本日USMCA(改正NAFTA)発効 | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

トランプ米大統領が2016年の大統領選の際に公約に掲げていたNAFTAの改正が実現しました。鉄鋼やアルミに高関税をかけると脅す海賊外交の成果ですね。
さて、具体的にどのように改正されたのかを確認してみます。

○自動車関税
これが最大の変更点と言えるでしょう。もちろん域内の関税が0なのは変わりませんが、そのための条件が変更されました。
・原産地規制
北米3国で付加された価値の比率が、現行の62.5%から75%まで段階的に引き上げられます。
簡単言えば、メキシコからアメリカに1万ドルの自動車を輸出する際、改正前は日本製の部品が最大3750ドル含まれていても関税0で輸出できたのですが、改正後は2500ドルまでしか認められなくなったということです。
しかもこれまでは一部の部品については原産地規制の対象外だったのですが、対象外の部品リストがなくなったため実質的には12.5%以上の上昇になります。また、鉄鋼やアルミについては個別に原産地比率70%以上とも定められました。
なおTPPにも原産地規制の規定はありますが、こちらは55%とNAFTAやUSMCAに比べ低くなっています。
・賃金条項
時給16ドルを超える労働者が生産する自動車工場からの部材購入額やその賃金の割合が、40%~45%以上であることが必要になりました。人件費の安い国で廉価生産した場合は関税をかけるというメキシコ狙い撃ちの条項です。

○デジタル貿易
概ねTPPと同様に、デジタル商品の非関税やソースコード開示要求の禁止などが定められました。NAFTAは1992年署名(1994年発効)の協定でしたのでこの規定はありませんでしたが、アメリカ・カナダ・メキシコの3ヶ国ともTPP交渉に参加していたためNAFTA内での見直しは行われませんでした。アメリカのTPP離脱に伴い設定されたという流れですね。

○為替条項
異例の規定です。
「為替政策」に関し、各締約国は通貨の競争的な切り下げを回避すべきであると規定されました。
次いで、「透明性と報告」に関して、各締約国は、月次の外貨準備データ等、月次のスポット及びフォワードの為替市場への介入の実施状況、四半期ごとの国際収支ポートフォリオ資本フロー等の公表を義務付けられました。
さらには履行の監視を行うため、各締約国の首席代表からなる「マクロ経済委員会」を設立し、毎年会合を開いて各締約国のマクロ経済政策及び為替政策並びにそれらの各種マクロ経済変数への影響について検討するものとされました。
『為替条項違反』としていきなり関税引き上げとなる規定ではないと思われますが、各国の金融政策を制限しかねない規定と言えます。
TPPでこの為替条項が盛り込まれるのではないかという懸念が一部でありましたが、TPPでは国有企業の章で『この章のいかなる規定も、締約国の中央銀行又は金融当局が、規制に係る活動若しくは監督活動を行うこと又は通貨政策及び関連する融資政策並びに外国為替政策を遂行することを妨げるものではない。(第17章第2条第2項)』と為替政策を制限しないことが明記されています。

○非市場経済国とのFTA
非市場経済国とのFTA交渉を実施する場合、①開始の3か月前までに交渉開始の意図を他の締約国に通報する、②署名の30日前までに協定の全文を他の締約国に提供する、③協定が締結された場合に他の締約国は6か月前の通告によりUSMCAを終了させることができる(その場
合、残る2か国間の協定に移行)等の規定が置かれました。
「非市場経済国」とは、協定署名時に少なくとも締約国1か国が非市場経済と認定し、かつ、いずれの締約国も当該国との自由貿易協定に署名していない国とされており、事実上中国を牽制するための規定と思われます。わずか3ヵ国しかいないUSMCAにおいて追放規定を設けるという極めて過激な措置となっていますが、アメリカ議会がこれを承認したことからトランプ大統領だけでなく全米的に反中国の機運が高まっていることが見て取れます。

主だった変更点は以上です。公的医療保険制度の見直しが入っていませんが、アメリカは他国の公的医療制度に興味はありませんから当然ですね。未だにTPPお化けを引き摺っている人がいるようですが、アメリカと協定を結んで公的医療制度を変えさせられた国が1つでもあるか、調べてほしいものです。

さて、日本としてはNAFTAがUSMCAに変わることでサプライチェーンの見直しを迫られることになりました。特にメキシコに自動車部品を輸出している企業は確実に大打撃を被ることになります。
2020年~2021年はイギリスとのFTA/TPP参加交渉やRCEPの発効など、抜本的にサプライチェーンが変わる年になりそうです。