TPPの拡大 候補国の状況と是非(アメリカ中心) | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

イギリスの参加表明によりTPPの拡大に注目が集まりつつありますので、参加候補国の状況を確認しておきます。

<各国の状況>
◯イギリス
先月TPP会合に参加し、来年正式に加盟申請を行う意向であると表明しました。日本もイギリスのTPP加入を歓迎しており、恐らくは2021年内に新規加盟となるでしょう。
日英FTAにおいても秋の臨時国会で審議され、年内批准・1月発効となるのはほぼ間違いないありません。

◯タイ
新規加盟が有力視されていましたが、推進派だった閣僚が交代してしまいTPPへの加盟は遠退きました。逆にRCEPについては推進に積極的な姿勢を見せており、日本を中心とする経済圏よりも中国を中心とする経済圏へシフトしようとしている動きが伺えます。
そういう意味でもタイの重要性は増していますが、菅総理の初外遊はベトナムとインドネシアの2ヵ国でタイは含まれませんでした。第二次政権の安倍総理の初外遊がベトナム・インドネシア・タイの3ヵ国だったことを踏まえると、今のタイの情勢を差し置いてもタイを外遊先から外したのは残念に思います。

◯アメリカ
そして元々署名まで済ませたのに離脱してしまったアメリカですが、今年7月に発効したUSMCA(改正NAFTA)の内容を見ると、トランプ政権でのTPP復帰はまず有り得ません。
USMCAについては過去記事[本日USMCA(改正NAFTA)発効]で説明していますが、TPPとの関係性で重要なのは『原産地規制』『非市場経済国と通商協定を締結した国の追放』の規定です。
まず原産地規制についてですが、USMCA発効により北米3国で付加された価値の比率が、NAFTAの62.5%から75%まで段階的に引き上げられることになりました。
NAFTA時代はメキシコからアメリカに1万ドルの自動車を輸出する際、日本製の部品が最大3750ドル分含まれていても関税0で輸出できたのですが、USMCA発効後は日本製部品は2500ドル分までしか認められなくなるため、「日本が自動車部品をメキシコへ輸出し、メキシコで組み立てられた自動車がアメリカへ輸出される」というサプライチェーンが大きく阻害されることになります。
日本からメキシコへの最大の輸出品は自動車部品で、メキシコからアメリカへの最大の輸出品は自動車ですので、この規定は日本にとっても少なからず影響はあるでしょう。
トランプ大統領はメキシコからの自動車輸入を削減することを念頭にこの原産地規制の強化を進めたわけですが、アメリカがTPPに加盟すると日本・アメリカ・メキシコが同一協定に参加することになり、どれだけ日本製の部品を使用しても原産地規制の対象外になります。

次に非市場経済国と通商協定を締結した国の追放規定ですが、USMCAでは当該国との協定が締結された場合に他の締約国は6か月前の通告によりUSMCAを終了させることができる(その場合、残る2か国間の協定に移行)という規定が盛り込まれました。ほぼ中国狙い撃ちの規定ですが、カナダが中国とのFTA交渉を打ち切ったのはこの規定が大きく影響したものと思われます。仮にアメリカがTPPに加入していればUSMCAから追放されたところでTPPによる繋がりが残りますので、事実上無意味な規定となってしまいます。
このようにTPPに加入するとUSMCAの意義が薄れてしまうため、トランプ政権である限りはアメリカがTPPに加入することはほぼないでしょう。
逆にバイデン政権が誕生すれば、バイデン氏自身がTPPを推進したオバマ政権時の副大統領であり、トランプ政権の否定および国際協調路線のPRという意味合いからもTPPに復帰する可能性は高いと思われます。

<加入の是非>
◯イギリス
過去記事[イギリスがTPPに加入した場合の日本への影響]で示したように、日本にとって有利な条件をイギリスに突きつける形になりますので大きな問題は無いと思います。

◯タイ
タイのTPPにおける重要性は、中国との経済的深化を強めるASEANとの連携強化の意味や、後述しますがTPP内における非イギリス連邦国の増加という観点からも、極めて大きいと言えます。

◯アメリカ
昨日も記事にしたように今や日米貿易協定交渉は日本がペースを握っており、日本にとってアメリカのTPP加入はさほど重要とは言い難い情勢となっています。もちろん前述のとおり、メキシコを絡めたサプライチェーンの復活・強化というメリットはありますが、その他については日本はアメリカからTPPと同条件程度は引き出せる状況です。
対中包囲網の観点からアメリカの加入を欲する意見もありますが、カナダが中国とのFTA交渉を打ち切った経緯からもアメリカがTPPにいないことで対中包囲網をより強めている側面があり、そもそもTPPに参加せずともアメリカが対中包囲網の一翼(というより最右翼)を担っているのは揺るぎない事実でしょう。

また、イギリスの加入が確定的である状況からアメリカも加われば、TPP11+2のうち過半数の7ヵ国がイギリス連邦およびイギリスと関係の深い国となり、日本のTPPにおける地位が著しく低下することになりかねません。
私も1年前であればアメリカのTPP入りを大歓迎したと思いますが、日米FTA交渉の情勢から今ではアメリカのTPP加入にはそれほどのメリットは無いと言い切ってもいいでしょう。

昨日の記事の補足的な内容ではありますが、やはりバイデン氏を大統領に推す理由は無いと思います。