されてきたと感じ、不満をため込んできたスターク社のエンジニアを結集します。
集結したエンジニアは
それぞれの得意分野を活かして
立体映像、ドローン、映像加工、音響
様々な最新テクノロジーを駆使し
ミステリオという偶像を、実態へと組み上げていきます。
ミステリオの手腕はさながら
映画監督のようです。
ただ、ミステリオの技術は完全なものではなく、わからないということはありません。ほころびや矛盾は存在します。見破ることも可能です。
しかし・・・
「人は、信じたいものを信じる」
ミステリオはそう言って
人間の弱さを指摘します。
「エンドゲーム」で世界は多くのヒーローを失いました。「我々を守ってくれる、新たなヒーローに現れてほしい」そんな人間の心の弱さに幻想を滑り込ませることで、彼は、ミステリオのリアリティを補強します。
そして、トニーを失ったピーターの心の隙を突くことで、ピーターからトニーの遺産、「ドローン制御システム」を奪取し、ミステリオは実態あるヒーローとして、そして最強のヴィランとして、ついに顕現します。
【戦いの決着、そして衝撃の最後!】

人の心をもてあそび、技術で幻想を駆使する
ミステリオは確かに強敵でした。
ただ、彼は一つ、致命的なミスを犯しました。
それは、ピーターを見くびったことです。
「エンドゲーム」で敬愛する師トニーを失ったピーター。しかし、彼は自らの弱さと向き合い、使命感の元、再び立ち上がります。
ピーターには自らの力の意義を問い続け「大いなる責任」と向き合います。
翻って、承認欲求に突き動かされ、力を得ることそのものが目的となったミステリオにはそのような責任感はありません。
「大いなる責任」を持つ者、持たない者
勝敗は、語るまでもありません。
【拡散する「大いなる力」】

勝敗を語るまでもなかったとしても
勝利することで、戦いが終わるとは限りません。
究極の戦いを生還したピーターを襲うのは
ミステリオの残した最後の罠です。
ミステリオは部下に命じておくことで
スパイダーマンの正体がピーター・パーカーであるという情報をネット上に拡散します。
ピーターはミステリオと戦ったときとも、サノスと戦った時とも違う、まったく新しい危機的状況に直面します。
現代はSNS全盛の時代です。
情報を、望めば「蜘蛛の子を散らすように」
拡散することができます。
一人一人がスマホとカメラを利用することで
個人のプライベートを暴き
それを破壊するだけの力を持ちます。
強大な力を与えられ、その力に見合うだけの
「大いなる責任」を
果たして我々は意識できているのか。
影響のわからない技術を行使する我々は
ミステリオと、本当に違うと言えるのか。
本作の後味の悪い結末、最後のシーンは
それを問いかけられているように思います。




